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【 Ep.1-022 とっておき 】


「ケント、何でもいいからとにかく2分間持ち堪えて!」


 セラは敵前方で必死に回避と防御を重ねて踏ん張っているケントに向けて叫んだ。

 現状グリフとショウにリツが付き、大ダメージを受けたグリフを治療している。ショウはグリフを受け止めきれずに転がった際に足を挫いてしまいリツが治療するまでは動けない。月光の三人にはアヤカが付き、アインから治療し始めているが行動可能になるまでにはまだ時間はかかる。必然的に時間稼ぎを頼む相手は、ケントとバルトの二人のタンカーだけとなる。


「2分でいいんだな?任せろ!バルト、何としても持たせるぞ!」

「あぁ、やってやろうぜ!!」


 意を決したセラの檄がケントに飛ぶ。何をするかは理解していないケントではあるが、セラが2分持たせろと言った以上それに異を唱える気はない。二人共互いを信頼しており、これまで幾つも似たような境遇を潜り抜けてきた仲なのだ。だからこそ、この状況で相手の考えを態々問い質したりはしない。どうしても気になるなら終わった後にでも聞けば済む話だからだ。

 誰よりも近い場所でセラを見てきたケントは、セラが言葉遣いは荒いが内容は大体が正論であり、乱暴な言葉の隅には相手を幾許か思いやっている部分があるところを知っている。そしてセラの指揮の成果もこれまで何度も目にしてきている。ならば今回も迷う事無くセラを信じればいいとケントは自分に言い聞かせた。

 セラはセラで、これまで何度も指示通りに動き、期待した以上の成果を出すケントを見てきた。この大事な局面を任せられるのはコイツしかいないと判断を下すのは至極当然の事だった。

 何よりもこの二人の付き合いは長く、実の兄弟よりも兄弟に近いと言える関係なのだ。どのみちこのままでは全滅必至なのはケントを始め、今動ける者達も理解している。打開策を自分で思いつかない以上、セラの案にのるしかない。その結果成功すれば一緒に喜び、失敗したとしても笑って済ませればいい。それが、ギルド「天兎」のルールが一つ「互いのアイデアに乗る時は恨みっこなし」のルールなのだ。


「エイジ、今から凡そ2分間ボクは無防備になる。その間護衛を頼んでも?」

「元より助けてもらった身だ、何としてでもその間は守り抜いて見せよう!」


 エイジもこのままの展開の行く末は嫌でもわかる。元よりMPKに近い形で巻き込んだ相手に助力され、そして今は頼られているのだ。申し訳なさと共に、受けた恩は最低限返すべきだという思いがエイジにはある。それに高い確率で死んでいたであろう状況下から、薄くも希望が見えている以上断るという考えは頭の中から消えていた。エイジはセラの前面へと移動し、両手持ちの戦斧を強く握りしめて構えを取った。


「ちょっとセラ、まさかアレを使う気?!」

「どう考えたってこの戦局を切り開く可能性があるカードがもうアレしかないんだよ。フォロー頼むね、リツ」

「だからって!……あーーーーーっもう!!!」


 セラの指示から何を考えているか察したリツがその行為からくる影響を踏まえて問い質す。だが、セラは既に準備に入っていてダメージも回復しきっていない身体で"とっておき"を出そうとしている。こうなってしまってはリツは可能な限りのフォローをする以外の選択肢がない。


「アヤカー!悪いけど一度タンカー二人に回復飛ばした後、そっちでも可能な限り敵にデバフ投げれたら投げてー!」

「わかりました!」


 セラは自身の内側を流れるマナに意識を集中し、細かく制御をしている為直立不動で動けない。傍から見て何かに集中して動かないセラに代わってリツが指示を出す。行動指針が決まったからにはリツもできうる限りのフォローをする。

 ラインアーク時代、セラは幾つかのパーティを一つの小隊として設定し、全体指揮の下小隊単位で効率的に動ける様分隊指揮者を決めて動かしていた。"考えて動けない奴はうちには必要ない"というセラの言葉の下、当然リツもその分隊指揮を何度も任せられて指揮をとった経験がある。そういった経験の積み重ねから天兎メンバーの大半はセラ不在時でもそれぞれ状況を把握し、セラに及ばないまでも適時指揮を出せるレベルの能力を有しているのだ。


『ホロベ……ホロベ……ホロベェェェェエエエエッ!!!!!!』


 憤怒状態(アンガー)に入った「マンハント ハンギング」もただ黙ってその光景を見てはおらず、増えた手腕や勢いを増した槍枝を伸ばして容赦なく攻撃を繰り出し続けている。明らかに威力が増している攻撃は、壊滅直前の臨時レイドメンバー達の残り僅かなLPも着実に削り取っていく。致命的な一撃をケントとバルトはどうにか防ぎつつ、敵のターゲットが回復中のグリフとショウ、月光の三人、そして彼らの治療に当たっているリツとアヤカに向かない様ヘイト維持をしている。後方への攻撃は流石にタンク職二人の守備範囲外ではあるが、エイジが息を切らせながらもその戦斧で跳ねのけている。だがその状況は芳しくない。エルフ特有の白く透き通るような肌に細かな傷が何度も刻み付けられていき、いよいよエイジの限界が目前に迫ったその時―――



『集え、謳え、躍れ、業火の紫焔よ。我らが炎、我らが力、我らが光、我が身に顕現し、その力を今ここに示せ……!!』



 紡がれる言葉と共に、セラの瞳が青紫色から輝く黄金色へと変貌し、その身体は青紫色の炎に包まれ眩しく発光する。その光が収束し、手に携えたハルバードの周りを青紫色の炎≪天恵(ギフト)≫【狐火】が舞う様に漂っている。


「お待たせ、みんな!」

「そ、そのスキルは……いや、もしかして≪天恵(ギフト)≫なのか?」


 最もセラの近くに居たエイジは必然的に間近からその光景を目にする事となり、明らかに異質なその青紫色の炎に戦闘中である事すら忘れて目を奪われた。能力発動者であろうセラは陽炎の様に紫焔を薄っすらと身に纏い、その瞳は先程までとは違う黄金色に変貌しているのだ。神々しさとかわいさの見事な融合に目を奪われるのは仕方のない事だろう。


「そ。制御が難しい上にマナの消費が激しくて気軽に使えないのさコレ」


 言うや否や、セラは一旦腰を落としてから後ろ手にハルバードを構え、ダッ!!と地を蹴り上げて「マンハント ハンギング」の頭上へと躍り出る。頭上で一回転した後、身体を撓らせてハルバードを振り上げ、落下に合わせて敵頭頂部へむけて落下エネルギーを活かす形でアックスブレードを振りぬく!インパクトに合わせる形でハルバード付近を舞っていた狐火は刀身部を包み込み、青紫色に光るアックスブレードが「マンハント ハンギング」を頭頂部から割り裂いていく!


『グガガガアアアアアァァァァァァァァァァアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!』


 メリメリメリと樹が裂けていく音を響かせながら、青紫色の炎を纏ったハルバードは綺麗な軌跡を描き、防御不能の会心の一撃が直撃した「マンハント ハンギング」は絶叫に近い咆哮を上げる。絶叫と同時に「マンハント ハンギング」のLPゲージは見る見る減少していくが、それでも尚幾許かの数値を残して耐えきって見せた。


 一撃を見舞い、動きを止めぬまま「マンハント ハンギング」の前方に着地したセラは、執念深く仕掛けてくる攻撃の回避も兼ねて、前方に居るケントとバルトの方へ跳ぶ。


「ケント!盾でボクを受け止めてそのままアイツに打ち返して!!」


 セラが声を掛けると同時にケントは腰を落として盾を構え、跳んでくるセラを盾で一度受け止め、受けきった後はググっと力を入れなおして全身のバネを使って盾を足場にする形でセラを敵へと打ち出す!


「ふんんぬおおおおおおおおおおお!!!いっけえええええええええええええええ!!!」


 渾身の力を振り絞ってケントはセラを「マンハント ハンギング」へと射出する。


「っでやああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!」


 再度自身に跳びかかってくるセラを目にした「マンハント ハンギング」は、槍枝をセラに撃ち出しながら裂かれて動くなった左半身を守る形でまだ無事な右半身の手腕でセラを弾こうとするが、ダメージを負った影響で著しく攻撃速度が落ちてしまいその防御は追いつかない。

 再度後ろ手に構えたハルバードの刀身は青紫色の炎を一層強く纏って光を放っている。その姿勢のまま「マンハント ハンギング」に迫るセラはさながら地上を奔る一筋の流星に見えた。


「いい加減に、ぶっ倒れろおおおおおおぉぉぉぉっっっl!!!!!!」


 敵の防御を掻い潜ったセラは、目前に迫った「マンハント ハンギング」の顔に向け渾身の一撃を振りぬいた!


ドゴンッ!!!メキメキメキメキメキメキメキ!!!……ボッ!ゴォォォォオオオオオオオ!!!


『オォ…オオオオオォォォォォ……』


 メリメリメリと激しく樹皮が裂ける音が鳴り響く。「マンハント ハンギング」の口腔部にあたる洞の入り口を大きく切り裂き、その奥深くまで突き刺さったハルバード。その刀身から青紫色の炎が内部へと広がり頑強な硬さを誇った「マンハント ハンギング」を内部から焼いていく。

 炎は囂々(ごうごう)と勢いよく燃え広がり、「マンハント ハンギング」は呻き声を上げながら昏く赤い目の光が消えていく。空虚な洞となり果てたその洞の奥から最後の炎が消えさり、「マンハント ハンギング」はその巨体をゆっくり裂きながらミシミシと音を立て地面へと倒れていく。


 一行はその光景を目を見開いて唯々眺めている事しかできなかった。


 同時に≪天恵(ギフト)≫【狐火】によりマナを使い果たしたセラは、纏っていた紫焔の陽炎は消えて瞳は元の青よりの紫色に戻っていた。限界を超えた為か身体に力がこめられなくなり、ハルバードの柄から手が離れ、ドサっと地面に落下して気を失っていた。




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