【 Ep.0-000 Beginning 】
今より10数年前、CCCと自称するデイトレーダーが居た。
彼はその当時発生した某通信インフラ企業の株大量誤発注事件に乗じて、常人では考えられない莫大な利益を得る事となった。
偶然にも成り上がった彼は、元来の趣味であったゲーム業界に手を出し始めた。
彼はその資金力を活かし、7年前に大手ゲーム開発企業である「ユニゾンInc.」を買収。同時期、世間に浸透し始めていたVR機器の開発を行っていたベンチャー企業「レヴォ」も買収。二社を統合合併させ「オラクル」を設立させ、感覚同調型ヘッドギア「オラクル」の開発に着手。並行して自身の理想を詰め込んだゲーム世界「ゼノフロンティア」の開発にも着手し、自身の豊富な資金をそこへとこれでもかと投入した。
潤沢な開発資金を得たそれらの計画は7年の時を経て見事実を結び、世界初の神経接続式感覚同調型ヘッドギア「オラクル」が完成する。その「オラクル」対応のゲームとして「ゼノフロンティア」もひとまずの完成を見る。ローカライズ問題があったものの、先行リリースを日本限定にする事で世間に発表するに至った。
開発期間中に社内でのαテストは繰り返し行われ、綿密なバランス調整を施され、昨今のヌルゲーバランスを鼻で笑うかのような難易度のコンテンツも実装。まるで自分の体を動かしている様な違和感のない動き。現実世界では成し得ない身体能力の向上からくる動作。魔法という概念を視覚的にも効能的にも実現させたシステム。現実世界では見る事の出来ない幻想的な光景に、様々な種族、モンスター達。
――そこにはCCCという男が夢見た、理想を詰め込んだ世界が出来上がったのだ。
大々的なリリース発表後、世間は熱病に浮かされた子供の様に湧いた。これまでのゲームを一新し、革新技術をこれでもかと注ぎ込んだ作品。普段は決して取り上げる事のないニュース番組でさえ取り扱うという事態。世のゲーマー達は、これこそ自分達の理想とする世界だと思い込む程熱を上げた。
リリース発表後、第1期オープンベータ参加者の募集が行われた。参加枠は一万人と小規模だった為、応募総数に対する倍率は1027倍ととんでもない数値を出していた。
開発・運営元である「オラクル」は、その中からテスターとして有用であろう、ヘビーユーザーを厳選し、優先的に参加可能なファストパスを発行。
一万人の内の271人にファーストパスが発行され、その中には「ユニゾンInc.」が運営を行っていた「ラインアーク」において、「悪魔の帝王」と呼称され、ある種の伝説となっているプレイヤーも含まれていた。