深草未悠 食堂で騒がないで
結局、ホームルームが終わった瞬間に質問攻めに遭った。京香が蹴散らしてくれて助かったよ。お姉さま親衛隊とか言う名前で私を持ち上げてる組織があるらしいけど、でも、こういうときには役に立つよね。盲目的に崇拝しているところはあるけど、京香は普通の人とちょっと違うし結構気が合うから楽しい。
そしていきなり告白してくる人物が3人。お近づきになりたい女子が16人。京香が引っ張っていってくれました。悪いけど、私にとって特別だとおもえるのは、楯になってくれてる京香だけなんだよね。言い方が悪いけど有象無象と同じ扱いでいいならどうぞ。
その日は結局、教師が出てくるまで帰させてもらえなかった。
翌朝、家を出たところで四宮高校の制服を着た生徒を見かけた。確かクラスメイトの中にいたような。まあ、いいか。京香と合流して駅へ向かう。
新調した定期券を改札口にあて、通勤ラッシュの満員電車に乗り込む。中学までは普通に徒歩通学だったから、電車通学というのも少し憧れだ。友達とかと一緒にしゃべりながら下校したりするのかな。いい人がいれば恋人を作ってもいいかなとも思うけどいい人の定義があいまいな私にはできる気がしないや。
なんて思ってたけど、実際は暑苦しくて、変な視線が突き刺さる。まあ、もし何かあれば京香が対応してくれるからいいんだけどね。美少女二人を見て変な気を起こす輩がいなければいいんだけど。そう思っていたら案の定私たちの後ろに移動してきたやつがいた。京香のおかげで神妙にお縄についたけど、そのせいで遅刻しちゃった。あ~あ。
今日はまだ授業はほとんどない。学習要領の説明ばっかりだ。特に移動することもなく、淡々と授業を受けていた――わけではなく本を読んでいた。フクロウ飼うのって意外と難しいんだよね。でも大丈夫、つい昨日の帰り道、フクロウカフェを見つけたのです。今週末にでも行くつもり。すごく楽しみだ。
そんな私をチラチラと見る視線。はあ、右斜め2マス後ろの男子、がん見してるの気づいてますよ。それから4マス右の男子と、左斜め前方の女子も。京香に制裁食らうかもしれない。まあ、いいか。ちなみに後ろの占い君からはそんな視線感じなかった。私の近くの席の人は私を見ようとするものなんだけどね。まあ、単に寝てるだけかもしれない。
そんなこんなで授業が終わり、昼休みになる。せっかくだから食堂を利用しようかな。そう思った矢先のことだった。
「好きです、付き合ってください」
えっと、君、誰? 上履きの色からして3年生かな。名前も知らない人物に興味ないし。
「ごめんなさい。誰かと付き合う気はありません」
そう言って去っていく。まあ、しつこいようなら京香が何とかしてくれるでしょ。
食堂の右手一番奥の席に陣取る。本当は友達って言える人が欲しいんだけど、私と対等でいてくれる人ってのがなかなかいないから。そこで弁当箱を開けてると、学年男女問わず人が群がってきた。うるさいな。弁当くらいは静かに食べたい。朝早起きして結構頑張って作ったのに。
「ねえ、深草さんってさ」
「僕と付き合ってください」
「すごいかわいいよね」
「どこすんでるの」
ああ、うるさい。目から光が消えていく気がする。そりゃ、お昼ごはんをにぎやかに友達としゃべりながら食べるってことに反対はしないよ。でもさ、こうやって一人を取り囲んでがやがや言うのは違うと思う。それに、友達になりたいって人がいたとしても、こんなうるさい中じゃわからない。もっと別の時にしてほしい。私は食事がしたいんだ! これじゃあまともにお昼ごはんも食べられないじゃないか!
「お姉さまとお呼びしても」
「何か家で飼ってる」
「ああ、すごく素敵だわ」
「ねえ、深草さんって料理も得意なの」
「黙って!」
バン
食堂の机を叩いて立ち上がる。
「なんで静かに食事もさせてくれないの! こんなに群がって食べられるわけないでしょ! そりゃある程度なら私だってしゃべってもいいよ! でもこんなに質問攻めにあって全部まじめに答えられるわけないでしょ! 私食べ終われないよ! 相手の都合も考えずに話しかけないでよ!」
叫ぶと、あたりが水を打ったように静まり返った。むう、これでようやく落ち着いてお昼ごはんが食べられるよ。これだから冷たいって言われるのかもしれないけど、チヤホヤされるのって疲れる。
「とりあえずお姉さまから離れなさい」
京香が威圧して言う。ようやく離れて行ってくれたよ。ありがとう、京香。でもとりあえず、ああやって人のことを考えずに押しかけてくる人に私はたなびいたりしないからね。
祝ブクマ100件達成! 今後とも『学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!』をよろしくおねがいします。




