まだ恋人になって1カ月も経ってないんだよ?
あの後、京香さんとは特に何もなかった。
うん、特に何もなかったんだ。だって、僕なにもしてないし。
いつの間にか、立ち直っていた。僕が何か声をかけたわけでもなく、何かが吹っ切れたみたいだ。ただし、
「その、まだお姉さまって呼び方なのね」
「すいません。ずっとこの呼び方だったので、未悠さんと呼ぶのはその、ちょっと何か違う気がするというか」
「もう、未悠でいいのに」
口調はほとんど変わっていなかったけど。
だけど、表情に少し柔らかさが出てきたような気がする。前は鉄面皮をかぶっているような、そんな雰囲気だったけど、今は表情の鈍い人程度だ。決して自分から押さえつけているわけじゃない。
もう、未悠さんの妹である必要はない。そんな繋がりじゃなくても、2人は友達だから。親友だから。
……あれ、ひょっとして僕必要ない?
まあ、それはともかくとして、プレゼント喜んでもらえたことを京香さん、いや姉さんに話しておいた。誕生日は姉さんの方が圧倒的に速いからね。
とっても嬉しそうだった。僕に分かったのはそれくらいだ。自分が図柄を書いたキーホルダーを受け取ってもらえて、笑顔を浮かべていた。相変わらず表情には乏しかったけど、これから徐々に豊かになっていくんじゃないだろうか。
そして、大みそか。
ピンポーン
インターフォンが鳴った。どうやら、来たらしい。未悠さんと姉さん、加乃先輩とトランプをしていたのをいったん中断し迎えに行く。
「ただいまー! お兄ちゃん久しぶり!」
胸部にタックルを食らう。相変わらずパワフルな従妹だ。水無瀬葵、未悠さんとも仲がいい。
「久しぶり。伯父さんと伯母さんも久しぶりですね。どうぞ、中へ」
「ああ。聞いたよ。兄が再婚したらしいね? どう、新しい家族とは仲良くやれてるかい?」
「ええ、もちろん」
そんなことを言いながら家の中へと誘う。今日から3日まで、家に泊まるのだ。ちなみに2日には上の従姉も来る予定になっている。
「いらっしゃい、葵ちゃん」
「未悠お姉ちゃんも久しぶり~。会いたかった」
「私もだよ」
未悠さんに抱き着く僕の従妹。ちょっとうらやましい。ポジション変わってほしいかも。
「ねね、せっかくだし遊ぼう?」
「でも、伯父さんと伯母さんの方も」
「僕は大丈夫だよ。それに、兄の奥さんにも挨拶しておきたかったところだしね」
伯父さんに機転を制される。まあ、いっか。
「それじゃあ、お兄ちゃんたちと遊んできま~す」
やれやれ、葵は元気だな。僕も追いかけないと。
しかし、従兄離れができてないんじゃないかと少し心配になる。夏休みには彼氏ができたなんて話していたが、少し心配なところだ。
……僕のバカ。
どうして起爆剤と爆薬を一緒にしてしまったんだ。そんなのカオスを極めるに決まってるじゃないか。
「いいね、あおちゃん。今度、飛行機に乗せてあげるよ」
「やった~! ブルーインパルス乗りたいです」
「おお、いいね。乗ろう乗ろう」
いや、乗れないと思うけど。というか、僕も未悠さんも撃墜されてる。
「みんな~、お蕎麦の買い出し頼める? かき揚げ作ろうと思うんだけど」
母さんが顔を出してくる。ちょうどいい。この現状を脱せるならそれで。
「あ、私アルテミスとアポロンの世話しなきゃ」
「僕も、買い物行く前に寄って行っていい?」
「いいわよ」
それに、時間だしね。
「私も行きたい!」
「私も!」
おいこら、加乃先輩。そんなIQ3みたいに幼い声を出すな。面倒だ。
まあ、葵も2人に面識あるしね。フクロウからしてみれば覚えてるかどうかわからないけど。
「オッケー、じゃあ5人にお願いしちゃおうかな。ところで、未悠ちゃんと加乃ちゃんはどうするの? 食べてく? 私的には、2人がいてくれるとにぎやかでいいけど」
「ぜひ、お願いします」
未悠さんが言う。ちょっと、母さん。問題は賑やかすぎることだと思うんだよ。だって、総勢9人だよ? 普段が4人だから倍以上じゃないか。それに、爆弾が2つもあって連鎖反応しそうだし。まあ、別に積極的に反対するわけじゃないけど。
「親には泊まってくるって伝えてありますしね」
「私も1人暮らしだから」
それにしても、未悠さんの家は大丈夫なんだろうか。
一応、付き合う前からほとんど恋人同士で安パイと認識されてるとは言え、まだ恋人になって1カ月も経ってないんだよ? ちょっと不用心過ぎないかなあ。いや、手を出すつもりなんてないのだけれど。
「そっか。じゃあ、みんなで楽しみましょ。あ、悠杜。後で買って欲しいものメールするね」
それだけ言うと、母さんは僕の部屋を出ていった。再婚してから4カ月。大分、新しい母がいる生活にも慣れてきたんじゃないだろうか。
「それじゃあ、結果を発表します。1位、ジャカジャカジャカジャカジャン」
年越しそばを食べ終わった後は、みんなで人生ゲームだ。
それにしてもお蕎麦おいしかったなあ。かき揚げに海老天に油揚げにとろろに温泉卵。とてつもなく豪勢だった。葵なんて食べきれなくて加乃先輩に食べてもらってた。年越しくらい豪勢にいってもいいよね。
そして、人生ゲームだが、なぜか僕が銀行家をやってます。まあ、僕はめちゃくちゃ運が悪かったんだけどね。それに、結果も集計したんだからちゃんと理解してる。7位だった。
「加乃先輩です! おめでと~」
圧倒的な1位だった。豪運に、ギャンブルの強さも見せつけての1位。2位以下を100万ドル近く引きはがしてたし。すごいなあと。ちなみに2位が葵で、3位が未悠さんでした。父さんは最下位で、しかも最終的に借金が残ってるし。まあでも、なかなか楽しかったんじゃないでしょうか。
「それじゃあ、そろそろ片付けるよ」
そう言うと、葵が率先して駒を回収してくれる。もう夜も遅いのに元気だなあ。加乃先輩と言い、葵と言い、内臓エンジンが違うんじゃないだろうか。そんなことを考えていた。
ボーンボーン
「お、もう除夜の鐘か」
誰ともなく呟く。もうすぐ新しい年が来る。うん。
「よし、それじゃあ行くか」
父さんが立ち上がる。続いて伯父さんと加乃先輩も立ち上がった。
え? 何に行くかって?
そんなの決まってる。二年参りだ。
作者「ようやく、次の年まで来ましたよ」
加乃「ところで、作者は二年参りしたことあるの?」
作者「それがないんだよね。一回くらいやってみたいとは思うんだけどさ」
加乃「やってみたいよね。あと、地球一周もやってみたい」
作者「それスケールが違い過ぎる……」
竹田「ところで、事件っていつ起こるんだ? ただほのぼのいちゃついてるだけにしか思えんが」




