山科京香 お姉さまを傷つけようとするカスは許しません!
私に言わせれば、この世界のほとんどのものには価値など無いのです。
価値があるのは、お姉さまだけ。それに付随するその他のものは、ごみや埃に過ぎません。それに比べてなんとお姉さまの崇高なることか。ほかのものなんて塵ほどしかありません。いえ、お姉さまと比較するの自体が間違ってましたね。
私を私として認めてくれたのはお姉さまでした。あの時ばかりは男に生まれなかったことを後悔したものです。いえ、違いますね。今も後悔し続けていると言った方が正確です。だからこそ、私はお姉さまの役に立とうと決めたのです。
にも関わらず下賎なる豚どもはお姉さまに群がるのです。基本的にお姉さまは温厚ですが、自分の時間を邪魔されると怒ります。ええ、それはもう、大変に。前の取り巻きの№1はそのせいで失脚しましたからね。ですから、そんな風に近づこうとするクズは私が排除して差し上げているのです。まったく、崇高なるお姉さまの手を煩わせようとするとは何事でしょう。
ですが、あの男、伏見悠杜だけは別なのです。あいつは唯一お姉さまに近づくことを許されておきながら、にも関わらず伏見悠杜はお姉さまを邪険に扱うのです。私でさえ、ここに至るまで大いなる努力をしてきたというのに。ああ、崇高なるお姉さまを拒絶するとは、何たる罪人でしょう。しかしそこは流石お姉さま、その器の深さで伏見悠杜を認めてしまうとは。お姉さまの慈悲は海より深く山より高いのです。
ああ、いけませんね。話題がそれてしまいました。そうです、その崇高なるお姉さまを汚そうとするカスどもの話をしようと思っていたのでした。お姉さまは崇高なる故、その身を狙うものがたまに現れるのです。これも高貴なる者の定め。もちろん穢れを受けるつもりなど塵の欠片ほどもあるはずありません。そのようなカスどもは私が代わりに天誅を下してくれましょう。お姉さまはいつまでも汚れなきままでいて欲しいのです。
今日、私は学校を休んでいます。それもそのはず、お姉さまに仇成す愚か者がいるという話を聞きましたからね。情報によれば、人数はそれほどいないとのことなので、私一人で来ました。もっと組織的な、大規模な犯罪ならば親衛隊のメンバーを動かすのですが、それほどのこともありませんからね。全く、行動範囲が変わるとすぐにちょっかいをかけようとする馬鹿どもが増えます。この時期は忙しくなります。
「手順はわかってるな」
「ああ」
ブロック塀越しに声が聞こえてきます。こいつらですね、今回害をなそうとしているロクでなしは。
「俺があの女の注意を引き付ける。その隙に」
「口を押さえて連れ込んでしまえばいい、と」
「俺は連れをぶん殴っといて」
「で、俺が連れ込んじまえばいいと」
間違いありません、こいつらです。四人組という話でしたし、この下種な感じ、醜悪の一言です。鼓膜を破ってしまいたいくらいですがそれでは声を聞くことができませんからね。代わりに監獄に送って差し上げると致しましょう。
「にしてもあの女も罪だよな」
「早くあのクソビッチが泣き喚く姿が見たいぜ」
カチンと来ました。こんなの死ねばいいのに。優しいお姉さまのことですこんなのが死んでも責任を感じてしまうのでしょうね。だから殺しませんが死ぬほどの目にはあわせますよ。
「まったく、百歩譲って我々を甘く見たことは許してあげてもかまいません。ですが」
影から姿を現す。きっと私のことも生意気な小娘としか思ってないのでしょうね。といいますより、こういう馬鹿は相手をよく調べもしないのです。恐らく、自分たちに都合の悪いことからは目を背けているのでしょう。どこまでもクズですね。さっさと処分してしまいたいくらいです。
「ですが、お姉さまをクソビッチと呼ぶとは何事ですか!」
「誰だ、こいつ」
「さあ、俺らにやられに来たんじゃね」
もう怒りましたよ。カスどもを血祭りにあげてやりましょう。まあ、最初から許す気など毛頭ないけどね。
イライラする。
「貴様ら何様のつもりでお姉さまを侮辱する!」
「それより俺らといいことしようぜ、嬢ちゃんよ」
ああ、クズがクズがクズが。私に触れるな。
「触れるな、下賎な豚どもが!」
「人がせっかく下手に出てやってるっつーのに」
「調子に乗りやがってこの女ァ!」
やっぱりこいつらクズどもには救いようがない。お姉さまを侮辱したことももちろん許せないけど、パンチもヒョロヒョロで遅すぎだ。いや、パンチですらないな。弱いくせに自分が力があると思い込んで自分の都合のいいように世界が回ってると信じていて。考えたくもない。今はどれだけ痛めつけてやるかの方が重要だから。
腕を取ってもう一人にぶつける。三人目の金的を蹴り上げて、最後の一人も腕を交わして鳩尾に衝撃を加えた。そのまま後ろ回し蹴りを放って三人目をもつれていた二人に吹き飛ばす。そのまま踏みつけて殴りつけていたうちに気絶してるし。柔だな。
もちろんそれで終わらせるつもりもない。一人ずつ当身で起こしてから殴りつけ、壁にぶつける。後頭部を狙ってないだけましだと思ってほしい。それを二周繰り返す。
足りない。まだ足りない。こいつらは許せない。だけど、お姉さまは悲しませられない。
「てめえ、死ねえぇ」
チッ、カスが。ナイフを繰り出してくる。ちょっと油断した。大きく飛びのき、今度は片手で白羽取りをして手首を叩く。取り落としたナイフを拾って動脈を避けて突き刺した。うるさい、口をふさげ。のど潰すぞ。ついでに他の三人もナイフを持ってないか確認。持ってたので使えないように同じ事を。人って自分の血を見るとビビるんですよ。特にこんなチキン野郎の場合は。あ、もちろんそれで終わらせませんよ。
警察が来る。それまで、痛覚の集中したポイントを痛めつけてやった。しばらくの間はちょっと精神がおかしくなるかも知らないけど知ったことか。
ため息を吐く。精神的に疲れた。お姉さまに抱き着きたい。
ホントにこういう輩は雨後の筍のように出てくるから困る。加乃さんあたりに協力を要請してもいいかもしれない。そんなことを思った。
でもやっぱり、お姉さまを傷つけようとするカスは許しません!