指先が、染みてるんです
ちょっと短めです
さっきは一体なんであんなにおかしくなってたんだ……。うう、恥ずかしい。黒歴史だよ、ほんとに。カラオケでハイになるって言ってもあれはさすがになりすぎた気がするよ……。いっそのことアルコールでも入っててくれって気分だよ。入ってたら大問題だけど。
「二次会行く~?」
「いえ、私と伏見悠杜は失礼します」
「私もそろそろ家に帰らないと親が心配するので」
「あはは、それじゃあ解散だね。またね~」
樟葉先輩が解散を宣言する。どっと疲れがあふれ出た。でも、この後また、山科さんの鬼の特訓が残ってるんだよね。ねえ、今日くらいパスできない?
「さっさと行きますよ」
はい、無理みたいです。
その日も結局指をさしまくった挙句、何とか玉結びと玉止めが形になるところまでは到達したのだった。その日じゃないな、日付またいでたし。
その翌日のことだった。いや、もう今日か。寝坊は、ギリギリしなかった。いつものように学校に行く。でも、顔洗う時の水が指先に染みるよ。もう30か所くらい作っちゃったからね。
いつものように家を出て、いつものように深草さんと山科さんと学校へ行く。痴漢はなし。占いは相変わらず凶。よし、いつも通りだ。ちょっとおかしい気がするけれど。
「ごめん、伏見君、ちょっといいかな」
「あ、坂本さん、何ですか」
朝のショートホームルームの前に、坂本さんから声を掛けられる。
「ごめん、私どうしても外せない用事入ってさ、昼休みの水やり、頼まれてくれない? 大谷君は今日練習あるみたいだからさ」
何かと思えば、そういや僕って園芸部と写真部の幽霊部員でしたね。
「あ、はいわかりました」
「適当に花壇に水巻いてくれたらいいから。ほんと、ありがとうね」
そう言って坂本さんは自分の席に戻っていった。
そして昼休み。
「なんであなたがここにいるんですか、深草さん」
「え、暇だし、伏見君の水やりの付き合おうかなって思って」
付き合うも何も、蛇口もホースも一つずつしかないんですけど。というかここにいられると、非常にやりにくい。
「っ!」
「あれ、何かあった?」
「い、いえ、何でもないです」
ホースから出た水が指先に染みるよ! 山科さんに釘を刺されてるからケガしてないふりをしてるけど、めちゃくちゃ痛いよ。耐えろ、耐えろ僕!
「何か痛そうだけど、大丈夫なの」
「え、ええ一応、っ!」
そんなわけないです。大丈夫なわけないです。指先が、染みてるんです。




