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【 Ep.1-010 水見の儀 】


「魔法についての説明は終わりましたので、水見の儀に入らせて頂きますね。今机の上に置いたのは、聖水の上に神木の葉を浮かべたものになります。水見の儀はこれを使って皆様の適正属性を調べるのですよ」


 聖水に浮かべた葉の入ったグラスは見た目は味の薄そうなハーブティーだ。もしかしてこれを飲むと自分の属性が判明したりするのだろうか?


「これで?」


 トリネラさんの顔を伺うと、何を言いたいかわかりますよという表情で微笑み返してくれる。NPCとわかっていても、こういう表情されるとかわいいなって思ってしまう。


「ええ、これでです。この容器を両手で掴み、中に入っている液体に向けて意識を集中するのです。火属性の適性をお持ちであれば、中の水が煮えてきます。水属性の適性であれば、容器から水が溢れるなど水量が増えます。風属性の場合は水が渦を巻き始め、地属性であれば葉が成長し、光属性の適正をお持ちであれば水が輝き始め、闇属性であれば葉が聖水へと溶けていくのですよ」


 ハーブティーと言うわけでもなさそうなので飲む必要はなく安心した。しかし、なんだかかなり昔何かの漫画で見た様な記憶がある方法だ。しかしこれであれば複数属性の適性を持っていても判別が可能なわけだ。実際そうやって判別するのだろうけど、ここはひとつ確認しておこう。


「トリネラさん、魔法の適性は1つだけなのですか?」

「いいえ、人によりけりですが複数適正お持ちの方も多くおられますよ。しかしながら多くは軸となる主属性が一番強く発露し、他に適正があってもそちらは小規模な発露というのが殆どですね。稀に複数属性強く適正が出る方もおられまして、二属性に強く適性のある方をデュアル、三属性であればトリプレッタ等と呼称されます。ここで調べられる適性はあくまでも先天性のものではありますが、修行を積まれる事で後天的に適性を得られる方もおられますよ」


 なるほどね。多少手間暇は掛かるだろうけど魔法適正もある程度は融通が利くって事だな。もし自分の属性が気に入らなければ、後天的に適性を得さえすればそちらに軸を移す事も出来ると。とはいえ初期適正の属性魔法を伸ばしていく方が、スキルアップの面から考えても得策だろう。こういったステータス的な事は、余裕が出てからリソースを振り分けないと中途半端な事しかできなくなる。


「さて、準備はよろしいでしょうか?よろしければ先程言ったように両手を添えて下さいね」


 聞くべき事は聞いたので、後は運任せって感じか。すぐに判明するであろう自分の適正属性に期待にワクワクしてしまう。なるべくそれを表情に出さぬ様トリネラさんへ頷いて、目の前のグラスに両手を添える。


「そうです。ではそのまま意識を集中させて下さい……」


 ゆっくりとしたトリネラさんの声に導かれるかの様に意識を集中させる。


・・・


 グラスに浮かぶ葉は、微かな振動から立つ漣に揺られ右へ左へと揺らめいている。意識をグラスの中へとどんどん集中していくと、徐々に視界が狭くなっていく。



・・・・・・



 耳もどこか遠くなっていく感覚に陥り、部屋の中に自分一人だけしか居ない感覚が広がる。




・・・・・・・・・




 段々周囲は暗くなっていき、当たり一面の景色は暗転した。ただ暗闇の中、両手の中のグラスだけが薄暗く光を放ち淡い存在を主張している。





・・・・・・・・・・・・コポンッ…


 不意に張りのある水の音が頭の中に響いた気がした。その感覚に驚いて急に意識が覚醒する。手元を見るとグラスから水が溢れ出てきていて、中の葉が半分程消えていた。


「おめでとうございます。セラ様の主属性は水ですね。葉の溶け方から副属性として闇属性の適性もお持ちのようですよ」


 トリネラさんはまるで自分の事のように喜んでくれて、声も少し上ずって聞こえる。しかし、想像はしていたけど、実際に手元でその事象が起きると脳の処理が追いつかない。未だ実感を得ないどこかふわふわとした心を、溢れ出てきた水の冷たさで完全に覚醒させる事ができた。


「ふぇ?あ、水……!」


ボーっとしてたけど、手に持ったグラスから水は溢れ出して机にボトボトと落ち、小さいながらも水溜まりを作っている。神殿内で粗相をしたと思って気が焦る。


「大丈夫ですよ。魔力で増幅された一時的なものですのですぐに乾きます」

「あ、そうなん…です?」

「はい、<手水(ハンドウォーター)>等は固定化の魔術も掛かるので水として存在固定されますが、今のは単純に魔力で水そのものを一時的に増幅しているだけですので、魔力が切れれば消えてしまうのですぐ乾くのですよ」


 科学を無視したファンタジーらしい理由、だがそれでいい。

 しかし俺、2属性の適性持ちかぁ~。水属性って事は日常生活においては最強じゃないか?旅に水は必需品だ。重い荷物にもなり、なければ命に係わる飲料水を気にしなくて済むというのは、既にその時点で非水属性の者達に比べて大きなアドバンテージを誇ると言っても過言ではないだろう。それに温度調整が可能になるのなら湯浴みも可能。VRだから本物のお風呂には多分敵わないとは思うけど、神経同調型のゲームという点を踏まえれば、案外感覚は変わらないか下手をすればそれ以上かもしれない。


 そして2つ目に闇属性。現時点でこの属性の有用性は不明だ。なんとなくデバフ的な魔法が多くありそうな気がする。将来的にその辺りを学ぶ事ができれば、この世界でもガチガチの搦手を使う事が出来るようになるはずだ。だが、まずは水属性を軸として優先し、しばらく闇属性は考えずに水魔法を使える様になろうと思う。


「―あのセラさん?」

「あ、はい。すいません、ボーっとしてました」


 おっと、考え事をしてたらトリネラさんが心配そうに顔を覗き込んでた。それにしても顔が近い。近いおかげで彼女が風邪に罹った子を心配する様な表情をしているのが一目でわかった。彼女にそんな心配をかけていたのかと思い、素直に謝った。


「本当ですか?もし体調が優れないのなら遠慮せずに申し出て下さいね?」

「大丈夫です。初めての出来事にちょっと驚いてただけです」


 ひと昔前のAIならこんなやり取りは出来たのだろうか。エモーションAIはこのゲーム用に開発された独自の代物らしいが、それを搭載されたNPCである目の前の彼女は感情豊かな一人の人間の様に映る。俺の言葉に安心したのか、トリネラさんは表情を緩め、何か楽しい出来事があったかのようににっこりと微笑みながら俺に告げた。


「実はもう一つお伝えする事がございます!」


 胸のやや上の位置の高さで手を合わせて俺に微笑みながら告げる彼女に、


「はえ?」


 と実に間の抜けた、それでもかわいい俺のアバターの声が漏れた。





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