【 Ep.1-024 レジェンドアイテム 】
無造作に転がるドロップ品の山の中、ソレは最も目立つ様に地面に突き刺さっていた。
薄暗い森の中に僅かに刺す光に晒されたアイテム達の中、倒された「マンハント ハンギング」の変貌した時の樹皮に似た黒い柄がドロップアイテムの山の中から突き出ている。柄の石突には赤黒い鉱石が埋め込まれており、まるであの昏く光る赤い瞳を想起させる。
一呼吸ついて柄に手をかけ、一気に引き抜いてその全貌を現したそれは間違いなくハルバードの形状をしており、一目で業物だと分かる空気を纏っていた。セラは両手でそのハルバードを持ち直し、穂先を光に翳して見てみる。
スパイク部はこれまでのニードル形状とは変わり、やや幅広で長めの槍の形状をしており、アックスブレードは計算され尽くしたかのような綺麗な曲線美を円弧を描いている。これまで以上の厚さがある刃以外の部分はオフホワイト色にコーティングされ、奇妙な模様が彫刻されている。フルークはアックスブーレードをかなり小さくした形状の部位に三本の爪に似た刃が突き出ている。何より目を惹いたのは金属部分の刃の部分は全て薄く青紫色に染まっている点であろう。武器というには無骨さはなく、むしろ芸術品だと思わせるような作りにセラは思わず見惚れた。
森羅晩鐘と銘打たれたそのハルバードの等級は「伝説」。間違いなく一級品だ。
キャラクターウィンドウを開き、現在装備しているフォレストハルバードをインベントリへ収納し、新たに手にした森羅晩鐘をメインウェポンへセットしてステータスを調べる。付属効果はユニークアイテムだけあって多い。
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【森羅晩鐘】
アルバの森に、夕闇を告げる鐘の様な慟哭が鳴り響く。音の発生源は漆黒を纏ったかのような樹皮に覆われ、その巨大な体躯を揺らしながら樹々の中を彷徨う。その者あらゆるものをなぎ倒し、踏み躙り、残虐に吊し上げ、大いに恐れられた。
――怪物は屠られ、その内より生まれし一振りの業物は『ありとあらゆる者に終わりの時の音を告げる』。
[武器等級]伝説
[武器種類]ポールアーム
[耐久度]36/36
[生命力補正:小]
[筋力補正:中]
[攻撃速度:2.65%上昇]
[武器防御率上昇:小]
[装備時リジェネレイト発動:小]
[遠距離攻撃耐性:12.1%上昇]
[武器耐久度減少無効]
[闇属性付与:小]
[専用固有スキル:樹々怪々]
マナを消費する事で樹で作られた槍を召喚する。この槍は使用者の意志で操作する事が可能。
消費するマナ次第で本数を増やしたり、強度を調整する事が可能。
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数値の上昇幅は初期エリア産だけあって低めではあるが、効果の数や無駄のない付与効果は破格と言える。ゼノフロンティアのドロップアイテムのシステムは先に述べた等級に付き、幾つかの幅をもって様々な効果の中からランダムに選択されて武器に付与される。同じ等級の似た武器でも、それぞれの武器に付与された能力値は決して同じにはならない。ある程度の等級のドロップ品であれば、最も貢献度の高いプレイヤーに合わせた武具が落ちやすく、またラストアタックによる付与効果の誘導も多少可能となっている。それらの要因の結果ドロップしたこのアイテムはまさしくセラの為に用意された逸品であると言っても過言ではない。
ウィンドウを閉じ、軽めにグリップを握り幾つかの槍の型を試し、演武するように武器を振るってみる。付属効果の補正も働いているのか、以前の武器よりも軽く扱えてそれでいてしっかりと馴染む感触がある。その手応えに満足したので新たな相棒をコイツに決め背中へホールドした。他にも色々な武器防具が落ちているが、まずは1つ選んだのでみんなの場所へと戻る事にした。
「やっぱりセラはそれ選ぶよな!」
「一番目立っていて武器種がハルバードだからね」
周りを伺うと、全員が納得の表情を浮かべている。まぁこの武器使っているの自分しかいなかったし当然なのかもしれない。次は順番的に全体を支えたケントだと思っているのだが、本人はそれに気付いていないのか中々行かないので水を向ける。
「次はケントがとってきなよ」
「ん?リツだと思ってたけど俺でいいのか?」
「最前線で全体支えていたのはケントなんだから私より先に選ぶべきだね」
リツも意を汲み同意してくれる。ケントに限って遠慮なんて事はないだろうと思っていたけど、ケントはリツ達に支援を受けていたから自分は後だと思っていたらしい。確かにそれも間違いではないのだが、支援が途切れがちな危機的状況下でもタンカーをやり遂げた点を踏まえれば、今回はケントの貢献度合いの方が抜けているだろう。
「んじゃ、次俺が選んでくるわ」
言うとすぐに小走りに走っていき、ドロップアイテムの山の中から迷いなくやや大柄な盾を選び取っていた。目を凝らしてみる限り、盾も黒々とした色をしていて、光を反射しないマットな感じの色合いをしている。縁の部分はハルバードと似た様な奇妙な模様が彫られている。恐らくあれも魔造以上の等級に間違いないだろう。盾を手にしたケントは意気揚々と此方へ戻ってくる。
「剣や鎧じゃなくて盾にするの?」
「あぁ。剣も欲しくないわけじゃないけど、パーティで行動する事を考えたらアタッカーはセラなわけだし、俺は攻撃力を求めるより防御面を強化した方が良いだろ?」
良さそうな剣を選ばず迷いなく盾を選んだケントに尋ねてみると、パーティを考えた上での選択だった事をさらりと答えた。確かにソロプレイが多いのなら一番優先するべきは攻撃は防御なりの格言ありきで武器に間違いはないだろう。しかし俺達は既にパーティを組んでいて、今後も基本単独での行動もあまりしないだろう。故にパーティ全体を踏まえて防御の要の盾を選択したのだと。
「ケントにしてはよく考えたね」
「その一言は余計だっての」
「それじゃ次は私かな」
リツもケントと同じようにスタスタとアイテムの山の下へ行き、その中から黒々とした樹で作られた両手杖を選び取っていた。こちらは先端部に昏いながらも赤い輝きを放つ宝玉が埋め込まれている。言うまでもなくその両手杖の等級も決して低くはないだろう。
――その後、悠久メンバーはアヤカ、エイジ、ショウ、バルト、グリフの順に、それぞれ属性付与の掛かった片手杖、刀身が途中で奇妙に捻じれている長剣、黒光りする樹で作られた弓、鈍く光るプレートアーマー、穂先まで黒い槍を取得。月光の三人はザイン、ガーランド、アインの順に、二振りで一セットの彫刻が綺麗な短剣、刀身が真っ黒な大振りの両手剣、直接攻撃には不向きそうな変な形の短剣を取得していた。
一巡目はタンカークラスを除けば皆武器を選択しており、そのどれもが確実に希少等級以上の代物である。付与効果の詳細はそれぞれの所有者にしかわからないが、今回はドロップ元になった「マンハント ハンギング」を素材にしたような武具が多く見受けられる。
二巡目、俺はサイズの合いそうな白黒がハッキリと区切られメリハリのあるデザインをした女キャラ専用のハーフプレートアーマーのセットを選んだ。防具名はセット一式で「白黒の聖乙女」。胸部をしっかりと防護してくれる鎧に肩当は左側にしかなく、腰当部分もなく腰の前後部分の装甲までないが、横部分にタセットが設えてある動きやすさ重視の作りをしている。ガントレットとグリーブは革と金属との組み合わせで作られており、鎧同様に白黒のメリハリが利いていながらも守るところはしっかりと守る堅実な作りだ。腰の後ろ側は尻尾が出るので邪魔なものが無くて助かるのだが、前側もないので下に布製の下着も履いてはいるが革製のショーツが丸見えで恥ずかしい。見る側なら眼福とか言ってられたんだろうけど、今回は自分がそれそのものなので見られる側になるのだ。「パンツじゃないから恥ずかしくない」論を頭の中で高速ループ再生させ、心を平静に落ち着かせる。周りを見ると思い思いの防具を手に取り順に取得していっている。ケントは鎧ではなく、その下に着込むインナー系防具を選んだようで、リツはフード付きのローブを選んでいた。今度のローブの色は若干迷彩柄に見えなくもない濃緑色主体のカラーで、微弱な認識阻害の付与効果が付いているそうだ。
他の二つのパーティもそれぞれケープやらスケイルメイル、マント等各々気に入った物を手に取ったようで、皆一様に新しい装備品を手に入れて笑みが零れている。
二巡した後の装備品はトゲ付きのメイス、鉈の形をした片手剣、植物の蔦をそのまま使った鞭、木製のメットとなどが残った。これらはギルドに帰った後売却し、窓口を通じて人数割りでの等価分配とする事にした。
続いて消耗品と素材だが、中級回復ポーションが20個、中級マナポーションが32個、帰還用転移スクロールが17枚。素材として巨樹の雫が32個、トレントウッドが637個となっている。回復ポーションは最初に吹き飛ばされて傷を負った2名を回復する為に使用した「月光」へ8個補填し、「悠久」は7個、俺達「天兎」は5個補充する事になった。また、マナポーションについては、リツ、アヤカが5本ずつ、アインが3本、気絶した俺の気付けに使った分として1本渡され、残った18個はパーティ単位で分配としてそれぞれに6つずつ渡された。帰還用転移スクロールはそれぞれに1枚ずつ配り、残り6枚を同様にパーティ単位で分配する事にして各パーティ2枚の分配とした。素材に関しては両パーティ共エビルトレントからそれなりに獲得しているとの事で、受け取りを辞退したので俺達で丸ごと獲得する事となった。
落ちているお金は総額で銀貨396枚と銅貨88枚。その辺のモンスターのドロップ単位とは明らかに桁が違う。お金については事前の取り決めにより現場の人数で頭割りする事となり、一人頭銀貨36枚と銅貨8枚となった。間違いなく初期エリアにしては破格の収入だろう。
周囲を見渡すと皆一様に満足した顔をしているので、分配についての不平不満は特にないように見える。後からあの時ああだった、こうだったとなるのは面倒なので、そういう面では不安が少し残るが概ね大丈夫そうである。
そうして分配が終わった俺達3パーティは、このまま徒歩で開拓村まで向かうのは体力が戻ってきているとはいえ、再度似た様な状況下に陥った場合のリスクを考え、ドロップで出た帰還用転移スクロールを使用して帰還する事にした。
今でもDiabloシリーズのPrefixとSuffixの組合せで武器や防具のステータスが決まっていくあのシステムは一つの極致であったとしみじみ思います。




