深草未悠 伏見君が振り向いてくれないよ!
私の名前は深草未悠。自分で言うのもなんだけど、目もくらむような美少女だ。
今だって、ほら。数学の授業中だけど、チラッチラッと目を盗んで私を見てくる。老若男女問わず、まあ、クラスメイトしか今はいないけど、さらに言うと、4:6くらいで女子の方が多い気がするけど、私を見つめている。見つめられて嬉しい、とは思わないけどね。それに、ガン見されてもチラチラ見られても同じだし、罪悪感があるのなら見るなとも思うけど。
クラス中の視線を無視して、横の男の子を見つめる。その子は授業を受けるふりをして本を読んでいた。名前は伏見悠杜君。隣に座る、ちょっと変わった男の子。なぜか私に興味のない人。たいていの人は善意であれ悪意であれ、何らかの感情を向けてくるので。
そして私の大好きな人。そう指摘されてから、そのことしか考えられなくなった。もう、教師の授業なんて関係ない。ずっと見つめていたいと思う。これはマジで。まあ、優等生がやめられないから教師の授業を聞くんだけど。
キーンコーンカーンコーン
ベルが鳴る。でも伏見君はまだ本に夢中だ。
「伏見君、伏見君」
流石に肩をゆすったら気がついたみたいだ。
「伏見君、次、LL教室だけど一緒に行かない」
英語の用意をかばんから出しつつ言う。伏見君にすぐ対応できるようにしとかないとね。いつも一緒にいることで、相手に意識されるようになるんだって言われたし。
「どうせ付いてくるんでしょう」
「うん、もちろん」
とびっきりの笑顔を浮かべて言う。自慢じゃないけど私の笑顔は悪魔だって堕としちゃうぞ。
あ、自慢か。ついでに言うと堕ちるのは天使か。
でも伏見君は私に告白しないのです。前に同じように振る舞ってた好意を抱いてると勘違いされたことがあるんだけど。まあ、そこが変わってていいんだけどね。男色家ってわけでもなさそうだし。
「あ、俺も一緒に行っていい」
「いいよー」
伏見君の親友の竹田靖行君が割り込んでくる。伏見君と一緒なら、私もいるからね。まったく、調子のいいやつめ。
まあ、私も竹田君から伏見君の情報を得ようとしてる時点で同罪なんだけどね。
「伏見君、好きなお菓子ってある?」
「さあ、なんでしょうね」
むう、これじゃあバレンタインのお菓子が決められないよ。今五月だけど。
「伏見君、伏見君、伏見君のお母さんって何が好物なの?」
「さあ、なんでしょうね」
むう、これじゃあ家を訪ねるときに何の菓子折りを持っていったらいいかわからないよ。予定ないけど。
「伏見君、伏見君、伏見君」
「さあ、何でしょうね」
むう、質問する前にさえぎられた。
伏見君が振り向いてくれないよ!
え、何? そんなに好きなら自分から告白したらどうかって?
ば、馬鹿なの! そんなの恥ずかしくてできるわけないじゃない!