【 Ep.1-009 魔法 】
「では君達に幸あらん事を…!」
司祭はこちらへ顔を向け朗らか笑うと奥の扉へと入っていき、入れ替わりにそれぞれのプレイヤーの前に一人ずつシスターが付く。
「それでは皆様、水見の儀を執り行いますのでそれぞれ目の前の者の案内に従って部屋へとお入り下さい」
10人のシスターを代表して少しだけ年上そうなシスターが声を掛け、身なり慎ましいシスターの案内で両脇にある部屋へとそれぞれ案内される。俺は少しだけ背が低めのシスターについていき、左の奥から2番目の部屋と入った。
ギギギ、バタンと扉がゆっくりと閉まり、シスターは此方を振り向いて一礼する。
「はじめまして、私はトリネラと申します。まずはそちらの席にお掛けになって下さい。それと失礼ですが貴方のお名前をお伺いしても?」
「セラです」
丁寧な所作で挨拶と名前を訪ねてくるトリネラさん。赤みがかった髪色に鳶色の澄んだ瞳、背だけではなく色々と慎ましい容姿をしている。年齢的にはこのアバターと同じか少し年上くらいかもしれない。そう思いつつ椅子に深く背を預ける形で座って名前を答える。
「ありがとうございます、セラ様ですね。これより水見の儀を執り行いますが、その前に魔法についてご説明致しますね」
「お願いします」
互いに椅子に腰かけ、机を挟む形でトリネラさんの説明が始まった。
「この世界の魔法は大きく6つの属性に分類されています。また其々を司る六大属性神が存在し、その加護により私達の適性は生じると言われています。
1つ目は火属性。炎神 万物を焼払う原初の火 の加護。
こちらは生活魔法の<種火>や<爆炎>、<獄炎>等、比較的攻撃的な魔法が多い属性ですね。扱い方さえ掴めれば火力の調整も出来、使い勝手の良い属性だとも言われています。
2つ目は水属性。水神 全て流す偉大な奔流 の加護。
生活魔法の<手水>から、<解毒水>、後程言います光属性の<治癒光>より効果が落ちますが、<治癒水>に代表される治癒魔法。<氷結槍>等の氷結系もこちらの属性になります。
3つ目は風属性。風神 全空を覆う始まりの風 の加護。
エルフ族はこの属性が得意な方が多いですね。風の矢を飛ばす<風切弾>や、風を身に纏い移動速度を上げる<纏風脚>。雷撃を飛ばす<雷撃>等もこちらの属性になりますね。
4つ目は地属性。地神 豊穣告げる始原の大地 の加護。
こちらはドワーフ族の多くが適性を持っている属性として有名です。荒れた地面を整える生活魔法の<整地>に土壁を形成する<土壁>や、大地を割る<地割>、対象の足元を草や泥などで拘束する<大地拘束>などが有名ですね。
5つ目が光属性。光神 真理を照らす天上の光 の加護。
光源魔法の<光源>や<光線>等もありますが、やはり最大の特徴は傷を癒す<治癒光>や<解呪>等、聖なる属性も含まれている点でしょう。私はまだ見た事はありませんが、教皇様クラスまで上り詰められた方は<生命回帰>の奇跡も起こす事が可能だとか…。
最後の6つ目は闇属性です。闇神 終焉を映す絶黒の存在 の加護。
この属性は相手の視界を奪う<暗黒帷幕>や、対象の影を縛って拘束する<影拘束>、影を戦わせる<影分身>等、幾つかの魔法以外詳しくは解明されておりません。また<死霊術>等もこの属性に含まれているとされています」
トリネラさんの説明を聞いていくと、魔法にも階級があるらしく、
生活魔法 → 初級魔法 → 中級魔法 → 上級魔法 → 超級魔法
と言う具合に威力や消費魔力も増えていくらしい。適性を保持していて、扱いに慣れれば消費する魔力も抑える事が出来るようになり、より効率的に魔法を行使する事ができるそうだ。
また、適正がなくても生活魔法程度であれば使えるらしいが、それ以上になると適正補正がない分、魔力消費が増加してとても使えないとの事。そして気を付けたいのは魔力が尽きた場合、精神疲労から意識がなくなり最悪の場合死亡するらしい。
戦闘中にそうなった場合、気絶で済んだとしてもモンスターからの攻撃で死亡するだろうし、街中でもそんな状態になれば良くて持ち物を盗られるだけで済み、最悪の場合は奴隷商に捕まり売られるかもしれないらしい。仮想現実世界とは言えこちらは別世界、日本に住んでいる感覚でいると痛い目に遭いそうだ。
魔法の習得については、中級魔法程度までなら魔法書を読めば習得できるらしいが、それを扱える十分な魔力や技術がなければ魔法は不発するか暴発するらしい。上級魔法以上になると、大魔導士からの伝授や遺物からの解読等に限られるらしい。魔法師ギルドに所属するなり、高名な魔術師に師事するなどの地道な研鑽でも習得は可能らしいが、それなりに時間はかかるとの事。
四大元素となる火水風地の四属性は研究や解読も進んでおり多くの種類の魔法が存在しているが、適正持ちの少ない光と闇属性は、秘匿性、希少性も合わさって中々知識が広まっていないらしい。
光属性は教会の庇護下や王族お抱えの魔法師団に置かれる事が多く、逆に闇属性は暗殺ギルドや要人警護等の表に出ないポジションに居る事が多い為、多くの情報が表に出てこない所謂秘伝的な扱いになっているのだと。
そんなわけで庶民に馴染みのある回復魔法は、光属性の<治癒光>ではなく、水属性の<治癒水>の方であるらしい。光属性の適性持ちは少なく、逆に水属性の適正持ちは割と多くいるという環境を考えればそういう状況になるのだろう。同じ回復魔法ではあるが、傷の治りや効能は光属性の方に分があり即効性が高く、その最奥たる魔法が<生命回帰>だと言う。
他にもトリネラさんの話では、魔法の属性適性が無いと言う者はいないらしい。これはこの世界の住人は例外なく6元素を基に、身体が作られているという神話からきている。種族による加護適正もあり、特定の種族は一定の属性の適性を得やすくなるなど細かく補正は存在しているようだ。
「――では、ここまでで何か質問はございますか?」
「いえ、大丈夫です。続けて下さい」
続きを促すとトリネラさんは一度椅子から立ち上がり、部屋の奥へと歩いた先に置いてある手桶の中でグラスに水を注ぎ、それを手に此方へ戻ってきて机の上にゆっくりとグラスを置いた。ゆっくりと再び椅子に腰を下ろしたトリネラさんは、片手に持っていた葉を置いたグラスの中の水の上へと浮かべ、胸の前で手を組んで神への祈りを捧げた。




