お化け屋敷は浮かれるものらしい
翌日、生徒会室でやらされた夏休みの宿題は数学であった。いや、本当は地歴公民も出されたんだけど、一日でやるとか無理。いくら樟葉先輩という『愚者』がいようが髄膜炎になったらどうするんだ。というわけで、数学の分厚い問題集を終わらせたのだが、それだけでも頑張ったと思う、うん。
ちなみにどうでもいい話だけど、樟葉先輩は問題集は配られてすぐ、要するに新学期早々に終わらせたらしいです。あほか。
そのさらに翌日は午前中だけで終わりなのにもかかわらず、弁当を持ってくるように言われた。嫌だ。だって、朝起きるの大変なんだもの。朝起きてお弁当作るのって結構手間なんだよ? 覚ます時間とかもあるし。
まあ、僕は深草さんの家でアルテミスとアポロンの様子を見る前に、わざわざ遠回りをしてコンビニでおにぎりを2つ買ってきたのだが。何のためにこんなことをしてるんだろうね。『恋人』がいちゃつく大義名分のためとかなんて言われたら心折れるよ、本当に。
いや、実際心折れたわけですけどね。
最後の方なんて、樟葉先輩に言われるまま英単語を書いてたくらいだ。あの人があんなに焦燥した様子を見るのはこれが最初で最後なんじゃないかな。それにしても、よくリコール請求されないな、と思ったのはさておき。
ついに、宿題を全部終わらせたのだ!
いや、あの解放感はすさまじかった。中間テストの時にも勝ると思える快感。まあ、その後のカラオケですべてぶち壊しになったが、それでもすごかったのだ。でも、これで、ようやくのんびり読書したり古本屋に行ったりできる。そう思った時だった。
「よし、それじゃあ明日からは児童館でお化け屋敷を作るからな。朝8時に集合だ」
絶望に打ち砕かれた。
朝8時って、普段登校してるのと同じ時間じゃないですか。夏休みくらい、ちょっとのんびりしてたいんです。なんてことを口に出せたらよかったのだが。深草さんと山科さん、それに樟葉先輩にいろいろと説得されると僕としても動くしかなくなるのだ。別に早起きが苦ってわけでもないが、たまにはゴロゴロしたいと思うのは普通だと思う。
「それにしても、お化け屋敷作るなんてすごく楽しみだよ」
「お姉さまは初めてですから、無理もないと思います」
深草さんの家でフクロウたちの様子を確認し、山科さんと樟葉先輩と連れ立って向かう途中、そんな話を聞く。そんなことを言ってるとテンションが上がる人が約一名いるからそういうことは言わないんでほしいんだけど。
「私も小学校の学園祭以来なんだよね。だからどんなお化け屋敷なのか楽しみなんだ」
ほら、見たことか。
「ところで、ゆーくんは何のお化けやりたいの? 貞子さん? 口裂け女? それとも猫娘とかもいいかもね」
「全部女性じゃん!」
そこまでして僕を女装させたいのか! この人は。嫌だからね。役職がそれしかないって言われてもやらないからね。
「いいじゃん、コスプレみたいなものなんだから」
「ダメです! 僕は裏方をやりますからね!」
もともと裏方気質だし! 表に出るの苦手だし。
「チェッ」
そこ、舌打ちしない!
「着いたね」
「意外と遠かったです」
児童館は学校の最寄り駅から歩いて30分くらいのところにあった。本当のことを言えば隣の駅の方が近いんだけど、定期の有効範囲外だし。
「でも、どんなお化け屋敷になるのか、すごく楽しみ」
「みーちゃんも? 私も、洋風なのもいいけど、やっぱりこういうのは日本のものだよね」
暴走してる人が約一名、それに巻き込まれてる人が約一名、無表情のお化けみたいな人が約一名。この集団でお化け屋敷なんてできるのか?
「何、ひょっとしてゆーくんってお化け屋敷苦手だったりした?」
「いや、違いますよ」
ただ不安になっただけですとは言わない。
「それだったら、せっかくなんだし楽しもうよ、ね?」
暴走してない方の人から声を掛けられる。見るからに浮かれているみたいだ。こっちの人はいつも通りだとして、苦労する運命しか見えないが、楽しんだ方がいいかなと少し思った。お化け屋敷には、人を浮かせる効果があるのかもしれない。
もっとも、それは一瞬で絶望に変わったが。
「よし、それじゃあこれで全員だな。お化け屋敷作りを始めるぞ」
部屋に入ると、『恋人』たちの横に大学生らしき人たちが立っていた。それはいい。確かに、製作の手伝いだと言っていた。だから大丈夫だと思っていたのだが。
「作るって、まさか1からですか!」
その部屋は普段通りというべきか、机といすが置いてあるありさまだった。
「その通りだ、設計図から作るぞ」
「本当に0からじゃないですか!」
夏祭りまで残り一週間しかないんですよ!?
頻度があげられない……
質も落ちてる気がするなあ><