ねえ、酔ってないよね!
翌日、珍しく寝坊した僕は朝ご飯を食べ損ねた。原因はわかってる。昨日夜遅くまで並み縫いの練習をしてたからだ。仕方ない、昼まで辛いけど抜きで過ごそうか。
「昨日は京香と何かあったの? 忙しそうだったけど」
「ええ、まあ」
「何があったの?」
「すいません、口止めされてるんで」
深草さんの質問に答える。サプライズイベントにするからって、絆創膏も貼らせてもらえなかった。ばれるから、裁縫の話題は一切なしだそうだ。そのせいで手が今日もしみるよ。
「ところで、打ち上げの件だけど」
「あ、それはさっき許可もらいました。父も今日は外で食べてくるって」
「だったらよかった」
深草さんが嬉しそうに頷く。やばい、ちょっとかわいいと思ってしまった。違う違う、深草さんは僕に惚れてない。自意識過剰になるな、僕。
ちなみに山科さんはさっきから気配を消している。自分が出ていくと僕が何かやらかすかもしれないから、らしい。まあ、確かに話すとちょっと緊張するけど。
電車に乗り、痴漢には今日は遭わずに、そのまま学校に向かう。占いの結果は、深草さんが正位置の『星』で僕が正位置の『吊るされた男』でした。一応はポジティブな意味かな。忍耐とか修行だし。でも、打ち上げかあ。なんか楽しそうだ。後で大谷君とかともやってもいいかもな。ちょっと思い描いていたのとは違うけれど、こういうのってなんか高校生やってるって感じるよ。
そして放課後。生徒会員6人で、いったん生徒会室に集まった後、僕たちは打ち上げのカラオケ店に向かった。あれ、もともとって5人だったよね。いつの間に1人増えてるのに違和感を感じなくなったんだろ。実に不思議だ。そして実に危険だ。
まあ、それはともかく。今は打ち上げを楽しもうじゃないか。ちょうどドリンクも運ばれてきたし。
「それじゃあ、生徒会の順調な門出を祝って、かんぱ~い」
「「乾杯!」」
音頭を取るのは樟葉先輩だ。『恋人』たちは、……知らない。その辺で適当にいちゃついときなさい。
「くは~、やっぱりジュースはおいしいね! それじゃあ一曲、いっちょ歌いますか!」
樟葉先輩がマイクを握る。その歌声は流れるようなきれいな声色だった。ところどころ音程が飛んでたのはあれかな。自分なりのアレンジかな。知らないけどさ。点数も96点台が出てたし。
「おし、それじゃあどんどん行くよ! みーちゃん、一緒に歌お。ゆーくんもほら乗って乗って」
そう言って僕に光る棒を投げ渡す。これでどうしろと。
「それでは参ります、2曲目、さあ、みーちゃん行くよ!」
「あ、はい」
ボケっとしていたかのように深草さんがマイクを手に取る。二人の歌声はとてもきれいで、絡み合って一つになっていた。でもところどころ叫ぶのやめてよ!
「加乃先輩、次、私いいですか?」
「いいよ、どんどん行っちゃって。あ、ジュース追加ね~」
深草さんもどんどん歌う。僕適当に光るやつ振り回してるけどこれでいいの?
「ゆーくんも、もっと乗らなきゃ。はい、何か歌いたいのとかない?」
「いや、僕は下手なので」
「いいじゃんいいじゃん、せっかくのカラオケなんだからさ」
そんな僕に絡みつきながらも、樟葉先輩は歌い終わった深草さんからマイクを受け取って歌う。めちゃくちゃ曲速いけどよく歌えますね!
「そうだよ~、悠杜も歌いなよ! せっかくの打ち上げなんだからさ!」
さらには深草さんまで絡んでくる。ちょっと、近いって! それからなぜに名前呼び捨て!?
「はい次、ゆーくんね、決定」
ちょっとおかしいよ二人とも、ねえ、酔ってないよね! ただのカラオケハイだよね! 比較しようにもうわばみっぽい山科さんとあいつらじゃ比較できないよ!
「でも歌う曲が」
「そういう時は、はいこれ」
適当に樟葉先輩が曲を入れてイントロが流れ出す。知らないんですけど!
「私も知らないからさ~、はっちゃけちゃえ、それもあり」
ああもう、ヤケだ。知らないしテンポ速いしリズム取れないけど歌ってやる! 歌えばいいんでしょ! 歌えば!
「ひゅーひゅー、いいよ悠杜!」
ああもう、深草さんまでなんかおかしいよ!
「ろっくじゅっうにってん~、残念でした~」
そう言って樟葉先輩がからからと笑う。うるさいやい、僕だって本気を出せば。
「はい次、お送りしますのは、深草未悠と、伏見悠杜、FFコンビでございま~す」
ちょっと樟葉先輩!
「誰に向けての実況ですか!」
「誰だろうね、し~らな~い」
適当すぎる樟葉先輩が悪ノリして、深草さんまでそれに乗っちゃって、もうヤケだよヤケ! くそくらえ、何か知らないけどね! さあ、歌え踊れ狂えや!
あとになって酔い(酒じゃないと信じたい)から覚めると黒歴史の山だね、もう!




