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学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!  作者: 蒼原凉
学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!
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自重しようよ、山科さん!

 その翌日、僕は深草さんと一緒に電車に揺られていた。別にカップルとかじゃないんだからね! 一緒に帰るのだから一緒に学校に行ってもいいよね、と押し切られたとかだからね! 朝家の前で待ち伏せされてたわけじゃないからね!

 そういうわけで学校に向かう僕たちだったが、普通の学生よりも早く家を出ている。そのせいで僕は眠いわけだが、これには理由があるわけで、これからそれは起ころうとしているのだった。

 早めとは言え、朝のラッシュにかかるくらいの時間。当然座れるはずも無く、僕は深草さんと二人、つり革にぶら下がっていた。するとその後ろに立っていた男が右手を下ろしてくる。そのさらに後ろにいる人には気がつかないまま。今日もやっぱりこうなったか。そしてそのまま右手を動かそうとする、前にその手がつかまった。

「この人痴漢です!」

 男の後ろにいた少女が叫ぶ。と同時に手を後ろに回して関節技を決めた。僕も男の肩を掴む。

「ち、ちがう、これは誤解だ!」

 男が叫ぶ。けれど少女は容赦することが無い。

「問答無用です! 次の駅で降りてもらいますからね」

 少女が言う。当然僕らも次の駅で降りることになるのだが、一駅過ぎていてよかった。酷いときはこのやり取りが二回あるからね。

「そう言えばこいつ、前逃げたやつじゃないか!」

 誰かが言う。そう言えば、深草さんじゃないけど痴漢って言われて逃げたやつと同じ顔だな。

「そういうことですから、降りていただきますよ」

「お、俺は無実だ。まだ何もしてない」

 そんな男の言い訳虚しく、僕らは次の駅で男を駅員に引き渡すのであった。毎度のことながらめんどくさい。




「毎度ご苦労様です」

 もう知り合いになった駅員さんが言う。その現場には僕と深草さん、痴漢の男と、先ほどの少女がいた。

 少女の名前は山科京香(やましなきょうか)。僕らのクラスメイトであり、深草さんの幼馴染でもあり、そして深草さんに恋愛的な意味で惚れている代表格でもある。小さな身長に、黒髪のツインテール。小さな瞳と澄んだ紅色の唇は人形のようだ。性格以外は。

 性格は、一言で言えばヤンデレ。頭もいいし、運動神経もよくて性格も悪くないはずなのに、深草さんに惚れていて、お姉さまと呼んで自重しない。さらには深草さんに纏わりつく、本人が害としたものを物理的に排除している。まさに『力』である。ちなみに昨日いなかったのはおそらくそのせいであろう。そして、お姉さま親衛隊という組織の会員ナンバー2、実質の№1である。ちなみに知らないうちに僕は会員ナンバー136にされていた。なぜだ。

「俺は痴漢なんてしてない! 無実なんだ!」

 男が叫ぶ。確かに未遂で終わっていたわけではあるけれど。でも山科センサーに引っかかった時点で有罪だと思う。それに僕からしても、女の子にそんなことをしようなんて許せないしね。

「俺は何もしてない! まだ触ってなかったんだ!」

「でも触ろうとしたんですよね」

「ち、違う、俺は」

 山科さんの台詞に男はたじたじになる。深草さんは早くしてくれといった目をしている。僕も白々しい目で男を見ていた。

「崇高なるお姉さまに触らせるわけが無いでしょうが。下賎な豚の癖に痴漢を働こうとは、何たる罪」

「俺はただ、手を下ろしただけで」

「だとしても紛らわしい時点で有罪です。それに証拠だってあるんですよ」

 そう言って山科さんはポケットからスマホを取り出す。

「会話、録音されてると思わないんですね。これだから馬鹿は」

『俺は何もしてない! まだ触ってなかったんだ!』

「まだってなんでしょうねえ?」

 意味ありげに山科さんがウインクする。男の顔が青くなるのが目に見えてわかった。

「私に教えてくれませんか? まあ、下賎な豚の言うことが理解できるとは思いませんが。ああそうだ、証拠ならまだありますよ」

「もうやめてください……。俺が、やりました」

 男ががっくりとうなだれる。ふう、今日は早かったな。山科さんは満足してないみたいだけど。

「まったく、下賎な豚の癖に。手ごたえがありませんね」

『お、俺は無実だ。まだ何もしてない』

 そして再び別の録音を流す。まあ、僕も聞いてたし、未悠さんも下衆を見るような目で見てたしまず間違いないでしょう。

『こいつ痴漢です!』

『違う、俺は!』

 さらに前の時の分。死体蹴りって、自重しようよ、山科さん!

10/6:山科さんの会員ナンバーを変更しました。

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