戦力外通告された……
「かはっ!」
胸に入った衝撃で目が覚めた。そうだ、深草さんは!? 樟葉先輩はどうなったんだ!? 急いで飛び起きる。
「ようやく起きましたか」
そこには山科さんがあきれ顔で立っていた。どうやら山科さんに胸を殴られて無理やり起こされたらしい。
あたりを見渡す。見知らぬ天井、白い部屋、そしてベッドに、何かの計測機械。ここは……病院だろうか?
「ここは……。そうだ、深草さんは!?」
きょろきょろと見渡す僕に黙れとばかり軽く殴りを入れる。
「落ち着いてください。あなたは後頭部を殴られて病院に運ばれました。現在樟葉さんが交戦中で、十条さん、高槻さんが現場に向かってます。あなたに説明次第、私も現場に向かいます」
「それじゃあ、僕も行かないと」
「来ないでください」
ベッドから降りようとした僕を、山科さんが止めた。なんでだ?
「でも……」
「いいから来るな!」
それは、普段冷静な山科さんの、初めて見た叫び声だった。胸倉をつかみ上げられる。その目が赤く染まっていた。
「失礼、取り乱しました。あなたは後頭部を殴られました。脳出血の可能性もあります。検査が終わるまで来ないでください」
そう言って、山科さんは僕の服を離す。その勢いに、僕は言葉が出ずにいた。後ろを向いた山科さんが言う。
「あなたが傷つけば、お姉さまが悲しみます。自分よりも、あなたの方が大切なんでしょうね。なので、お姉さまを悲しませるようなことを、させないでください」
「でも……」
「死んだらどうするんですか!」
そう叫んだ山科さんの拳はきつく握られ震えていた。
「脳出血かもしれないんです! 下手したら死ぬんです! 死んだら、お姉さまがどれだけ悲しい思いをすると思ってるんですか! そんなことをするなら、私が殺してやります!」
死んでる人間は殺せない。でも、そう言ったのは、山科さんなりの決意なんだろう。深草さんを傷つけないために、あえて僕を越させないようにしている。
何となく、山科さんの行動原理が分かった気がする。山科さんが僕に優しくするのはあくまでもついで、深草さんのためなのだ。きっと、誰もいなければ、僕は駆けずり回ったことだろう。そうして、深草さんを傷付けることも考えずに。だから、僕を止めるためにここにいる。真っ先に駆け付けたいはずなのに、僕を止めようとしている。
「でも、人は多い方が」
「来ないでと言ってるでしょうが!」
その叫び声はあまりにも大きかった。右手が顔に翳されるのが後ろから見えた。
「はっきり言います。あなたは来たところで役に立ちません。あなたじゃ、プラスどころかマイナスです。人質に取られたら、私たちは手が出せなくなります」
それでも、行った方が戦力になるんじゃないかと思った僕に、山科さんは容赦なく言葉を突き刺す。でも、これが、きっと山科さんなりの優しさとか、そういうものなのかもしれない。
「私はこれから向かいますが、あなたは絶対に来ないでください。来たら……、殺しますよ」
そう言って、山科さんは走って出ていってしまった。
殺すというのは冗談だろう。でも、それくらい強い静止だ。どうやら、僕は、戦力外通告を受けたらしい。僕の喧嘩はめっぽう弱い。来たところで何の役にも立たないどころか、深草さんを悲しませるだけ。人質に取られることを考えたら、行かない方がいい。山科さんたちは、僕とは規格外のところで戦っている。山科さんは、きっと、僕のことも、深草さん越しだけれど考えているんだろう。それはきっと、山科さんにとって、絶対に譲れないものだ。だからきっと、こうして、病院のベッドの上でただ、戦果を待っているだけの方が、いいんだろうな。そんなことを思った僕だった。
ごめんね、深草さん。そして、山科さん。
……あれ? ……主人公?




