深草未悠 フクロウカフェでの一コマ
フクロウ柄のカフェラテを飲み干して、フクロウたちと駄弁る。シャルはどうやら本当に甘えん坊っぽくて、私の首筋に頭をこすりつけてくる。ああ、かわいいな~。すごく癒されるよ。それに、イリーナにも触らせてもらえたよ。最初は撫でようとすると威嚇されたけど。ツンデレさんもいいね。
カランカラン
「あ、いらっしゃいませ」
伏見君が接客に出ていく。ああ、フクロウたちを独り占めできるのもここまでが。ちょっと残念。自分の席に座って、ついてきたシャルをなでる。
入ってきた客は、男性の二人組だった。大学生くらいで髪を染めていて、見るからにチャラい。こういう人苦手なんだよな。ちょっといろいろあったから。こんな時京香がいてくれれば心強いんだけど、今日は趣味に集中したいからって置いてきちゃったし。
そんなことを考えている間に注文を取り終わったのか伏見君がカウンターの奥に下がっていく。ああ、フクロウたちも離れちゃってるよ。私も関わらないようにシャルなでとこうかな。
二人組は何やら席で話しているようだった。さすがに席が遠いので聞き取れないけど、嫌な予感しかしないなあ。そう思っていたらやっぱりこっちに来た。
「よう、嬢ちゃん今からどっか遊びに行かねえか」
「結構です」
即座に断る。私がこんな下心見え見えのナンパに乗るわけないでしょうが。
「俺らとおもしれえことしようぜ」
「いやです」
私は機嫌が悪い。どれくらい悪いかと言うと、食堂で一括した時よりも悪い。だってそうでしょ、楽しみにしていたフクロウカフェに来て、フクロウたちと戯れていたのに水を差されたんだから。それも、フクロウたちと触れ合おうとしない人たちに。最悪だ。
ああ、機嫌が悪いと口も悪くなっちゃうんだよね。今日は京香いないし、どうしよう。
「お待たせしました、ブレンドコーヒーでございます」
伏見君がコーヒーを運んでくる。京香がいないとちょっと心細いな。伏見君が助けてくれるかな。
「そもそもあんたたちみたいな下心見え見えの連中に私がついていくわけないでしょうが」
「なんだと」
「いいから来るんだよ!」
そう言って掴もうとする腕を私は振り払った。ああ、めんどくさいやつだこれ。そう思っていたら伏見君から思わぬ仲裁が入る。
「お客様、大きな声はフクロウたちが驚きますので、声を落としていただければと」
そっちかい。できれば絡んでくるほうもどうにかしてよ。
「それに、他のお客様の迷惑にもなりますので」
「ああん! 俺たちは客だぞ!」
「ですからフクロウたちが驚きますので」
伏見君がうろたえる。あ、奥から千秋さんが出てきた。
「ああん! なにが驚くってんだ」
そう言ってシャルを鷲掴みにしようとした。
パン
伏見君が男の手を叩き落す。
「いい加減にしてください。フクロウにも、ほかのお客様にも迷惑です」
よく言った。まあ、シャルは逃げてたから捕まることはなかったんだけどね。フクロウたちが一斉に男たちを威嚇する。
「てめえよくも」
そう言って男は運ばれてきたコーヒーをぶちまける。
ガシャン、パリン
コーヒーカップの割れる音がして、伏見君の服に茶色い染みがついた。熱そう。
「お客様に向かってなんて態度だ!」
男が叫ぶ。
バン
千秋さんがテーブルを叩く音がこだまする。
「いい加減にしな。フクロウに手を挙げようとし、飲み物を投げるやつはうちの客じゃねえ。さっさと出ていきな!」
千秋さんが一括する。それに合わせてフクロウが千秋さんの周りに集まり、男たちが一瞬ひるんだ。というか啖呵がすごくかっこいいかも。
「な、なんだこいつ」
「さっさと出ていけ」
千秋さんの一括に、男たちはほうほうの体で逃げていった。すごい、かっこいい。
「ごめんね、未悠ちゃん。嫌な思いさせちゃって」
「あ、いや、その」
「ほら伏見君も、いつまでも驚いてないでその服脱いで。火傷するよ」
「あ、は、はい」
そう言って伏見君はバックヤードへと去っていった。大丈夫かな。心の中でお礼を言う。ありがとね、フクロウを守るためって言ってたけど助けてくれて。
「ごめんね、これの償いはするから。ちょっと待ってて」
そう言って千秋さんは何かのメモ帳に文字を書いていく。
「はいこれ、次来た時に使ってね」
そう言って差し出されたメモ帳にはきれいな字で『一時間無料券』と書かれていた。手書きですか、それ。
「ごめんね、すぐ片付けるから」
そう言って千秋さんは床に落ちたコーヒーカップを集め始めた。行き場を失った怒りが虚無感に変わる。何か、うまく千秋さんに丸め込まれた気がした。
「もう閉店時間だから店閉めるね」
午後6時になった店内で千秋さんが言う。もうすっかり日差しも陰ってきた。
「あ、じゃあお会計お願いします」
「はい、えーと、8300円になります」
財布から一万円札を取り出す。なんで2500円じゃないかって? フクロウグッズを買ったからだよ。コーヒーカップとかお茶碗とかぬいぐるみとか、かわいいのが多すぎるよ!
「十条さん、僕も上がっていいですか」
「いいよー、未悠ちゃんもお疲れ様。はいおつり」
あの後私服に着替えた伏見君が出てくる。その前に私はおつりを受け取って帰路についた。
なんだかんだあったけど、楽しい一日だったな。生フクロウにも触れあえたし、グッズもいっぱい買ったし。でもまさかクラスメイトがバイトしてるとは思わなかったな。まあ、千秋さんは裏ありそうだけどいい人だし、また行こう。そう思っていた。
「きゃあ!」
腕が伸びてきて路地に引きずり込まれる。そこにはさっきの二人組が立っていた。
「さっきはひどい目に合わしてくれたな」
「たっぷりお礼してやるよ」
「は、離して」
羽交い絞めにされてもがく。でも女子の私にはそこから出るだけの力はなかった。助けて京香!
「おとなしくしてな、せいぜいかわいがってやるからよ」
口をふさがれる。男からそんなセリフを言われる。いやだ、もう嫌だ。これだからチンピラは嫌いなんだ。そう思った瞬間だった。
「おい、あんたら何をしてる!」
そう言って路地裏に入ってきたのは通りがかった伏見君だった。
ヒロインのピンチにさっそうと登場する。さすが主人公ですね(ご都合主義ともいう)。
次回予告です。二人組はボコボコにされます。なのでご安心を。