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十条さん、あなたもですか……

 木曜日と金曜日も、月曜と同じようにひたすら生徒会で勉強会が行われた。もうね、勉強とかしたくない。数式とか見たくない。英語とかアルファベットの時点で嫌。それぐらい追い詰められた。

 樟葉先輩のいらない雑学も散々聞かされたし、もう僕一生勉強しなくていいんじゃない? そう思うレベルだよ。これ。というか、あと一週間もいらないんですけど。中学の時なら問題集やってたらそれでよかったのに、高校になってグロッキー状態なんですけど。まじで風邪じゃなくて知恵熱の可能性もあったんですけど。はあ、頭がパンクしそうだ。

 でも今日は土曜日。十条さんのところでバイトだ。今日くらいは勉強休んでもいいよね。というか、今日と明日は休ませて! まじでダウンしちゃうからさ。

「やあ、悠杜君、ごくろうさん」

「こんにちは」

 十条さんとあいさつを交わして中に入る。しばらくは勉強のこと忘れてコーヒー焙煎してよ。

「なんか、お疲れのようだね。風邪ひいたって聞いたけど、大丈夫?」

「ええ、一応。というより個人情報漏らさないでくださいよ。おかげですごく恥ずかしい思いしたんですから」

「ああ、ごめんごめん」

 そう言って十条さんは笑う。確かに最近、疲れが顔に出てたかもな。

「でも、風邪ひいたって聞いて心配でさ。本当は私が行きたかったんだけど、店空けるわけにもいかないでしょ。だから未悠ちゃんに行ってもらったんだよ。許して」

 そう言って微笑む十条さんに、怒る気力も出なかった。ヤバイ、まじで疲れてる。

「でも、テスト、大変だよね。特に悠杜君は生徒会員だもんね」

「そうなんですよ、連日連夜の勉強会でもう」

「でも、生徒会員が低い順位を取ったら示しがつかないでしょ。噂じゃ、相当ひどいお仕置きが待ってるって話だしさ」

「うへ~」

 思わず口から溜息とも悲鳴ともつかない声が漏れた。

「まあ、とにかく、頑張ろうよ」

 無言でいいですか? これ以上頑張ったらもう死にそう。死なないけどさ。

 

 

 

 そして例によって深草さんがやってきたのは午後3時だった。ちょうどこの時間ってなぜか客足が途絶えるんだよね。

「悠杜君、未悠ちゃんの相手してあげなよ」

 そう、十条さんに言われて渋々出ていく。営業スマイル忘れないようにしなきゃ。

「いらっしゃいませ」

「悠杜君、笑顔笑顔」

「あ、はい。それより、コースは」

「いつもので」

 そう言うなり深草さんはカーテンを開けて中に入っていった。

「未悠ちゃん、コーヒーでいい?」

「いいです」

 僕もう疲れたよ。カウンターの奥に引っ込む。

「伏見君、伏見君、勉強は順調?」

「え、あ、はい、順調です」

 カウンターに座った深草さんに適当に返す。もうどうにでもなれ。

「だったら、昨日の続きやろう。伏見君、二重根号苦手にしてたでしょ」

「あ、今お店もすいてるし、せっかくだから私も教えようか」

「いいんですか? ぜひ」

 おいおい、僕の知らない間に話が勝手に進んでるぞ。

「伏見君もやるよね?」

 そう、深草さんに言われ、僕は抵抗する間もなくノートとシャーペンを押し付けられたのだった。

 

 

 

「ふう、ようやく終わった~」

「終わってないよ、まだ途中じゃん」

「いや、もう営業終了ですし」

 何とか耐えた。いや、耐えた? 耐えられてないかも。

 でもこれでようやく勉強から解放されるんだ~。明日は深草さん来ないし、バイトでシャルたちと戯れよう。そうでもしないとやってらんないよ。というか、今日もソフィアの頭をなでながら勉強してたし。

「なんだったら、このまま勉強する? 何か軽食でも出すけど」

「お願いします!」

 ここで十条さんから驚きの提案! 十条さん、あなたも僕を追い詰めるんですか……。

「二人とも、家に連絡しとくから、心置きなくやってね」

「営業時間って伸ばせるんですか……」

「まあ、個人経営だから、その辺はいろいろと融通が利くんだよ」

 そう言って十条さんは笑った。今の僕にはそれが悪魔の微笑みにしか見えません。

「頑張ろうね、伏見君」

「……」

 深草さんも十条さんも、教えるのは上手なんだけどもうちょっと僕のことも考えてくれ……。

 

 

 

 その日は、家に帰るなり死んだように眠った。そして翌日、寝坊してバイトに遅刻した。

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