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深草未悠 この胸の高鳴りは

 事件の顛末を語るとすると、といっても私はほとんど何もしてないんだけど、男二人組の罪は伏見君に対する傷害と威力業務妨害、強制性交等未遂罪に問われるらしい。この辺りは私もよく知らなくて、翌日に警察の人が説明してくれた。おそらくだけれど、執行猶予は付かずに実刑になるだろうとも。それを聞いて少し安心した。またすぐに襲われちゃかなわないものね。

 私はほとんど被害者じゃなく傍観者だったので、警察に証言してサインするだけでよかった。これでほぼ確実に立件できるらしい。よかったよかった。

 伏見君の容態も、外傷は何ヵ所かあったものの、体内に損傷はなくて、少し傷の手当てをしたら退院できるとのこと。伏見君の体に大きな異常がなかったのは幸いだ。お見舞いには行ってない。行けばよかったかもしれないけど、どう思われてるんだろうか。助けたのに薄情な女だと思われてないといいのだけれど。思われてないよね? ちょっと不安になる。明日朝一でお礼を言っておこう。




 そしてその翌日、つまり月曜日。私は溜息を吐きながら電車に乗っていた。どうやってお礼言ったらいいんだろ。伏見君は今まで私の周りにいなかったタイプだから、どう思っているのか予想がつかない。予想がつけば気が楽になるんだけど。不安になりながら満員電車は進んでいく。雲一つない快晴が不安を後押しする。

 教室に来てみても伏見君はまだ来てなかった。そのまま時間だけが過ぎていく。どうしたんだろう。私の周りを取り巻く喧騒が、やけに小さく聞こえる。なんて言ってるかわからないよ。

 そして、ベルが鳴っても伏見君はやってこなかった。本当にどうしたんだろうか気になる。まさか、私が見舞いに来なかったから不登校になったとかじゃないよね。

「よし、みんな席につけ。朝のホームルーム始めるぞ。伏見は病院退院してからくるから遅れるそうだ。他に遅刻はいるか? よし、いないな。今日は特に連絡することもないのでこれで終わります」

 鳥羽教諭が連絡してそのまま去っていく。よかった、何かあったとかじゃなくて。




 結局、伏見君がやってきたのは2時間目が終わってからだった。

「おはよー」

「おう、重役出勤とはいい御身分で」

 伏見君の友達の竹内君が明るく言う。いや、竹田君だっけ? どっちでもいいか。

「そんなわけあるか」

 軽口を言い合う。いいな、そんな関係。あ、伏見君が来た。ど、どうしよう。お礼言わなきゃ。だけど何を言えばいいのかわからなくなってしまう。

「お、一昨日は、あ、ありがとうね。た、助かったよ」

 それだけ言うとすぐ前を向く。どうしよう、緊張して声が震えてしまった。それに勝気なやつと思われるのは嫌だ。失敗してしまった。それにしても、何なの。鼓動が早くなっているのは。上手く行かない。




 結局、言い直す機会もないまま、4時間目が終わってしまう。逃げるようにして食堂へ向かう。ダメだ、まったく考えがわからない。言い方は悪いけど手玉に取れない。どうしよう、さっきから心臓の鼓動がおかしくなってしまっている。なんだろう、この感触は。

 お弁当を広げて、食べ始める。また伏見君が机の端っこに座った。どうすればいいのだろうか。さっきからちらちら伏見君のほうを見てるけど、何も反応がない。やっぱり冷たい女だと思われてるのだろうか。すごく、すごくやりにくい。

「あれ、僕、何かついてます?」

「いえいえいえ、な、何もついてません!」

 思わず声が上ずってしまう。心臓がバクバク音を立ててるよ。ひょっとしたら私は相手との接し方がわからない場合はろくにコミュニケーションを取れないんじゃないか。そんなことを思ってしまう。それにしてもいったい何だというのだろうか。この胸の高鳴りは?

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