~たとえば、僕はどこまで生きて行けるだろう~
1年、365日。
平均寿命、約80歳
365×80=29200
人間が死ぬまでに、約どれくらいの日にち生きられるか。計算してみた。
1日、24時間。
29200×24=700800
人間が死ぬまでに約どれくらいの時間生きられるか計算してみた。
長いだろうか、短いだろうか。
秒針がたった60回回れば1時間なんてものはたつ。
長い針がたった24回回れば1日なんてものはたつ。
死への確率。
それは秒針の音1回につき、少しずつ増してく。
0コンマなんぼかはわからないけど。
確率だから、別に100%にならなくても死にはする。
今も、君が1秒後死ぬ確率なんて十分に、いや十二分にある。
保証なんてされてない。
時計を見つめると、俺はそう思う。
ましてや誕生日なんて迎えると尚更だ。
昔から誕生日が嫌いだった。
死ぬ確率が増す、そのひとつの節目を祝う。そんな誕生日が嫌いだった。
誕生日を祝う人間のほとんどが、俺に死んでくれと言っているのとあまり変わらないからだ。
心地いいものではない。
そんな風に思うのは変だろうか。
考え方の違いだ。
4という数字から『死』を、連想するか『喜』と連想するか、単にそれだけの違い。
たったそれだけの違い。
「月だ……」
俺は呟いた。
綺麗な星空の中に、ひときは人を引き付け、周りに負けない光を放つ月。
まさに夜空の大スター。
月なのにスターって少し変だろうか。
まぁ、そんなことどうでもいいが。
俺はその月の下で、一人酒を飲んでいた。
こんな時は、おちょこに日本酒を注ぎ、くいっと一杯。そういきたいところだが、残念ながら缶ビール。
俺には日本酒なんて買うほどのお金などどこにもない。
貧乏な生活。
だが今日は誕生日ということもあり、財布の中の少ない小銭を絞りだし、小さな350ミリリットルの缶ビールをひとつ買った。
自分への誕生日プレゼントだ。
プシュッと炭酸が弾ける音を奏で、蓋を開ければ次に美味しそうなアルコールの臭いが鼻腔を擽る。
ゴクッとのどごしを味わう。いつぶりだろうか、数年ぶりになるのか、久しぶりのこの味わい。
「うまい」
噛み締めるように飲んだ、悲しみを、喜びを、悔しさを、悔いを、不安を、過去を、未来を。
――また、ひとつ歳をとったか。
体の芯に数年ぶりに染み渡るアルコールと同時に、ふと脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
もう四十歳だ。
俺はなんとなく、やれと言われたことをただやって生きてきた。
こうすれば良いと、素直に言われた道を歩いてきた。
他者がおすすめするレールに沿って、ただひたすら。
『高校は進学校に行きなさい』
俺は別に勉強がしたいとも思ってないし、好きでもないし、ホントは偏差値の低い学校でもよかった。ぶっちゃけやりたいこともその高校にはあったしそっちに行きたかった。
でも、
『~~高校!? なんでそんな所に行きたい? ダメだ、許さん!! だいたい、偏差値の低い学校に行ってなんになる? 将来のことを考えたら高い所に行った方がいい!』
その意見にも納得できた。
偏差値の高い高校に行って、大学に行き、最前線で活躍した方が収入もいいし満足に暮らしていける。
この場合、その高校に行った方が、いい選択なのかもしれない。
俺はその高校に行くことになった。
たいして好きでもない勉強の毎日が続いた。
そして、卒業後も偏差値が高いそれなりの大学を出た。
良い大学に行けば良い将来が期待できると言われたから。
理屈はわかってる。その通りだ。
就職もした。ちゃんとした企業で、収入も十分にもらった。
まさに勝ち組という人間だった。
しかし今はこれだ。
四畳半の部屋を月の明かりが彩っている。
家賃は格安、風呂なしのアパートだ。
――落ちぶれた。
――どうして。
正しいとされる良い選択をして生きてきたのに。
ここまで落ちぶれた。
――――時の歯車はいつから狂った?
なんとかして正常に戻したいが、なにをしても、どうあがいても、歯車は止まることを知ない。
時間なんて戻せない。そんな日常に、嫌気が差して感じてきた憤り。
飲み終えたビール缶を力一杯握りつぶした。
そして、壁に向かって投げつけた。
カコンッと音をたて床に転がりながら落ちた。
滴り落ちる残った数滴のビール。
同時に、俺の頬にも熱い感情が数滴流れた。
――どこで踏み外した?
――俺の人生はどこで間違えた?
――これからどうすりゃいいんだ?
会社にクビの通告を受けたとこからか?
いや、もともとその会社は評判が良くて迷ってるなら行った方が良いと言われ、なんとなく務めていた会社だ。
別にやりたいわけじゃなかったし、やりたいことじゃないから、故にやる気も出なかった。
クビになってもおかしくない。
ホントにやりたいこともあったにはあった。
ただ、今更夢を追いかけたところで歳も歳だから無理だし、たいして幸せが保証されてるような仕事じゃない。
なら、嫌でも働いて、保証されてる所に行って、幸せをつかんだ方がいい。
その考えはたしかに、すばらしい。
――なのに、どうしてだ。どうしてなんだよ。
いままで、間違えた選択肢を選んだ訳じゃないのに。どうして。ここまで落ちぶれたんだよ。
月の光が妙にうっとうしかった。
いつぞや俺に道を照らし出してくれた人のように暗闇に包まれていた世界を、道を、笑いながら照らす月に腹が立った。
睨んだ。
今では、先程まで綺麗な星々の光が、星空が、俺をバカにしてくる。
――なんだよ。
――くそっ。
もっと自分の意思に自信を持つべきだった。後悔するくらいなら、最初からやっておけば良かった。
俺は翌日になって――目が覚めた。
いろんな意味で。