深草未悠 十条千秋という人
「それではお好きなお席へどうぞ」
店内では十数匹ほどのフクロウたちが飛んでいたり、休んでいたりした。どうやら今はお客さんがいないようだ。席は20席弱で、奥にはネットで仕切られたお土産品コーナーというのもあった。よし、何か買って帰ろう。
「お飲み物はどうなさいますか?」
「じゃあ、カフェラテで」
「かしこまりました」
注文を取りにきた伏見君がカウンターの奥に伝え、その後フクロウたちに餌をやりに行く。なんか、こういうの見てると和むなあ。あ、あれシロフクロウだよ。映画で話題になった。ってことはソフィアかな。想像してたよりも大きい。そっか、フクロウって実物はこんなだったんだ。やっぱりかわいい!
「お待たせしました。カフェラテです」
伏見君とは別の店員さんが、カフェラテを持ってくる。すごいよ、ラテアートにフクロウが描かれてる。カップもソーサーもフクロウ柄で、なんていちいちかわいいんだ!
「すごい……」
思わず呟く。
「ありがとうございます」
すると店員さんはにっこり笑って微笑んだ。そこにユーラシアワシミミズクのイリーナが飛んでくる。ああ、間近で見るともっとかわいい。
なでようと手を伸ばすと逃げていってしまう。むう、私は何も悪いことはしないよ。
「ああ、イリーナは照れ屋だからね」
目の前の店員さんが言う。
「シャル、シャル、こっちにおいで~」
シャルと呼ばれたフクロウが飛んでくる。って、店一番のマスコットのシャルロットじゃん。
「この子は甘えん坊だからさわらさせてくれると思うよ」
そう言って店員さんは手に止まったシャルを差し出す。
「あ、ありがとうございます。え、えっとそれじゃあ」
手を伸ばして首の裏を触る。すごくふかふかだよ、これ。
「君、フクロウに餌をあげてみる?」
「いいんですか!」
反射的に聞き返してしまった。
「いいよ、君もフクロウ好きなんでしょ」
「やった」
そう言われて、店員さんから、ピンセットとひよこを受け取る。あれ、店員さんの名前って何だっけ。
「十条千秋」
「え?」
「私の名前だよ。気にしてそうだったから」
「わかったんですか」
びっくりだ。一瞬エスパーかと思った。
十条千秋さんは短めの髪に、凛々しい顔つきをしていた。ちょっと低音のボイスと高めの身長がかっこいい。
「まあね、これでも心理学専攻してたし。ああ、そんなに硬くならなくていいよ」
びっくりして落としかけたひよこを千秋さんが拾う。それを横からイリーナが掻っ攫っていった。
「よかったら、君の名前を教えてくれるとうれしいな」
次のひよこが渡される。それをシャルロットの前に持っていったら一口で丸呑みした。
「深草未悠です」
「未悠ちゃんか。私は『シャルロット』の店長をしてるんだ。これからよろしくね」
そう言って、千秋さんは微笑んだ。どこかつかみどころの無い人だなあと思った。腹に一物抱えてるかもしれないけど、直接的な害が及ばないならいいや。フクロウはかわいいから。それに、この人は害を及ぼすような雰囲気はない。どちらかというと、誰かのために裏でいろいろ企んでいるとか、そんな感じだし。
あと、所作が一々かっこいい。
「ところで、悠杜君とは知り合い?」
「え?」
「いや、悠杜君の動きからしてそうかなって」
千秋さんが言う。すごいな、そんなに当てられるなんて。
「ええ、一応クラスメイトです」
「てことは未悠ちゃんも四宮高校かな」
「ええ、占ってもらったりとか」
千秋さんの手にアルフレッドが止まる。ああ、すごくかわいい。というかさっきから千秋さんに押し切られてるな。
「ああ、それは気をつけなよ。彼、嘘つきだからさ」
「え?」
「念のため聞いとくけど、出たカードって何だったかわかる? それから運勢も?」
「えっと、逆位置の『恋人』で深い絆とか言ってました」
それを聞いた千秋さんが頭に手を当てる。アルフレッドがホーと鳴いた。
「それ、嘘だから。本当は誘惑とか言う意味なんだよね」
「え?」
「基本的にはいい子なんだけどさ、占いでたまに嘘をつくことがあるんだよね。本人は良かれと思ってやってるみたいなんだけどさ」
それは知らなかった。伏見君はやっぱり私を傷付けるのがいやだったのかな。だったらうれしい。そういう純粋な善意ができる人ってあんまりいないから。
ってそもそもだけど、今それ関係なくない!
「というかどうしてそれを?」
「ああ、実はさ、悠杜君とはいろいろあってね。それで、彼にも君みたいな友人がいてくれるとうれしいなって思ってるからさ。あ、もちろんフクロウ好きの人と知り合えるっていうのがうれしいってのもあるよ」
そう言って千秋さんははぐらかす。まあ、本人が害とならないのならいいか。千秋さんが魅力的だってこともあるけど。私と対等に話をしてくれそうな人っていなかったからさ。
「ま、これからよろしくね、未悠ちゃん。できれば悠杜君とも」
フクロウカフェ『シャルロット』は私にとって楽しい場所になりそうだ。




