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【 Ep.1-025 帰還 】



 帰還用転移スクロールへ少し魔力を籠めると転移魔法が発動し其々の身体光に包まれる。その光景に驚いている間もなく、開拓村からそう離れていない転移石(ポータルストーン)がある場所へと一瞬の間に移動した。流石に村の中へ直接転移する事は防衛の観点からも許可はされていないみたいである。

 俺達3パーティはそのまま開拓村の冒険者ギルドへ向かうと、ギルド前にはどこかで見た様な感じのドーンエルフの男がいた。誰だか思い出せないでいると、その男は此方に気付いて声をあげながら近づいてきた。


「エイジさーん!みんな帰ってくるの遅かったっすけど大丈夫だったんですか?」

「あぁ、なんとか……な。それよりもゼクス、俺が制止したのにアレに魔法バカスカ撃ってヘイト稼いで、皆を危険に巻き込んだ事への謝罪はないのか?」


 思い出した。このゼクスと呼ばれてるドーンエルフの男、最初に「マンハント ハンギング」にぶっ飛ばされて死んだ奴だ。エイジの話を聞く限りでは後先考えずに手を出してヘイトを掻っ攫ったのが原因であんな状況になったのか……。


「うっ……。だってあれ絶対レアモンスターだったでしょ。運よく倒せたら大儲けじゃないっすか?!それに……エイジさん達のその恰好、アイツやれたんでしょ!?そうですよね?俺にも何か分け前ありませんか?」

「いい加減にしろ、ゼクス!アレをやれたのはそこに居るみんなが協力してくれたからだ。それでもギリギリの戦いだったんだ。彼らの協力が無ければ俺達のパーティは間違いなく全滅していた。まだそれだけならいい。だがな、あのままいけば他のパーティも巻き込んで、俺達はMPKを行うパーティの汚名を被るとこだったんだぞ!」


 素直に非を認めず言い訳ばかり並びたてるゼクスの印象は正直最悪だ。仲間を危険に晒し、果ては他のパーティにも迷惑をかけたという事実から目を背け、あろう事か上前迄はねようとは…。

 エイジが声を荒げるのも当然だろう。今回俺達があいつを倒せたのは、3パーティ共目前に迫った危機に対して最大限の協力を惜しみなく発揮した上でそれぞれがベストを尽くした結果だ。エイジの立場からすれば自分達のパーティメンバーが原因となり他の2パーティを巻き込む形になってしまったし、俺が知らないだけで遭遇するまでに他にも巻き込んでいるかもしれない。そうであれば、間接的ではあるが第三者のプレイヤー達を手にかけているのと同義であり、MPKをした集団と言う悪評がパーティ全体に降りかかって今後の活動に影を落としかねないのだ。そのような状況だったところを偶然にも俺達が手を貸した事でどうにか切り抜けられ、結果的に運よくドロップアイテムにありつけただけという気持ちなのだろう。

 それなのにゼクスはそんなエイジの気持ちを土足で踏み荒らしてお零れまで要求する。"悠久"の他のメンバーも話すのはエイジに任せてはいるが、表情は一様に能面の様な冷たい表情をしている。

 俺達"天兎"や"月光"一行も生暖かい表情でゼクスを見ているので、皆思ってる事は大体共通なのだろう。エイジの顔を伺うと眉間に皺をよせ、眉をピクピクと動かしている。


「ゼクス。出発前に受けたクエストの報酬はお前も入れて皆で分配する。だが、アレの討伐報酬については一切合切おまえに渡すつもりはない。これに納得いかないならパーティを抜けてくれ。謝罪の一つも出来ない奴の面倒を俺は見るつもりはない」


 冠に来たエイジはゼクスに冷たくそう告げた。こういうところで言うべき事を言い、取るべき手段を明確に取ったエイジへの俺の中の評価はかなり高くなった。こういった問題をなぁなぁにすれば、次もその又次も似た様な事件を起こす事が目に見えているからだ。エイジにそう告げられたゼクスは放たれた言葉を飲み込んだ後、目を丸くして顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。 


「なっ……なんで……!俺だって……っ!み、みんなも……?!。その……わ、悪かったよ」

「やり直し」


 顔を真っ赤にしてパーティメンバーに縋ろうとするも、悠久メンバーは冷たい眼差しをゼクスにむけるだけであり、そんな光景を見ていよいよ後が無くなったゼクスは、言い淀みながらどうにか謝意を伝えてきたが、すぐにセラにやり直しを命じられる。


「えっ、な、んで……?」

「だからやり直しって言ってるの。それ本当に謝罪だと思ってる?」


 セラの後ろに居るケントとリツは(あー、始まっちゃった)と言い出しそうな顔をして額に手を当てている。"悠久"と"月光"のメンバーも小さく頷いている。


「え?……は?」

「はぁ……ゼロから教えないと理解できないわけ?一体これまで親からどんな躾されたの?学校で何勉強してきたの?そもそも状況踏まえた上でさっきの発言したの?ねぇ?」

「…………」

「"誰"に対して"何がどう悪い"と反省したのか。そして"今後どうする"のかもなしに謝罪だと思ってるの?謝罪の言葉だけ並べれば済むと思ってるの?自分のどこが悪かったのか、次からはどうするのか、なーんも言ってないじゃんキミ。エイジの顔立ててもう一度だけ聞くけど、さっきのがキミの謝罪と受け取っていいの?」


 そう、先程のゼクスの言葉は所詮"悪かった"という単語を置いただけ。そこに本当の反省もなければ謝意すらあるかどうかのレベル。仕方なく言っている感が言葉の節々から滲み出ているようだったのだ。そんなものが許されるのは小学生までだ。身内でも何でもない奴に対するセラの態度はこのゲームに限らず酷薄な事で有名だ。その相手がふざけた態度をとっているとくれば更にその対応が冷たくなるのも当然の事だと言える。誠意には誠意をもって対応するというセラの行動理念は、裏返せば敵意には敵意を持って対応するという極端さも内包しているのだ。

 傍から見れば美少女に言葉責めを受けてるという、一部にはご褒美とも言われかねない状況だが、責められている張本人のゼクスは頭が追い付いていかない。元よりこの手の人種は自分に非がある事を認める事は稀であり、大体は逆ギレするか自己弁護の為の見苦しい言い訳を積み重ねる事が殆どだ。当然セラはそんな下らない戯言に付き合うつもりは毛頭なく、ゴミを見るよりも冷たい目で相手の目を直視する。そんなセラの視線と一瞬だけ目を合わせてしまったゼクスは背筋どころか脊髄に冷や汗が流れる感覚を味わった。それは絶対的強者だけが持ち得る、ゴミ以下の存在へと向けるどこまでも冷徹で酷薄な視線だった。


「……あ」

「もういい。君にこれ以上時間使うのは無駄だし、今後二度と話しかけないでね。悪いけどボク達は先に精算手続きしてくるよ。悠久のみんな、またね」

「俺達もそうさせてもらう。そっちの事はそっちで済ませてくれ」

「あぁ、本当にすまない。此方は此方でケジメ付けさせるから」


 何か言いかけたゼクスの言葉を遮り、ゼクス以外へ先にクエスト精算する旨を伝えて、冒険者ギルド前での揉め事にいつの間にか集まってきていた野次馬連中を押し分けて建物内部へ入る。擦れ違いざまにゼクスが忌々しげな顔を向けてきたが、一瞥すらくれずに無視をした。セラにとってゼクスは最早存在を気に掛ける価値もない、道端の石と変わらない認識にまで格下げされていた。

 "月光"も付き合っていられないと同じ様に冒険者ギルドへ入ってきた。後は同じパーティの"悠久"内で決めればいい話だ。野次馬してた連中も大体の事情を把握していたのか、口々に「あれはねーな」やら「物乞いかよあいつ」等と口に出していた。ただ「あんなご褒美俺もして欲しい!」とか聞こえてきた事は早急に記憶から消したい。


 冒険者ギルドに入り、精算窓口でそれぞれ受注した依頼(クエスト)の納品と報告をしていく。俺達パーティの精算処理をしてくれたのは、偶然にも登録手続きをしてくれたリントさんだった。此方が気付いたのと同様に、リントさんも気付いたようで「あっ」と思わず口から漏らしていた。

 相も変わらず素敵な笑顔で手続きを進めてくれるリントさんに三人共冒険者チョーカータグを渡して処理を終えるのを待つ。隣の窓口では月光の三人も手続きをしていている。


「にしてもさ、さっきのゼクス?だっけ、あれはなかったなぁセラ」

「そうだね、ついエイジに感情移入してちょっと怒っちゃった」

「あの程度で済んでよかったんじゃない?本気のセラの責めに比べたら随分温いなって私は思ったけど」

「そう?でもまぁ、あんな感じのはうちには要らないね。もし身内に居たとしたらって考えるだけで吐き気がするし……。ってそういえば、後誰がこっちで合流するんだっけ?」

「ん~、確か"シキ"に"チグサ"と"シオン"に"ベネマリ夫婦"と"クロさん"に後は"モーリィ"。最後に"寡黙"だな。シキとチグサとシオンは合流して狩りしてるみたい。ベネマリ夫婦とモーリィも合流して狩りしてるけど、クロさんと寡黙はわからん。まぁその内みんな合流すると思うけど」

「んげ。やっぱり寡黙もついてきてるのか……」

「そう嫌がってやるなよ、アイツ単純に人見知り激しいだけで根は悪くはない奴だし」

「それは重々承知してるんだけど、どうにもあの狂信的な空気が苦手でさ」


 冒険者ギルド前での出来事の話題から、今後合流するメンバーについて話しを広げていると、リントさんが慌てた様子で窓口に戻ってきた。


「み、みなさん!アルバの森の主"マンハント ハンギング"を倒したんですか?!大金星ですよ大金星!」


――NPCだと言うのにこの感情の表現力。リントさんは自身がNPCだという違和感を一つも感じさせず、まさに一人の人間がそこに居ると認識させてくれる。そんな技術の進歩の素晴らしさに感心しつつリントさんへと答える。


「はい、ボク達だけでやったわけじゃないけど確かに倒しました」

「あの……それでしたら"マンハント ハンギング"の心臓部に当たる魔晶核をお持ちではありませんか?」

「魔晶核……?」

「ええ、赤く透明で宝石みたいな石です。止めを刺した方の所持品になっているはずですよ」


 リントさんの説明を聞き、LA(ラストアタック)を刺したのは自分のはずなのでインベントリを確認してみると、確かにスクロールした下の方に見慣れない赤い宝石の様なアイコンが確認できた。意識をそこに集中してそのアイテムを確認すると、【魔晶核:マンハント ハンギング】と表示された。


「あった!これですか?」


 カウンターにインベントリから魔晶核を取り出す。アイコンではわからなかったが、ゴトリと音を鳴らして出現したそれは手のひらより大きく、深い赤色を放っていて嫌でも周りの目を惹く。隣の受付嬢ですらチラ見どころか数秒間凝視するレベルだ。


「はい、そちらです。確認の為一度お預かりしてもよろしいですか?」


 リントさんにそう言われ、頷き承諾する。


「ありがとうございます。皆さんには大変申し訳ないのですが、ギルド長に報告を上げたいのでしばらくお時間を頂く事は出来ますでしょうか?」

「それはどれくらいの時間かかりますか?」

「そうですね……。皆様の昇格も合わせて手続きしたいので凡そ30分弱ほど頂ければと思いますが……」


 俺達は顔を見合わせ相談する。


「どーする?」

「待つ時間長そうなら一度ログアウトして休憩取るのもありじゃない?」

「そうだなー、そろそろ飯食べておきたい時間だしな」

「なら、30分程度でお風呂とご飯済ませてこようかな」


 クエストをこなし区切りも丁度いいし、一度ログアウトして夕食とお風呂を済ませてその後の徹夜のゲームに備えよう。三人の考えはここでも一致した。セラは台風接近にかこつけ翌日の有休を無理やり取得していた。リツはフリーのライターなので時間的制約は比較的自由が利く。ケントはニートなので言うまでもない。


「リントさん、それではボク達は30分程度時間を潰してきます。先程の依頼報酬もその時まとめて頂けますか?」

「はい、それは勿論可能です。一旦冒険者タグの返却と此方のカードをお渡ししておきますので、お戻りになられた際に職員へ御呈示下さい」


 リントさんから冒険者タグを返却してもらい、同時に変わった模様が描かれた銀色のカードを受け取る。模様の意味などは良くわかないが整理券みたいなものだろう。そうしてリントさんに別れを告げ俺達は冒険者ギルドを出てすぐの村の広場でログアウトする事にした。


「待ち合わせは大体30分後この広場で。10分以上遅れそうなら現実世界(あっちで連絡する事。それでいいかな?」

「おっけー。俺はインスタントで済ませるからすぐ戻れると思う」

「私は食事は下のコンビニで買ってこようかな。お風呂は予約で沸いているはずだけど、ちょっと時間かかるかもしれない」

「こっちは食事は手軽に作って、お風呂は既に沸かしてあるから大丈夫かな」

「ま、普通に集合できそうだな。俺はシャワーで済ませるし」


 会話しながら広場の程よく空いているスペースに着いた。周囲は他のプレイヤー達にNPCも程よく混ざって賑わっている。まだ狩りに出ていない初期装備のプレイヤーから、順調にクエストをこなしてきた様に見える装備のプレイヤーの集団、自然な表情で日常会話を交わし合うNPC。目の前の光景を見て思わず口元が緩む。


「んじゃ、30分後にまた。おっさきー!」

「それじゃ私も。また後でね」


 ケントとリツがログアウトとすると同時に体が薄く透けていき消えていく。俺もコマンドメニューウィンドウを開き、システムメニューから"ログアウト"を選択。するとログアウトカウントが始まり、10秒後に接続を終了する旨のアナウンスが流れ、目の前が光に包まれホワイトアウトしていく……。


――カウントダウンがゼロと告げたと同時に視界は真っ白に包まれ、身体が空に向けて吸い込まれる感覚に襲われ、そこで一度意識が途切れた。




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