閑話 大谷拓都の野望 3
「いらっしゃい。いつものでいい?」
「はい」
店員が応対に出た時、俺たちはすっかりフクロウたちと戯れていた。勉強そっちのけで。いや、フクロウとじゃれてる坂本さん可愛いな~、なんて思いながら。
「って、ふ、ふ、深草さん!」
木野さんが大げさに驚く。ってマジかよ!
そこには今学園中の話題になっているといってもいい人物、深草未悠が立っていた。
「え、なんでこんなところに」
「あ、私ここの常連さんなんだ。伏見君、勉強は順調?」
坂本さんの問いにあっけらかんとした答えを返す。
「あ、はい、まあ」
「おいそれより伏見! 深草さんが常連って先に言っておけよ!」
「いや、だって聞かれなかったし」
そうと知ってたら俺は来なかったぞ。いや、時間をずらしたぞ。もう狙いからは外したし。
「ところで、三希ちゃんたちは何やってたの」
そこに深草さんが割って入る。
「あ、いや、その勉強会を」
「せっかくだから、この四人で勉強会をやろうって。俺が。い、一応俺たちって二日目に一緒に飯食った仲だからさ」
坂本さんが動揺する。焦って俺も言う。というか俺って企画者だったし。
「それじゃあ、伏見君もいることだし、私も混ぜてもらおうかな。もともと勉強するつもりで来たし」
「い、いえ、なんだったら伏見をお貸ししましょうか。ほら、あの、なんていうか」
噂じゃ深草さんの怒りを買ったら思い切り白い目で見られるっていうし、ここは伏見を生贄にささげよう。
「ちょっと、大谷君!?」
「それじゃあ、借りるね~」
伏見がびっくりしたような表情をしたけど、深草さんは伏見を連れて行った。まあ、席は近くだけど。それに、伏見はスタッフだしさ、一応。南無、伏見。冥福を祈る。死んでないけど。
「それにしてもびっくりしたね」
「ここが深草さんの行きつけだったとは……」
坂本さんの台詞に、俺もフクロウをなでながら呟く。ようやく慣れてきてくれたよ。触らさせてくれる。
「お姉さま、勉強を教える姿も素敵……。それに伏見君ってちょっとかわいいところもあるし……」
木野さんは放置だな。あれが、あっちの世界の住人だとは知らなかったし。
「みんな、勉強わからないところあったら、私が教えようか」
「わっ!」
突然後ろから聞こえた声に、坂本さんが小さな悲鳴を上げる。俺もマジでビビったぜ。
「ああ、驚かせてごめんね。私は十条千秋。ここの店長をさせてもらってるものだよ。よく、未悠ちゃんにアドバイスとかしてるから、気軽に声かけてね」
そう言って店長は笑った。ってか店長だったの、あなた。
「ああ、凛々しい店長に攻略される大谷君、なんてここはパラダイスなの」
木野さんは放置だ。あれはヤバイ。まあ、この伏見を餌にするなら誘わざるを得ないけどさ。
「ところで、深草さんにアドバイスしてるって聞きましたけど」
「ああ、未悠ちゃんが恋してるようだから、いろいろ、ね。それより、ここ、国民が司法にできるのは最高裁判所長官の国民審査だよ。衆議院選挙の時に一緒に行うってことも併せて覚えておくといいよ」
「あ、はい」
坂本さんの間違いを見つけて的確に予備知識を与えてくる。これが異性だったらありだな。ってヤバイ、俺まで木野さんのせいで毒されかけてるぞ。
「それじゃあ、今日はここまでにしよっか」
坂本さんが声をかける。もう午後4時だ。フクロウカフェの制限時間もあるしな。
「じゃあ、学割で3人で6000円でいいよ」
「じゃあ、割り勘に」
「いや、ここは俺が驕るよ」
元に戻った木野さんが言いかけたところを押さえて言う。こういう時くらいかっこつけないとな。
「ええ、でも悪いって」
「いや、俺が誘ったんだし奢らせてくれって」
坂本さんを押し留めて俺は言う。そして財布を取り出して開いた。
「……」
「どうしたの?」
固まった俺に対して坂本さんが聞く。ヤバイ、マジヤバイ。
「10000円札入れたと思ってたけど、5000円札しかない……」
勘違いしてたし! なんでこんな肝心なところで抜けてるんだ俺は!
「……やっぱり割り勘にしましょ」
「……はい」
そして俺は坂本さんの台詞にすごすごとうなずくのだった。面目ない。
閑話もあと1話で終了の予定です。それが終わったら、本編に戻ります。




