深草未悠 伏見君の占い
結局、私の近くに来る人は私に何らかの利益や見返りを求めてくるばっかりで、純粋に私の内面を好きになったり、あるいは私と対等に話してくれたりする相手なんていないのだ。京香は求めれば対等に話してくれるだろうけど、でもそれは心のそこから思ってくれてるわけじゃない。対等に話し合えるクラスメイトや友達、ましてや恋人なんて、完璧すぎた私にはできないのだ。
寂しい。すごく寂しいと思う。あるいは、持たざるものには皮肉かもしれないけど、そこまで恵まれなければよかったのにと思う。美貌が学年一でなくてもかまわないし、勉強もある程度できればそれでいい。ああ、変に優等生じゃなくて、もう少し反抗してもよかったのかもしれないな。でも、どれも私にはできない芸当なのだ。
そう、私には、私の望む存在なんていないのだと思ってた。
今日も私は痴漢を退治して、そして学校に向かう間もそれは変わらないと思ってた。まあ、ちょっと悪意を抱いてしまった程度なら許してはいるのだけれど。
「京香、これの処理、頼める?」
そう言って靴箱に放り込まれていた封筒の山を京香に頼む。すでに入ってるのにどうして入れるんだ。そもそも、こっちだって忙しいのに、いちいち呼び出されている暇なんかない。そんなこともわきまえずに自分の都合だけ押し付けないでよ。なぜかかわいらしい封筒が多かったけど。
授業を受けてる間も、ちらちらした視線を感じていた。授業が終わって食堂に向かう。昨日の一喝が効いたおかげか、私に話しかけてこようとする人はいなかった。まあ、仮入部が始まると多分また始まるんだろうけど。そう言えばどこに入ろうか。生徒会にでも入れば何か面白いことがあるだろうか。
右手一番奥の席に陣取る。そこだけ人がはけていた。むう、私の指定席みたいになっちゃったじゃないか。そんなこと望んでなかったのに。
そう思っていたら、人が一人、机の端に座った。クラスメイトの占い君。本名は忘れた。でも、またここに座るって本当に懲りないね。面倒なので睨み付ける。
にも関わらず、占い君は飄々とした態度でカレーうどんをすすり続けた。あ、跳ねた。
「私に関わらないで。どうせ大した用もないんでしょう」
「まあね、用は特にないよ。ここ空いてるから使ってるだけ」
むう、予想外の答えだぞ。てっきり私目当てだと思ったのに。
でも、ちょっとむかつく。実際は、こんな存在を渇望していたはずなのにな。私のことを特に何も思ってない人。
「あなた、占いが得意だったよね」
ちょっと意地を張ってみたくなってしまった。ああ、私の馬鹿。
「そうだよ、深草さんも占ってみる?」
呑気に答える。ちょっとだけうらやましいと思ってしまった。その流れはとても自然で、その言い草も数いる友人の一人に言うような、そんな口調だった。
意固地になって、さらにつっけんどんに言ってしまう。
「それじゃあ、お願いしようかしら」
「了解」
そう言うと、占い君は真剣そうな手つきで内ポケットからタロットカードを取り出して繰り始めた。こっちを見ない。思い出した、伏見悠杜君だ。そっか、伏見君はこっちを見ないんだ。無理して意識しないようにしているだけかもしれないけど、でもそのそっけない態度が少しうれしいかも。
「出ましたよ、えっと、逆位置の『恋人』ですか。……そうですね、このタロットには深い絆や結婚を表すんです。深草さんもいい相手と出会えるといいですね」
そう言って、伏見君は笑った。その笑顔は、決して私に媚を売るような、あざとい笑顔ではなかった。言うならば、それは無関心。不覚にも何を言えばいいかわからなかった。
初めて、私を特別視しない人に出会えた気がした。




