この人が裏で糸を引いてるんじゃないのか?
昼休みは散々だった。
男子から告白されて、それを樟葉先輩にいいようにからかわれ、しかも、その噂をまき散らされたのである。あんなに口が軽い人、初めて知ったよ。というか、僕のうわさで遊ぶのはやめて欲しい。しかも、いうに事欠いて、僕が女装したら意外とかわいいんじゃないか、なんて。ふざけんな! 先輩だけど、ふざけんな!
とまあ、そんなことがあって、深草さんの耳にも入ったわけで。女装させようなんて言い出されなかっただけましだけど、僕はどうすればいいのだろうか。とりあえず、帰るときにでも十条さんに相談に行こう。そう思ったところだった。
「伏見君、ちょっといいかな」
坂本さんから声がかかる。
「あ、ちょっと待ってて」
深草さんに向き直って伝えておく。もともと恋愛相談なんて一人で行くつもりだったし。
「ごめん、先帰っててくれない。僕この後用事あるから」
「うん、わかった。それじゃあ、また明日ね」
前ほど一緒に帰らなくても怒らなくなった、ような気がする。
「それで、坂本さんは何の用かな?」
「あのね、夏休みなんだけど、いつものメンバーで海水浴にでも行かないかなって?」
そう言って小首をかしげる。そうだ、夏休みだ。友達と一緒に出掛ける。これぞ、青春って感じだね。青はわかるけど春はどこ行った。今は夏だ。それはともかく。
「いいんじゃないかな。2人には話をしたの?」
「うん。でね、その日付のことなんだけど、大谷君が忙しいみたいでさ」
「ああ、なるほど」
本人から直接聞いたわけではないが、大谷君はバスケ部で一年生の期待の星らしい。それに、運動系の部活をやってたらそりゃ忙しくなるよね。僕は運動あまり得意じゃなかったから入らなかったけど、そうやって青春するのもありだったかもしれない。
「でなんだけど、8月の13日、お盆なんだけど、空いてないかな? 聞いたところ、他の2人は大丈夫だったみたいでさ」
「大丈夫ですよ。僕、地元東京なんで」
帰省予定はあるけど、電車で1時間もすればたどり着く。長期間田舎に帰るわけでもないしね。
「ありがとう! 私、お盆はそれくらいしか空いてなくて。2人にも決まったって伝えておくね」
そう言って坂本さんはその場を後にした。何気に友達と泳ぎに行くなんて初めてだ。少し、というかかなりわくわくするぞ。
まあ、でもともかく今は、目下の重要がある。そっちにも行かなければ。
カフェ『シャルロット』には意外な来店者がいた。
「いらっしゃい、悠杜君。そろそろ来る頃だと思ってたよ」
「ヤッホー、ゆーくん」
……僕の変な噂を流してくれた張本人だった。
「まあ、カウンターにでも座りなよ」
「あの、なんで先輩がここにいるんですか?」
「ああ、私が呼んだんだよ。ちょっと用事もあってね。まあ、その前に悠杜君の話を聞こうかなとは思うけど」
怪訝な顔をした僕に十条さんがフォローを入れる。はあ、疲れる。
「事情は大体加乃ちゃんから聞いたよ。で、伏見君はどうしたいのかな?」
「とりあえず、断ることだけは決定です」
「女装はするの?」
「それもしません!」
樟葉先輩……油断も隙も無い。しないからね、絶対! これ以上黒歴史は作りたくない。
「まあ、それはともかくとして、悠杜君は断ることだけは決定と。で、どうするかは決まってるの?」
「それなんですよねえ。会いたくないし。でも、何も言わずに逃げてきちゃったから」
「男の子からの告白かあ」
十条さんが僕を見て意味ありげなため息を漏らす。いやな予感がする。
「まあ、わからなくはないかもね。確かに、男の子にモテそうかもしれない。料理できるし、かわいい系だし。私もわからなくはないし」
「ちょっと、変なこと言わないでください!」
やっぱり嫌なことだった! というかわかるな!
「まあ、それは冗談として。でも、伏見君はそんな雰囲気あるのは本当だしね」
「じゃあ、どうすればいいんですか……」
もう、頭が考えるのを拒否しそうだ。やめて! 笑顔で微笑まないで! 言葉もダブってるし!
「だったら、他の人と付き合っちゃえばいいんだよ。例えば、未悠ちゃんとか」
「ふえぇぇぇ!?」
へ、あの、は。ほへ!?
ちょっと回路ショートした。
とりあえずいくつか突っ込み入れたい。
「まず、とかって深草さんに失礼でしょうが! それに、深草さんが僕に惚れてるなんて信じませんからね!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
「信じない、信じないですからね、僕は!」
そんなこと信じたくないですからね! 深草さんが僕に惚れてるなんて。
「すごくめんどくさいね」
「私もそう思う」
聞かないそんな話聞かないから! 聞こえない聞こえない!
「そ、それに、僕、恋愛はしない主義だし」
「それ、直した方がいいと思うよ。高校の時ぐらい、恋愛に現を抜かすとかさ」
「楽しんだもの勝ちだと思うんだけど」
うるさいな、もう!
「だからさ、未悠ちゃんと付き合ってみたらいいんじゃないかと。私も協力するからさ」
「言わないで! それ以上言わないで!」
僕は深草さんと付き合わないんだから! そういうことに決めてるんだから!
というか、十条さん、裏で糸引いてないですか? こそこそと、付き合わせようと画策してません? そんなわけ、ないよね? 十条さんが黒幕なんてわけないよね? うん、前提条件から違うはずだから!
「はあ、これだからゆーくんはヘタレなんだよ」
「まあ、今のところは仕方ない、か」
耳をふさいで転げまわったおかげで、何とか撃退できたのだろうか。はあ、もう嫌だ。精神摩耗する。
「で、ところでなんで樟葉先輩を呼んだんですか?」
話題変えよう。
「ああ、それなんだけどね。せっかくだから、夏休みにでもみんな、悠杜君と未悠ちゃんと、あと京香ちゃんと加乃ちゃんでどこか行かないかなって。ほら、常連さんだし」
どうやら、遊びに行く相談だったらしい。
「私は面白そうだなって思ったんだけど、ゆーくんはどう?」
「まあ、いいんじゃないですか」
というか疲れた。
「よし、それじゃあ、8月の頭の方、開けといてね」
また予定が増えた、か。しかたない。
「あ、それから泊りだからね」
やっぱり、この人が黒幕なんじゃないんだろうか。
樟葉先輩が思ったより暴走してる……
それから、全然かけないよ><
18/2/2:十条さんの深草さんの呼び方を訂正しました。いけないいけない……




