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【 Ep.1-021 活路 】


 順調に機能し始めたレイドパーティにより、エビルトレントのネームドモンスター「マンハント ハンギング」のLPは、それまでが嘘の様にゴリゴリと削れていく。

 敵の攻撃行動パターンが割れ、その情報を速やかに全員が共有し、突発にしては各パーティの連携が上手かったのがプラスに働いているのがその理由だ。

 それはそれぞれタイトルは違うものの、ある程度ネトゲに熟達したプレイヤーであったのが大きな一因であろう。どんなタイトルであれ、敵の攻撃行動パターンというものはある程度決まっている。

特にゼノフロンティアでは戦闘熟練度によって視界に敵の攻撃予想ラインが表示されるようにもなる。勿論それが絶対の情報ではないが、かなり高い精度で敵の攻撃軌道を予想して表示するのだ。何度も目にした攻撃やその前動作等を繰り返し目にする事で、そういった補助システムが戦闘サポートをしてくれるのだ。


 しかし何事にも例外という事はある。この場合彼らが対面する例外とは、ゼノフロンティア開発の始祖であるCCC(シースリー)が割と"ガチ"思考の人物であった事だ。

 通常であれば初心者エリアの一部でもあるこの「アルバの森」で、ここまでタフなネームドを設置して戦わせる事などゲーム進行上間違いなく推奨されたりしない。普通であれば初心者エリアでのネームドはせいぜい強くても二、三人で攻撃すれば倒せる程度の設定をされている事が多い。

だが、今相対している「マンハント ハンギング」は明らかにその設計からは外れた存在である。緩い部分は緩く作られ、やり込み要素の一つでもある部分は甘えを一切許さない。そんな設計思想の下、ネームドモンスター等のユニークコンテンツは作られていたのだ。


 ――故に、「マンハント ハンギング」のLPが1/3を割った瞬間。


『グルオオオオオオォォォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!!!!!』


 今までとは違う、地の底から吐き出されたような重い咆哮を「マンハント ハンギング」はあげた。周囲の樹々の葉を散らすレベルで、その重い咆哮は空気を揺らし、対峙しているセラ達へこれまでとは明らかに違うプレッシャーを与えた。


「みんな気を付けろ、今までと明らかに様子が違うぞ!」


 「マンハント ハンギング」と正対しているバルトが警戒を促す。各々が首を縦に振り無言で頷き敵の動きを警戒する。ケントは左腕の盾を前面に構え、敵の変化をじっくりと観察する。

 右横に位置どっていたショウとグリフ、左横に陣取っている月光の三人は攻撃の手を止め一旦距離を取る。背後から攻撃していたセラとエイジもその手を収めて十分な距離を取り警戒する。


 「マンハント ハンギング」はその身体をより黒く染め上げ、口にあたる洞は更に大きく上下に切り開かれ、その刺々しい輪郭を縁取りながら彩度の高い黄緑色の光を放っている。

 メキメキと音を立て、二本だった手腕が上下に裂けていき、左右に二本ずつ合計四本の腕を生やし、今まであった目に当たる部分の洞の上下がひび割れ、そこからも昏く赤い光が灯りギョロリとそれぞれの瞳をバラバラに動かして辺りを見回す。


 6つに増えた禍々しいその瞳が暗く明滅した瞬間―――


 ゴォッ!!!という音と共に、四本に増え間合いも伸びた手腕がそれぞれに襲いかかった。その速度たるや変身する前に振るわれていた速度の4倍は速い。


「ぬおぁっ?!」

「ッグ!!」


 元々盾を構えていたケントとバルトの二人はその攻撃を盾で受ける事に成功するが、その威力は決して盾で受け止めきれる様なものではなく、二人ともガードした盾に体を引っ張られる形で吹き飛ぶ。


「ヌフッ?!」

「グリフ!!」


 ショウはその身体能力の高さからギリギリ回避に成功したものの、反応が遅れたグリフは碌に防御もできないまま攻撃を受けて吹き飛ばされた。そのまま受け身も取れないまま吹き飛べば、間違いなく致命傷になる事を察したショウはグリフのフォローへ入り受け止めようとするも、体格差もあって受け止めきれずに二人して地面を転がっていく。


「ガーランド!アイン!」

「任せろ!!」

「<氷盾(アイスシールド)>!!」


 月光の三人は前衛のガーランドが大剣を盾にする形で地面に突き刺し構え、その後ろにザインとアインが入り腰を落とす。アインがガーランドの前に魔法での障壁を張るが、咄嗟に詠唱して生成されたその薄氷はバリンと音を立て破壊された。地面に突き刺した大剣で幾分か速度は落ちたものの、三人は折り重なるようにまとめて後方へ吹き飛ばされた。


 相手の間合いが変化した事を受けて、後方のセラとエイジも距離を更に取ろうと計るが、そこへ遠心力で加速された巨大な幹が襲い掛かる。


「くっ!!!」

「ぐぉ!!!!」


 既に後退しはじめていたところへの攻撃だった為、武器で防御しつつ自らも後方へ飛ぶことで衝撃を逃すが、それでも衝撃は大きく勢いを殺しきる事は出来ない。少なくないダメージを受けざるを得なかったが、セラとエイジは他の前衛陣に比べればまだマシであり、空中で態勢を整えてどうにか着地に成功した。


「まずはタンカーを優先して二人で回復。その後は二手に分かれてアヤカは"月光"の方へ回って。最優先でアインから回復して残り二人はダメージが大きい方から回復して」

「はい!」 


 最初から距離を取っていたリツとアヤカには攻撃は向かわず無事だった為、二人は急いで支援する順番を決めて即時行動へ移した。リツが的確に指示を出しているおかげで動きに無駄はない。先にリツが<治癒(キュア)>をタンカーの二人に回復魔法を掛け、続いてアヤカが<治癒水(キュアウォーター)>をかぶせる形で掛けていく。

 どちらも回復魔法ではあるが、<治癒水(キュアウォーター)>は時間をかけて回復していくリジェネレイトタイプで、<治癒(キュア)>の方は即効性の高い性質を持っている為、重ねがけをしても効果を打ち消し合う事はない。それぞれ水属性と光属性の魔法である為、両属性の適性が無い者は支援回復職に就けないと思われがちだが、二種の回復魔法に比べるとその効果はやや劣るものの<回復(リカバー)>という名前そのままの魔法職専用回復魔法がある為、適性が無くても支援職をする事が可能になっており、大体の後衛魔法職は基礎として習得している。その為、リツはアヤカに魔法職であるアインを最優先に回復するように指示を出したのだ。


 ケントとバルトの二人のダメージは、盾でガード出来ていた為致命傷には至らなかったが、それでも大ダメージを受けて大幅にLPが減少している事からして、敵の能力は確実に向上したとみて間違いはないだろう。真っ先に回復を受けた意図をケントとバルトは正しく理解しており、タンカー職の責務と言わんばかりに再び敵のヘイトを自分達へと引き付ける。

 その隙を縫ってリツとアヤカはそれぞれ分かれて支援へと向かう。リツは重篤そうなグリフを早急に回復する為、グリフの口に回復ポーションを押し込んで無理やり飲ませているショウの下へ。アヤカはタンカー二人に再度<治癒水(キュアウォーター)>を重ね掛けして月光のパーティの下へ向かう。セラとエイジについては、セラが一応<治癒水(キュアウォーター)>を使える為、リツはそれを踏まえて任せた形になる。


 ――崩れたレイド態勢を再度立て直すには時間的余裕があまりにも足りない。タンカーの二人も回復魔法を受けたとはいえ、LPは完全回復したとはとても言えず、あくまでギリギリのラインから持ち直してどうにか時間を稼げる程度に過ぎない。何よりも支援職のリツとアヤカ両名の保有MPを考えた場合、魔法の行使限界はそう遠くないだろう。


(賭け事は嫌いだけど、ここで悠長にやり合っていたら支援二人のマナは絶対に持たない。タンカーの二人もあの様子だとそう長くは持たないだろうし、月光の戦線復帰を待ってる余裕もない。このままでは確実に全滅する……。この崩れた状況下で逆転の一手を刺せるカード……。やっぱりアレしかないよな……!)


 自分とエイジに<治癒水(キュアウォーター)>を掛けてLPを戻しつつ、戦闘状況を分析していたセラは一つの決意を固め、ハルバードを握る手に力を籠めた。




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