【 Ep.1-020 レイドバトル】
ビュンビュンと風を切り裂く音を立てて太い蔦が迫ってくる。セラはハルバードを器用に扱ってそれらを斬り払いながら赤いロングヘアーのアヤカの前に躍り出て指示を飛ばす。
「アヤカはあそこで倒れた二人を介抱してる奴らのとこへいって回復を!」
「はい!」
答えると同時にアヤカは駆け出す。そのアヤカを追う様に伸ばされた先の尖った槍の様な小枝はもう少しでアヤカに届くというところでボトリと地面に落ちる。セラが気付いて斬り落としたのだ。
「ショウとグリフは相手の周りを撹乱するように動いて気を引いて!主腕の範囲に気を付けながらそれ以外の蔦や細い枝を切り払って!」
迫ってくる蔦を薙ぎ払いながらセラは足を止めずに指示を出していく。
「分かった、距離を取りながら弓を撃って気を引いてみる」
「蔦や細かい枝は任せろ!それくらいならこの槍でもどうにかなる!」
斥候のショウは適度な距離を取って矢を番え、相手の視界ギリギリから放っていく。グリフはショウの近くに位置取り、ショウに襲い掛かる蔦や細かい枝を打ち払っている。蔦の動きは掴み辛いが、シャッと伸びてくる先端が尖った枝の動きは単調で読み易い。ショウはその身軽な動きで迫ってくる攻撃を躱しながらもグリフが攻撃しやすいように誘導していた。
その光景を横目に収めつつ、自分に迫ってくる蔦を斬り払いながら攻めあぐねているエイジにセラは声を掛ける。
「エイジはボクと一緒に敵の後方に抜けて、敵の視線に入らないようにしつつ攻撃!それとエイジ、武器のストックで斧系の物持ってるなら特攻武器だからそれに持ち替えて。左右に分かれてアイツの後ろへ抜けるよ!」
「ああ、任せてくれ!」
そうしてセラと、武器をロングソードから両手斧に持ち替えたエイジは左へ、セラは右に分かれて敵の横脇を駆け抜けながら斬撃を加え後方へと抜ける。
ザザンッ!!!と斬りつけつつ敵後方へと流れた二人はそのまま勢いを殺さずに反転し、交互にバックアタックをしかける。目の前でターゲットを取りつつ、防御と回避に専念するケントと、視界ギリギリから攻撃を仕掛けてくるショウとグリフに「マンハント ハンギング」は明らかに不快感を示し、乱雑に主腕を振り回し蔦や枝を伸ばして攻撃をするが、手腕の攻撃はモーションが大振りで分かり易いため回避されている。枝を伸ばしての攻撃は届きはするが動きが単調な為ことごとく打ち払われる。蔦は動きが読みづらい為ダメージを与えはするものの、その大半は枝同様打ち払われて有効打には至らない。
セラの指揮により絶望的な状況はどうにか抜け出しつつあるが、ひっきりなしに襲ってくる敵の攻撃にノーダメージとはいかず、徐々にではあるが蓄積ダメージにより動きのキレがなくなってきている。タイミングを見てポーションを飲んで体力やマナを戻して攻撃を繰り出すが、敵の攻撃を集中的に浴びる事になっているケントはリツの回復魔法だけが生命線であり、相手の耐久力の高さを踏まえると長く持ちそうにはない。洒落にならないその耐久力の高さは、特攻効果のあるはずの斧系統の攻撃でもLPゲージの減りは雀の涙程しかない。体力的に見ても、またレベル的にもプレイヤー側が不利な状況のまま緊迫した時間が流れる。
――各々が攻撃を捌きつつ持ち堪えながら敵の行動パターンを掴んでいく。主腕の攻撃は大振りでしっかり見ていれば回避は可能でこの攻撃を食らったものはまだ居ない。但し、もし一撃でも食らえば致命傷は免れない威力がある事は確実だ。槍の様な枝での攻撃も直線状にしかできないらしく、この攻撃もよく見ていれば回避は可能だ。だが、伸縮自在の蔦による攻撃はどうしても防げない角度やタイミングが発生するおかげで、少なからずダメージを負ってしまう。また時折見せる根を揺り動かしてからの突進は、避けた先でぶつかった樹々が根元からへし折れている姿を見るからに、主腕同様最大限警戒しなければいけない攻撃だった。
ケントをフロントにしてターゲットを維持し、サイドからショウとグリフが撹乱、バックからセラとエイジで攻撃を加え、リツは都度位置を細かく調整しながら戦闘メンバーの補助をする。一見うまくいっているように見えるが、リツのマナ総量を考えれば長時間の戦闘は不可能であるし、細かなダメージの蓄積と精神的な疲労で全員ギリギリの状態で綱渡りの様な戦闘をしていた。そこへ――
「お待たせしました!」
止めどなく襲ってくる敵の攻撃をギリギリで防いできたおかげで攻撃行動パターンを掴めはじめた頃、ようやくアヤカが倒れた二人とその護衛をしてた二人を連れて戻ってきた。これまで六人だけで戦闘をせざるを得なかったがこれで五人追加で十一人となり、ほぼ二倍の戦力増強と考えると心強い。
「すまねえ、お前らのおかげで助かった。[盾使い]のバルトだ」
2番目に吹き飛ばされた重装備の虎獣人の男バルトが、大振りな片手斧と盾を構えて迫る槍の様な枝を薙ぎつつケントの横へと躍り出る。
「パーティ"月光"のリーダーザイン、[軽戦士]だ。さっきはすまない、俺達も加勢する」
「同じく"月光"のガーランド。両手剣スタイルの[剣士]」
「"月光"のアイン。[魔術師見習い]です」
青色のメッシュが入った銀髪が特徴のザイン、暗い緑色の頭髪をツイストスタイルにしているガーランド、中性的な顔立ちのアイン。三人共ドーンエルフという構成のパーティ"月光"も態勢を整えて援護に戻ってきてくれた。彼らからすれば、倒れていたアインが回復したらそのまま逃げる事も出来たはずだ。勿論その場合、俺達"天兎"と"悠久"の両パーティは間違いなく全滅していただろう。
「月光の三人は今空いてる敵の横の位置で遊撃を!枝の攻撃は一直線にしか伸びてこない。蔦は動きが読み辛いから注意。相手の根が激しくうねったら、その時の正面に突撃してくるから避けて。それからアヤカはリツと連携して全員の補助を!」
月光の三人は同じパーティという事もあり、下手に分散させるよりかはセットで動かす方がいいだろう。アヤカはリツと連携して動いてもらう方が、リツだけでは手が回らなかった所へ手が回るようになり、全体の穴を塞ぐ形になるはずだ。
月光の三人は指示と同時に敵の右側へと布陣し、他のプレイヤーの動きに合わせる形で攻撃を加えていく。アヤカは敵の攻撃範囲を見極めてリツの方へと近づき指示を仰いでいる。あっちはリツに任せておけば大丈夫だろう。
「一人でタンカーさせてすまねぇ、あんたは少し下がって一息入れてくれ。それくらいの時間は持たせる」
「おう、助かるわ!あ、俺ケント。あそこでバフかけたり回復しに回ってるのがリツで、あのケモミーが俺達のリーダーのセラだ」
今まで敵のヘイトを稼ぎ、只管回避と防御に専念していたケントへ、バルトが功を労いながら交代する。バルトが「<挑発>」スキルを使用してケントからヘイトを奪い、ケントは後方へ下がり、後退したケントにリツが近づき<治癒>をかけてLPを戻す。
<治癒>によるLP回復を受けている間、ケントはインベントリから水筒を取り出し水分補給をする。セラからは離れていている上に間に敵を挟んだ位置の為よく見えないが、チラッと見えたケントの顔にはこれまで防御と回避に集中していたからだろう物凄い汗が浮き出ている。VRなのに変にリアルなところもあるもんだと感心しつつ、セラは目の前の敵に攻撃を加えていく。
月光の三人組の連携は上手く、それぞれが入れ代わり立ち代わり絶え間なく攻撃を入れている。恐らくこの三人も俺達と同じで、元々長く一緒にプレイしていたのだろう。アタッカ―のみで構成されたパーティでありながら、森の奥地までこれたのは確実にその連携の巧さがあるからだろう。
回復魔法でLPを戻し、水を飲んで一息を入れたケントは両手で自分の頬をパシンと叩いて気合を入れなおした。再び片手斧と盾を持ち直してフロントへ戻り、バルトとタイミングを合わせ敵の攻撃を往なす。盾役が二枚となった為、他のアタッカー陣には大分余裕が生まれた。
リツとアヤカの二人はそれぞれ十分な距離を取り、タンカー2名と横から攻撃しているメンバーへサポートできる位置取りをしている。セラとエイジは必然的にターゲット範囲外となっているものの、敵の攻撃は前方180度が主となっており、ターゲットたるプレイヤーの人数が増えた事で後方の二人には散発的に槍枝と蔦での攻撃が襲ってくる程度で済んでいる。
三パーティ全員が戦線に揃った事により、先程よりも速いペースで「マンハント ハンギング」のLPゲージが減少していく。突然の出来事に虚を突かれ、全滅の危機に瀕していたそれぞれのパーティだが、セラの指揮介入により始まった突発レイドはようやく機能し始めた。




