深草未悠 照れ隠しだと思ってたのに!
ショックだった。伏見君にそんなことを言われるなんて。
「だからなんだって言うんだ! 実際僕は迷惑をこうむってるじゃないか! なんで僕に生徒会に入れって言うんだ! 僕は入りたくないって何度も言ってるだろ! そもそも僕に何の徳があるんだ! 内申がよくなる程度でデメリットばっかじゃないか! バイトだってあるし! 僕を過労死させる気か! そもそもなんで僕なんですか! 他にも人はいっぱいいるのに! あなたなら選び放題でしょ! なのに何で僕を巻き込むんだ! きっとあなたに取っちゃ気まぐれとか哀れみとかなんでしょ!」
私は気まぐれで伏見君を選んだわけでも、哀れみで伏見君を選んだわけでもないのに。伏見君のことが本気で好きなのに。
伏見君だからいいのに。他の人じゃだめなのに。伏見君だけが私を意識せずにいてくれたから。好きだって気づかされたから。だから、伏見君の隣にいたのに。
でも伏見君はそう思ってくれてなかった。私は、迷惑だったと言うの?
涙が止めどなく溢れてくる。嘘、なんでなの? なんでこんなことになるの?
「僕のことが好きとかじゃなくて遊びなんでしょ! どうせ……」
「違う!」
気がついたら、私は伏見君の頬を打っていた。
やってしまった。自己嫌悪と伏見君に向けた嫌な感情が混ざり合って顔を向けてられない。
いたたまれなくなって逃げ出す。アスファルトが濡れて光った。
授業中も、やっぱり伏見君と話す気にはなれなくて。そっぽを向いていた。移動教室の際も、授業が終わってすぐ、荷物をまとめて駆け出した。一緒に行く気にはなれなかった。お昼ごはんも、食堂には行かずに一人で食べた。余ってしまった伏見君の分のお弁当はゴミ箱に捨てた。もったいなかったな。
ずっと、受け止めてくれてると思ってた。ちょっとやり過ぎだったかもしれないけど、それでも口では嫌がりながらもその実楽しんでくれてると思ってた。占いを頼んだときも、『シャルロット』で会った時も、楽しんでると思ってた。移動中のそっけない態度も、生徒会に誘ったときも、最後にはきっと認めてくれると信じてた。でも、それは私の幻想だったの? 私が見ていたのはすべて偽りの姿だったと言うの?
口では嫌よ嫌よといいながらも、その実私を好いてくれてるんだと思ってたのに! 素直になれないだけで両想いになれてると信じてたのに! 私を邪険に扱っていたのは、照れ隠しだと思ってたのに!
「お姉さま、少しいいですか?」
「……京香? どうしたの?」
授業が終わって帰ろうとしたところで、京香から話しかけられる。
「お姉さま、屋上に来てもらえますか? 鍵はすでに開けてありますので」
京香が不可思議なことを言う。何なんだろうか。今は、シャルにでも会って心の傷を癒したいのに。
「詳細は聞かないでください。ともかく、この件はお姉さまのためになると判断しましたから」
京香がそう言うのなら、それはきっと正しいんだろう。そう思う。心の支柱は、今は京香だから。盲目的に従いたくなった。
「わかったわ。でも、早く帰るからね」
そう言って私は屋上へと向かう。普通は閉鎖されているけど、いつの間にか京香が合鍵を作っていた。
それにしても、いったい京香が呼び出すなんてなんなんだろうか。




