いろいろと疲れた
「伏見君、僕への返事は考えてくれましたか!」
えっと、何だろう?
今日は週明けの月曜日。今週が夏休み前最後ということで、大分荷物の減ってきて楽になったと思ったところだった。そこで、学校に着くなりいきなり知らない男子に話しかけられた。
隣にいた深草さんと山科さんも固まる。これまでの習慣がちょっと変わって、深草さんの家でアポロンとアルテミスの様子を見ていくようになったんだった。それはともかく。
「えっと、失礼ですがどなたでしょう」
「僕です! 桂光弥です! あなたに告白した!」
「えっと、桂君ね。って、あ」
思い出した。
僕にトラウマをぶっこんでくれた犯人じゃないか! 告白してきてなぜか逃げ帰って樟葉先輩にいろいろと言われる元凶になった人じゃないか!
「で、結論は考えてくれたんですか。大丈夫です。性別という壁があっても、僕ら二人なら大丈夫ですから!」
「いや、大丈夫じゃないから」
というか、勝手に自己完結しないでほしい。それと山科さん、性別という壁に阻まれないの部分でちょっと感化されるな。僕と深草さんが結婚すればいいと言ってたくせに何を考えてるんだ。まあ、僕は、そんな気はないわけだけど。
「ごめん、ごめんだけど、僕は男の子には興味ないから。だから、無理だから」
というか恋愛自体に興味持ちたくないから。それを言うと面倒そうだと思ったから十条さんみたく好きな人がいるふりをすることにしたけど。
「じゃあ、じゃあ、どういう人が好きなんですか!」
「どういう人って言われても」
どうしよう。特に思い浮かぶ節がない。というか、好きになったことがある人って、従姉しかいないんじゃ。えっと、ここは適当に答えておこうか。
「そうだね、えっと、優しくて、家庭的で。あ、僕は料理が好きだから一緒に料理してて楽しい人がいいかな」
「僕、頑張って料理上手くなりますから!」
ならなくていいから! というか、深草さん、なんで少し朱が差してるの?
ああ! 料理対決一緒にしたんだった! 忘れてた。
「そ、それと」
とりあえず何か言わないと! それも、絶対になれないような、体格的な何かを。えっと、誰かいないか、参考になる人は。深草さんはパスとして、山科さんか。
「それに、僕、背の小さな人が好きなんだよね。150センチないくらいの。だから、ごめんだけど無理」
「そ、そんな、殺生な」
勝手に好きになられた人に言われたくはない。というか、絶対お断りである。身長縮むのは無理だからね。
「ぜ、絶対に認められて見せますから!」
そう言葉を残して桂君は逃げ去っていった。うん、あの人は『悪魔』だな。わけがわからない。
「私だって、身長は無理だけど、頑張るから!」
こっちもわけがわからない。
「とりあえず、お姉さまを傷つけるような嘘はやめてください。それから、私を引き合いに出さないでください」
うん、山科さんが一番わかりやすいかもしれない。
「なるほど、伏見悠杜。なかなかいい原稿じゃないか。特にこの、アーサー・コナン・ドイルが解決した事件の件なんか、現代日本でも通用するぞ」
「ありがとうございます」
それ、考えたの僕じゃないんですけどね。
「よし、それじゃあ、この赤でつけた部分を書き直してくるように」
「ええ! これじゃだめなんですか!」
今更一から書き直したくなんかないんですけど!
「文法としておかしいし、それからこことここは入れ替えた方が説得力ある。いいからさっさと直せ!」
「ええ、頑張ったのに……」
特に指摘されたところ、自分で一番気合を入れたところなんですけど。なんか、全否定された気分だ。
「よし、FFコンビのもう片割れはほとんど大丈夫だな。段落を変える必要もなしと。後は、細かい言葉の使い方がこの辺がおかしいが、その辺はすぐ終わるだろ」
「はい!」
なんだろう、この扱いの差は。
「ねえねえ、朝から未悠ちゃんの家に行ってたって聞いたんだけど、本当?」
しかも、樟葉先輩がシャリシャリ出てくる。ちなみにこの人はチェックすらされてなかった。ちょっと不公平じゃないかなって思う。まあ、それはそれとして。
「行ったって言っても、飼ってるフクロウの様子確認しに行っただけですよ?」
「本当なんだ!」
あ。
誤魔化しとけばよかったかもしれない。この人、獲物を見つけた目をしてる。
「それじゃあ、今日一緒に未悠ちゃんち行こ! 未悠ちゃんもいいよね?」
「あ、いいですよ。アルテミスとアポロンも喜ぶと思います」
まあ、わかったところで逃げ切れるはずもないのだが。
「それじゃあ、生徒会終わったら行きましょうか。一応、午後も様子確認しときたかったんで」
「やった」
小さく樟葉先輩がほほ笑む。うん、笑顔はいいんだけどね。他がいろいろ。なんというか、ともかくいろいろと疲れた。
収束しないなあ……




