【 Ep.1-015 ファーストクエスト 】
階段を降りた俺達は、既に他の冒険者たちで賑わっている依頼が貼られている掲示板を見ていく。収益ベースになると思われる「納品依頼」の「常設依頼」を中心に受注できる札を取っていく。
『傷薬の素材集め』 ・・・ 採集で手に入るヨモグイの葉を50枚納品する。
『手頃な木材集め』 ・・・ 伐採で手に入るシギの木材を30本納品する。
『食糧確保:1』 ・・・ マイティボアの肉を20㎏納品する。
『食糧確保:2』 ・・・ ワイルドチキンの肉を10㎏納品する。
『良質なタンパク質』 ・・・ ベギンバッタを30匹納品する。
これならば必要数さえ揃えれば問題もなく、超過分は追加ボーナスとして収益アップに繋がる。常設なので焦る必要もない上、ライバルが居ても居なくても報酬は一定なのがメリットだ。因みにそれぞれ報酬は一人頭、30銅貨、50銅貨、80銅貨、60銅貨、20銅貨である。
これだけでは面白みに欠けるので、「討伐依頼」の「指定依頼」も幾つか見繕う。
『デミゴブリン討伐』 ・・・ 開拓村周辺に生息するデミゴブリンを20匹討伐。
『エビルトレント討伐』 ・・・ 近くの森に出るトレントの変異種の討伐。
恐らく前者は普通の雑魚狩りで、後者は"レアモンスター"の討伐指定だろう。デミゴブリンは小柄な人型生物で、粗末ながら木製の棍棒や石斧等を使うらしい。こちらの報酬は2銀貨、25銀貨と、先程の5つの依頼よりも実入りはいい。但し後者は一人頭での報酬ではなく、敵一体での報酬となっている。その事からもエビルトレントは良くあるフィールドのレアモンスターである可能性が高い。経験的にそういった存在は、レアドロップも期待できるので序盤の装備拡充にはもってこいだと思われる。初級エリアだからそこまで苦戦するとは考えられないが、モブの取り合いはあるだろう。こっちの依頼は失敗や放棄のペナルティもないので受け得なのもいいし、デミゴブリンの依頼の方はこのゲーム世界での対人練習の予行としても得るものがあるだろう。報酬はデミゴブリンが2銀貨、15銀貨となっている。明らかなモンスターとなると報酬が跳ね上がる傾向でもあるようだ。
札をもって受付けへ行き、何事もなく依頼受注ができた。早速村の外へと思ったのだが、ここに来るまで検証を兼ねて色々インベントリに詰めてた事を思い出す。そのままの状態で外に出たとしても、恐らくインベントリの収納上限を超えてしまうだろう。となればやる事はひとつ、インベントリ整理だ。
インベントリ内のアイテムを1つ1つ確認していると、さっき受けた依頼の納品対象があった。ケントと合わせて、ヨモグイの葉が182枚、シギの木材が108本、ベギンバッタは12匹入っていた。他の売れなさそうな雑多な物は村の外で捨てるとして、精算できるものはしておこう。因みにリツは採集関係の検証はしていなかったようで、インベントリの中身は空に近い状態だ。対象のアイテムは数的に3人分ある状態な上、受注も3人分しているので3人分精算する事にした。
現状精算可能な、ヨモグイの葉とシギの木材を早速窓口へ行って二人分納品する。
「先程受注してすぐ精算とはお早いですね……」
と雀斑が目立つ受付嬢ソイテラさんから訝し気に言われた。そりゃぁそうだろう、受注してから5分も経っていないのだ。外にも出ずに建物内を少し移動しただけで戻ってきた状態なのだから怪訝な対応されても仕方ない。
「実はここに来るまでに手に入れる機会がありまして」
「はぁ…そうですか…。では早速精算手続きをしますので少々お待ち下さい」
なんだかやる気の低そうな受付嬢だが、行動そのものはテキパキとしている。程なくソイテラさんはカウンターまで戻ってきてその上にザッと音を立てて袋を置く。ソイテラさんは袋の中から銅貨を取り出し、卓上に並べ始める。
「此方が報酬の銅貨となります。それぞれ30銅貨と50銅貨、合わせて80銅貨が依頼達成の基礎報酬です。今回過剰納入分がありましたので、此方がボーナスの40銅貨となります。どうぞご査収下さい」
俺達はそれぞれ一人当たりの取り分、80銅貨をそれぞれのウォレットに収納する。そしてボーナス分の40銅貨をどうするか思案する。二人に相談しようとしたところ、
「あー…ボーナス分は二人で分けて。私はそもそも分けてもらって達成してるしさ」
とリツが遠慮気味に言ってきた。ケントと二人で顔を見合わせ、二人とも首を横に振ってから互いに頷く。以心伝心よろしく、どうやらケントも俺と同じ考えのようだ。
「じゃ、これファミーリア資金としてプールしよ」
「だな。リツも問題ないっしょ?」
その内ファミーリアも設立するだろうし、その時の為に少しでも貯蓄はあった方が良い。組織を運営していると何かと運用資金が入用になってくる。今はまだ少額ではあるが、無いのと有るのとでは違うだろう。何事も最初の一歩はそういうものだと思う。
「二人がそれでいいならいいけど、序盤の資金は装備周りに費やした方が良いんじゃない?」
「逆に序盤だから装備ドロップもそれなりにすると思うし、その辺りは気にしなくていいと思うんだよね」
「そそ、ゲーム序盤なんてその辺甘いはずだしなんとかなるっしょ」
大抵のネットゲームの序盤は大体がドロップ率が緩く設定されている。アイテムドロップ率を高くして、アイテムを得るという楽しみや爽快感、装備を更新していく楽しみ、装備品を変える事で強くなっていく楽しみ等で射幸心を煽り、一種の依存感覚を植え付け、初めてすぐに辞められないようにそういう設定にされている事が多いのだ。
「そう?ならそう言う事で。それなら残りのクエこなしに行こ?」
「そうだね」
「ああ!行こうぜ!」
冒険者ギルドで冒険者登録とパーティ登録、そして依頼を受注した俺達は、村の中の雑貨屋で初級回復ポーションや初級マナポーション等の消耗品を購入してから西門から村を出て、開拓村から少し離れている西側にある「アルバの森」を目指して歩き始めた。
ゲーム内時間はまだ午前。陽はやや高い位置にあり、少し離れた位置には特徴的ながらややぼやけた姿をした、互いに対照的な翠と紅赤色の二つの月が浮かんでいた。
今回短めの話になります。




