ようやく光明が見えてきたよ
眠いです。とてつもなく眠いです。理由は簡単です。寝てないからです。徹夜したからです。
朝帰りで怒られなかったのはいいけど、まったく寝られなかった。というか、帰って朝ごはん食べてすぐゴーだから寝てる間がなかった。深草さんが不思議そうだったけど、今はそれどころじゃない。つり革ぶら下がってても寝ないのに必死だったし。ほんとに瞼を洗濯ばさみでこじ開けようかと思った。持ってないけど。
なので、授業中に寝たいと思います。というか、寝ないともたない。これ以上酷使したら倒れる。ノートを後で誰かに写させてもらおう。元凶の山科さんとか。え、坂本さんが昨日の成果を聞いてきたけど、もう無理。深草さん任せた。僕詳細知らないし。ごめんなさい、寝ます。
次に僕が起きたのは一時間目前の礼だった。いや、その前にも起きたはずなんだけど、意識がはっきりしないし。いつの間にかノートが僕の目の前に置いてあった。でもごめんね、寝ないと体がもたないんだ。
午前中の授業はほとんど寝てましたよ。よくバレなかったと思う。前に座ってた人に感謝だな。
「あの、山科さん」
いつものように、山科さんに弁当を突っ込まれた後、話を切り出す。
「午前中寝てたし、ノート借りてもいい? ほら、山科さんとこでぬいぐるみ作ってたせいもあるんだし」
怪訝な顔をする山科さんに慌てて取り繕う。山科さんは深いため息を吐き出した。
「はあ、かまいませんが伏見悠杜、あなたはそれを一体いつ写すつもりなんですか? 言っておきますが放課後は無理ですよ」
「あ」
「まさか、それを失念していたとは。どうしようもありませんね。で、どうするんですか?」
完全に忘れてました。
「……全部終わってから写すことにします」
「それが賢明でしょうね」
山科さんはもう一度深いため息を吐いた。面目ない。最近こればっかり言ってる気がするけど。
「あの、伏見君」
「ごめんなさい僕、用事あるんで」
深草さんの言葉をさえぎってかばんをつかんで飛び出す。ごめんね、君の誕生日プレゼントのためなんだ。許して。
「で、お姉さまの誘いを蹴ってきたと」
それを山科さんに伝えたら、ものすごく冷たい目で見られた。
「お姉さまの誘いを蹴るとは何事ですか! それでお姉さまがどれだけ傷つくと思ってるんですか!」
思い切り足を踏みつけられた。だから痛い!
「その原因の一端は私にもあるので仕方ありませんが、それでもまだ時間はありました! なのに、なんであなたは!」
「わあ、ごめんなさいごめんなさい」
痛いから、殴られると痛いから。それでも加減してるんだろうけど痛いから! 眠いしよく動かない体には痛いから! 石の塊持ち出さないで!
結局、気が済むまで、けがが残らないように殴られた後、僕たちは裁縫に移ったのだった。
「これなら、あと1日徹夜したら完成しそうですね」
すでに完成させた山科さんが言う。そのぬいぐるみはとてもかわいくて見事だった。今日、いや昨日早々に完成させていたからね。ちなみに、僕は2日続けて徹夜です。山科さんは仮眠をとっていたみたいですけど。
「3日連続で徹夜ですか……」
「しかし、あれほどのところからよくここまで持ってきたと思います。今日まっすぐこちらに向かってくれれば、明日学校ででも渡せるでしょう」
ふう、ようやく光明が見えてきたよ。




