深草未悠 私は何もできずにいた
みんなが、戦っている。
一番手ごわそうな体格のいい人を、千秋さんが、そのほかの大人数を京香ちゃんが、そして、私の目の前で、加乃先輩が、満身創痍でも、私を守ってくれている。みんな、みんな、頑張ってくれている。だというのに、私は腰が抜けて動けなかった。
助けを呼びに行くなり、逃げ出すなり、あるいはその辺りに転がっている鉄パイプを拾って攻撃するなり、何かしないといけないのに。だというのに、腰がへたり込んで、動いてくれない。怖くて、何もできない。
私だって、一対一ならそこまで弱くはないはず。柔道の授業でだって、いい成績を取ってたし、運動神経にも自信がある。でも、私は、京香ちゃんたちとは違って、喧嘩はしたことがない。
京香はいつも、先んじて始末してくれる。加乃先輩も、それを手伝うことがある。千秋さんは知らないけど、喧嘩慣れした感じがある。みんな、物怖じせずに戦ってくれてる。だけど、私は喧嘩なんてしたことはなくて、巻き込まれたことも一度しかなくて、目の前の目まぐるしく変わる喧騒に、ただ怯えているだけだ。
何とかしなくちゃ。動かなくちゃ。そう思っても、体が言うことを聞いてくれない。
近くで戦っていた加乃先輩の握っていた鉄パイプが弾き飛ばされる。これで、加乃先輩は素手だ。しかも、一番最初からいるから、制服はもうボロボロで、擦り傷だってあちこちにできてる。
私のせいだ。私が、こうして、人目を惹くせいなんだ。そう思ってしまう。
理屈では、違うってわかってる。全部、悪事を企む人が全部悪い。でも、それに京香ちゃんや、千秋さんを巻き込んでしまったのは私だ。親衛隊に入ってくれたのは彼女たちの意思だけど、それでも巻き込んでしまったのは私なんだ。悠杜君が殴られたのも私のせいだ。そう思ってしまう。
「くっ」
バックステップを踏んで勢いを殺したけれど、加乃先輩が吹き飛ばされる。それに、私は目をつむってしまった。
「やめて! もうやめて!」
満身創痍のままふらふらと立ち上がろうとする樟葉先輩に、思わず声をかけた。
「未悠、あんた、自分のために誰かが傷ついてほしくないって思ってるだろ」
けれど、加乃先輩は立ち上がった状態で、傷だらけの笑顔で笑った。
「未悠が思ってるのと同じように、私だって未悠に傷ついてほしくなんかないんだよ!」
相手の鉄パイプをかわしてつかみ取りながら、加乃先輩は言う。
「そりゃ、ちょっと楽しんでる部分はあるけどさ。私だって選んで親衛隊に入ったんだ。そいつらの覚悟を馬鹿にするようなことを思うんじゃないよ!」
そう言うなり加乃先輩は、鉄パイプを離し、バランスを崩した相手に蹴りを叩き込む。ただ樟葉先輩も消耗していたのか、相手はすぐに起き上がってくる。
でも、そうだ。私がこんなところで、心折れてちゃだめだよ。みんな、私のために戦ってくれてるんだから。だったら。
そう思って、ゆっくりと立ち上がる。まだ恐怖で、あまり動けないけど、自分一人くらいは何とか。そう思って鉄パイプを手に取る。
「未悠ちゃん! がんばれ!」
入口の近くで手ごわい人と戦っていた千秋さんが励ましの言葉をくれる。でも、押されがちだ。
「よそ見してる場合かよ!」
千秋さんと戦っていた人が攻撃のペースを上げる。千秋さんは防戦一方で次第に追い詰められていく。どうにかしないと。そう思った時だった。
「威勢のいい口はどこへ行った? ほらっ、がはぁ」
背中から殴られたかのような不意打ちを受け、千秋さんの相手が崩れる。その向こう側には。
「……伏見、君?」
鉄パイプを振りぬいたような恰好で、私の最愛の伏見君が立っていた。
ここにて主人公登場! さすが、主人公補正がありますね。ご都合主義だなぁ……




