僕はそんなに神経太くない!
山科さんに譲れないものがあるように、僕にだって譲れないものがある。
たとえ、それが足手まといになるとわかっていても、何の力にもなれないと言われていても、だからといって大切な友達を放っておくなんてできるわけがない。見捨てるなんて出来っこない。そればっかりは、僕だって譲ることができない。
だから、僕は病院のベッドから抜け出した。格好は制服のままのようだ。かばんが近くにあったが無視する。どうせ、武器になるようなものは入っていない。
そのまま病院から抜け出した。そこは、どうやら駅前にある病院らしい。果たして山科さんが行ったのは、そして深草さんが連れ去られたのは、どこだろうか。勢いのまま出てきてしまったが、さっぱりわからない。
いや、手掛かりはないこともない。襲われた場所の近くだろう。ということは、ちかくに廃工場がある。肝試しにちょうどいいよなんて十条さんが言っていた場所だ。そこを当ってみるか。
まだ少し体が重いし、バランスも危ない。ふらふらするし、走っていこうとすると蛇行する。でも、僕にだって譲れないものがある。だから、僕は行く。
幸いだったのかどうかは知らないが、僕の目的地がくだんの場所だったらしい。廃工場の中では十条さんや山科さんが『塔』たちと戦闘を繰り広げていた。樟葉先輩も奥の方で戦っているが、満身創痍。こんな状態で僕ができるのは、不意打ちの一撃くらいだろう。
近くの鉄パイプを手に取る。十条さんが押されかけている。こいつか。なら、これでもくらえ。
荒い息を吐きながら鉄パイプを食らわせる。相手は体勢を崩した。けれど、どうやら、倒しきれなかったらしい。
「よくもやってくれたな小僧!」
そう言うなり吹き飛ばされる。
「ご、がはっ」
思いっきり背中からコンクリートに落ちる。上手く、息ができない。首だけを回して戦況を見守る。というか、起き上がるのさえつらい。
「よそ見してるのはどっちだ!」
十条さんが不意打ちで殴り掛かるが、それをいとも簡単にそいつは受け流す。くそ、十条さんでも勝てないのか。
けれど、それで十分だったらしい。そいつは油断も隙もないような奴だったが、他の人はそうでもなかったようだ。油断したところを、山科さんが2人まとめて吹き飛ばす。これで、大分戦況が楽になったんじゃないのか。
「ふっ、まだまだ!」
けれど、そいつはまだしつこい。十条さんが大きく押され始める。その時だった。
「すいません、おくれました!」
そんな声をあげながら、一人の少女が廃工場に駆け込んできた。見たことのない制服だ。あ、親衛隊か。
「ごめん、こいつ手伝って!」
十条さんの声にその少女は飛び込んでいく。山科さんはもう、樟葉先輩が相手をしていたやつごと敵を追い詰めていたし、1対2になって、十条さんもかなり楽そうになったようだ。どうやら、戦況は決まったのか?
僕も力が抜けそうになる体を必死に起こして壁に体を預けながら立ち上がる。流石にそいつもきつかったのか、最後は背後から樟葉先輩の鉄パイプの一撃を食らっておとなしくなった。
ここに、戦いは決着した。
「元凶はこいつだったよな」
いつになく怒っていて、少し言葉も乱れながら、樟葉先輩が『塔』近づいていく。
「これは私たちみんなの分だ、受け取りやがれ!」
そう言うと樟葉先輩は思いっきり『塔』の股間を蹴飛ばした。痛そうだけど、かける慈悲なんてない。これで、すべて、終わった。
深草さんはずっと地面に座り込んでいた。ようやく落ち着いたのかへなへなと立ち上がる。
「なんで来たんですか! 来るなと言ったでしょうが!」
山科さんが僕の胸倉をつかむ。正直、それだけで苦しい。
「ごめん」
「聞きたいのはそんな台詞じゃない! どうして来たのか聞いてるんです!」
がくがくと揺さぶられる。やめて欲しい、力が抜けそうだ。
なんで、か。いろいろと理由はあるけど、やっぱり一番は。
「僕が、臆病者だから、かな」
「はあ!? なんですか、その理由は!」
「僕は!」
山科さんの声につい声を荒げてしまう。
「僕は、自分だけ安全なところにいて、友達を見捨てるなんて真似できない! 大切な友達が大変な目に遭ってるのに知らないふりなんかできるくらい、僕はそんなに神経太くない!」
僕はそんなことできない!
「ふざけないでください!」
「京香、もういいよ」
本当に、殺す気かもしれない。そう思ったところで、深草さんがストップをかける。
「お姉さまが傷つけるかもしれないんですよ」
「ううん、私は傷ついてなんかないよ。それより、ありがとうね。悠杜君」
「あ、はい」
一件落着。そう油断したところだった。
「悠杜君、大好き」
そんな声がして、深草さんに抱き着かれてしまった。貧弱な僕の体が揺らぐ。それを、何とか気力だけで保つ。あれだよね!? 今好きって言ったのはつり橋効果的な何かで本心とは関係ないよね!?
「すごく不安だった! 心細かった!」
いつの間にか、深草さんは泣いていた。そうだ、こいつらに襲われそうになってたんだ。それぐらいあっても不思議じゃないのかもしれない。それを無理して我慢していただけで。
「でも、悠杜君が来てくれて、すごくうれしかった! 助けに来てくれたんだって、すごく!」
だから、一時の感情だろうけど、でも今だけは、深草さんに寄り添ってあげていたい。そう思った。不安にならないように。僕も、手を伸ばして薄い胸板だけれど深草さんを抱きとめる。あ、こら、樟葉先輩! にやって笑うな!
「ありがとう、ありがとう」
でも、今だけは。今だけは、こうして深草さんを抱きしめていよう。そう思った。
ようやく章タイトルが回収できました。ふう
自己暗示をかけてるのは相変わらずだけど、主人公リア充過ぎ! 場所変わって欲しい……。でも、私だったらあそこで飛び込んでいけないので、やっぱり伏見君が主人公なんですよね
ともかく、第3章はあと2話で完結です。それでは




