深草未悠 傷だらけの小英雄
「伏見、君……」
「おい、答えろ。僕の友達に何する気だ!」
あ、ありがとう。やってきた伏見君が声を荒げて言う。まあ、たぶんクラスメイトを見過ごせなかっただけだと思うけど。
「ほう、正義のヒーロー気取りかい」
「いいから答えろと言っている!」
男の挑発に叫び返す。伏見君って、強いの?
「ああ、いいぜ、教えてやるよ。こうするんだよ」
そう言って男はいきなり拳を突き出した。すんでのところで伏見君はそれを避ける。危ない!
「何しやがる!」
「悪いが俺たちゃ今むしゃくしゃしてるんでね。犠牲になってもらうよ!」
そう言って二人組の男が伏見君に襲い掛かる。
伏見君は一人目の男の拳を華麗に躱し……
……二人目の男の蹴りを受けて吹っ飛んだ。
ってえええ! 威勢よく啖呵切った割にあっさりとやられてるんですけど! 大丈夫なのこれ! ひょっとしてめちゃくちゃ弱い!? じゃあ私ピンチじゃん!
「いててて」
お腹をさすりながら伏見君が立ち上がる。
「その辺で絶望してろ」
「悪いがそういうわけにもいかないんだよ!」
今度は立ち上がった伏見君が男たちに襲い掛かる。右拳を振りかぶり、男の頬を狙ったところで回し蹴りがお腹に入り、男もろとも吹っ飛んだ。
って、あと一人残ってるんですけど! 手詰まりなんじゃないの、これ。
「ガフォ、ゲホ」
男を踏みつけながら立ち上がる。とそこに踏まれた男が立ち上がって伏見君を投げ飛ばした。
ちょっと、大丈夫なの! 今頭から落ちたよね! 受け身とったの! って人の心配してる場合じゃないじゃん! この好きに逃げて京香か警察呼ばなきゃ! でも道が塞がれてるよ!
「オラァァァ」
三度立ち上がった伏見君が、雄叫びを挙げて、さっきより数段遅い速度で男たちに迫る。それを男は回し蹴りで軽くいなした。吹き飛んだ伏見君が私にあたってそのまま吹き飛ばされる。胸に正面からあたって上手に息ができなくなる。
「伏見君、伏見君、大丈夫なの」
「だ、だいじょう、ぶ、です」
覆いかぶさった状態で尋ねると息も途切れ途切れな状態で答えた。絶対大丈夫じゃないよ、これ! もうやめてよ!
「いい加減あきらめてそこで絶望してな。お前じゃ俺たちに勝てねえよ」
何度も何度も立ち上がる伏見君に、男の一人が吐き捨てる。伏見君はすでに体のあちこちに擦り傷ができ、服も袖が千切れそうになっている。口から血が出ていて見るからに痛々しい。
「そりゃ、ぼぐだって、わかってるさ、勝てる、はずないって。でも、だからどいっで、友達をほっておいて、逃げるわけにはいかないんだ!」
叫んで再び駆け出そうとする。その姿は、傷だらけでボロボロだったけれど、私のために戦う小さなヒーローに見えた。
「自分でも、わかってるさ。僕なんて、使い捨て、の、盾にしかならないって。でももうお前、たちの、負けだ」
「はあ、何言ってやがる」
そういう男の背後に人影が現れる。
「後は、頼みます」
「そういうことだ」
そう言って背後から千秋さんが現れた。瞬く間に二人組を殴り飛ばす。
「うちの客と店員に手出したこと、きっちりと後悔してもらうよ!」
そう叫んで飛び出し、まだ態勢の整っていなかった二人組を殴り始める。横で、伏見君ががっくりと崩れ落ちる。
「伏見君、伏見君、しっかりして!」
「あ、深草さん、十条さんが、来た、ので、もう、大丈夫です」
必死に揺する私の腕の中で、伏見君はそっと目を閉じた。大丈夫、まだ息はある。
周りを見渡すと、すでに二人組は伸びていて、千秋さんが無傷で立っていた。すごく男勝りでかっこいいよ、千秋さん。ってそれより今は伏見君だ。
「申し訳ありません、出遅れました」
そこに京香が現れる。遅いよ、まあ、助かったからよかったけど、伏見君が大変なことに。
「ごめんね未悠ちゃん。あいつら警察に突き出しとくから。あと、伏見君も病院に連れてこうと思うんだけど。いいかな」
「後のことは私たちに任せてください。幸いにして特に大きな外傷はなさそうですし、呼吸も安定しています。心配なのは脳震盪くらいでしょうから」
「あ、ありがとうございます」
そう二人は言うと、私がまだぼうっとしているうちに警察を呼んで、伏見君を連れて行ってしまった。
あれ、私どうしたら? まあ、とりあえず家に帰ろうか。
こうして私の最良になるはずだった一日は一転して最悪の一日となってしまったのだ。自分は大丈夫だったけど、伏見君がちょっと心配だな。
あ、あとで伏見君にお礼を言っとかなきゃ。
伏見君が実はめちゃくちゃ強いと思った方。残念でした。主人公は別に強くありません。強いのは十条さんと山科さんでした。(予告は守ったよ)
それから、ついにポイントが1000ポイントを突破しました。ポイントをつけてくださった方、そして読者の皆様、本当にありがとうございます。




