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夢ってことにしておこう

「ごめんね、せっかく来てもらったみたいだけど、悠杜風邪ひいちゃってさ。今日は学校に行けないって。深草さんも、風邪には気をつけてね」

「わかりました」

 玄関の外から、父親と深草さんの話す声が聞こえる。うう、頭が痛い。

「お大事にとお伝えください」

「こっちこそごめんね、せっかく来てくれたのに」

「いえいえ、お構いなく」

 そう言う声がして、父親が僕の部屋に戻ってきた。寒いな、布団にくるまろう。

「これでよかったか」

「ありがとう」

 深草さんに事情を説明してくれた礼を言う。無理を言って出勤前の親に出てもらったしね。

「それはいいけど、悠杜、本当に大丈夫か?」

「うん、寝てたらよくなると思う」

 うう、ティッシュティッシュ。鼻水が止まらないよ。箱ごと近くに持ってきておこう。

「そうか、それなら、父さん会社行ってくるから、何かあったら連絡するんだぞ」

「うん」

 それだけ言い終えると父親は支度をして、会社に行ってしまった。ともかく暇だなあ。寒いから布団から出られないけど、単語帳でもやっておこうか。

 

 

 

 昼、ちょっと調子がよくなってきていたので、起きだして、昼ご飯を作った。去年の残りの鍋の元に、ご飯と卵を入れて雑炊にして食べた。そこまで食欲なかったけど、食べないと食べられなくなるし。

 比較的調子がましになってきたので、リビングで、大分前に録画してそのままにしていた映画を見ることにした。って、なんでホラー映画なんてとってたんだよ。うう、余計に寒気がしてきたよ。冷たいやつ額に貼って寝よっと。

 

 

 

 近くで雰囲気がする。誰だ? まさか泥棒か!? 施錠してあったはずなのに。

「あ、起きた。伏見君、大丈夫?」

 ぱっと飛び上がって反応する。あ、なんだ、深草さんか。

 

 って、深草さん!?


「なんでいるんですか!」

「え、樟葉先輩がお見舞いに行ってあげたらって。千秋さんも相談したらいいねって言ったから」

 あの二人か! って、違う! そうじゃない!

「玄関は! 施錠してあったはずなのに!」

「あ、それね。それなら、千秋さんにお父さんの番号教えてもらって、お父さんから、鍵入れの暗証番号教えてもらったんだ。伏見君の誕生日だったんだね」

 そういうことか。確かに我が家には緊急用の鍵がある。僕が忘れて家を出た時用とかね。それを使うんですね。

「ところで、風邪は大丈夫なの? マスクしてないけど」

「ええ、咳はほとんどないので。それに、寝たらだいぶ良くなりましたし」

「そっか、そりゃよかった」

 こっちも、そこまで散らかってるときじゃなくてよかった。テスト前って部屋片づけたくなるしね。

 いかん。深草さんが僕の部屋にいるという状況におかしさを感じられなくなってきてる気がする。ここらで一度言っておこう。学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じないからね。よし、自己暗示OK。

「ああ、寝たままでいいよ」

 起き上がろうとした僕に深草さんが言う。

「私が勝手に来ただけなんだからさ。伏見君は寝たままでいいの。早く、元気になってね」

「あ、はい」

「あと、アイス買ってきたんだけど、食べる?」

「じゃあ、いただきます」

 そう言って、深草さんからバニラのカップアイスを受け取る。体を半分起こして、アイスを食べた。横では深草さんがもう一個のアイスを取り出して食べている。ああ、火照った体に冷たいアイスが染みるなぁ。

「お金、キッチンに財布あるのでそこから」

「いいよ、これは私のおごりだからさ。それより無理してない? 大丈夫? 何か手伝おうか?」

「あ、いや、もうひと眠りするのでいいです」

「あ、起こしちゃったか。ごめんね。おやすみなさい」

 再び布団に潜り込む。微睡に落ちる瞬間、深草さんの鼻歌が聞こえた気がした。

 

 とても、気持ちのいい夢を見られた気がした。

 

 

 

「あ、もう夕方なんだ」

 再び起きた時、空が茜色になっているのが目に入った。体温計を使ってみると、平熱に戻っていた。ベッドの上で大きく伸びをする。

 あれ、深草さんが来てた気がするけど。あれは夢だよね。そう、夢だよね。夢ってことにしておこう。というか夢であってくれ。よし、夢だ。

 そう思った瞬間、机の上の紙切れが目に入った。

 

 ---

 

 伏見悠杜君へ

 

 一応、風邪薬とゼリーを冷蔵庫の中に入れておきました。あと、冷たいやつも張り替えといたからね。下にある紙は今日の授業のノートです。ルーズリーフに書いたから、返さなくていいよ。早く元気になって学校に来てください。あと、施錠はちゃんとしておくのでご心配なく。それじゃあお大事に。

 

 深草未悠より

 

 P.S.寝顔堪能しました。可愛かったよ。

 

 ---

 

 夢じゃなかった!? え、あれ、現実だったの!? めっちゃ恥ずかしいんだけど! 風邪で錯乱しているとはいえ、おかしな姿見られたんですけど! しかも何! 寝顔可愛かったって! めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!

 頼むからこれ全部夢であってくれ!

 

 でも現実は紙と冷蔵庫の風邪薬とアイスのカップのごみが証明しているのであった。

 

 

 

 恥ずかしくて父親が返ってくるまでベットの上で悶絶してたよ。

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