この笑顔のためならなんだってできる
更新速度を取って文章力を捨てた(オイコラ)
「ずいぶん寒くなって来たよね」
白い息を吐き出しながら、未悠さんが言う。でも、そのモコモコのコートはあったかそうだ。
「そりゃ、もう今年も終わりですから」
ショッピングモールのエスカレータをのぼりながら、そんなことを話す。
有体に言えば、デートをしに来ていた。映画を見たり、ゲーセン行ったり。
幸せだ。心からそう思う。今、僕はとても幸せだって。こんな可憐な未悠さんと恋人関係になって、デートして。些細なことで笑いあって、お昼ご飯を一緒に食べて、少し交換したりして。
「あ、そうだ。6階にちょっと寄っていい?」
「いいよ。どの店行くの?」
「いや、何となくプラプラしようかなって」
振り返る姿に胸を撃ち抜かれそうになる。いや、実際に撃ち抜かれてるわけだけど。
中学の時の僕に言いたい。恋愛の食わず嫌いはよくないぞって。別に、恋人として特に何かをするわけじゃなくても、未悠さんという彼女と一緒にいる。それだけで幸せを感じられるんだから。
今も、つい指の先を目で追ってしまっていた。
「今年はもう雪降らないのかな……」
「うーん、天気予報だと明日は降るかもって話だったけど。あと、3日は雪が降りそうだって」
「それじゃあ、その日雪合戦でもしようか」
いたずっらっぽく笑う。ああ、かわいい。癒される。
それから、恋人になるとさ、次は何をしよう、どうやって未悠さんを喜ばせようかって、そんなことを考えちゃうんだ。後は、どうやって驚かせようとか。
「本気で行きますからね」
「それじゃあ、私のチームに加乃さん入れます」
「げっ!?」
それはやめて欲しいな。勝てる未来がなくなるから。
楽しそうに未悠さんが笑う。笑顔っていうのはやっぱりいいものだ。
今になれば、京香さんがあんなに執着したのもわかる気がする。こんな風に笑う未悠さんさんを見てしまったらその笑顔をまた見たいって思う。そんな信奉者になってもおかしくない。
さっきから、幸せオーラを振りまいてるよなあ。やっぱり、未悠さんは何かが違うのだろう。うん。
「そう言えば、明日、従妹と家族が帰ってくるんだ」
「従妹ってことは、葵ちゃん?」
「そそ」
夏休み以来だもんね。2人、結構仲が良かったみたいだし、嬉しそうでよかった。
「大みそかの夜はうちで一緒に過ごすことになってて。空いてる部屋を使ってもらう予定。三が日は家にいるはずだから、一緒に遊べるんじゃないかな」
「遊びに行こう!」
ぴょんと飛び跳ねる。髪がふわっと舞った。
そう言えば、もう一人の従姉もちょっと遅れるけど帰ってくるんだったな。せっかくだから、恋人として紹介できたらいいかも。
「ただいま」
ドアを開ける。未悠さんも一緒だ。せっかくだから2人で晩御飯を作るのもいいかなって思ってさ。
「お姉さま、今日はいらっしゃる日だったのですね」
「う、うん。京香も元気そうでよかった」
「はい、お姉さまに会えましたから」
あれ、未悠さんの調子が変わったぞ?
「あのさ、ちょっとみんな、そこに座ってくれないかな」
そう言って、未悠さんが腰かける。僕は、未悠さんの横を支持された。
「あのさ、京香。その、私たち付き合うことになったでしょ? それで、いろいろと関係性も変わったからさ。そろそろ、そのお姉さまって言い方、やめて欲しいんだ」
「え……」
京香さんの顔が固まる。訳が分からないっていう表情になった。
そして、すぐさま、とても悲しそうな顔をする。
「どうして、お姉さまはそういうことを言うんですか。もう、私がいらないとか……」
「違う違う、そうじゃなくて!」
焦ったように未悠さんが言う。
「だから、そのさ。別に、もう私の妹であることにこだわらなくていいんだよって」
「だからどうしてそんなことを言うんですか! 私はお姉さまの恋人なんかじゃない! なのに、その特別な関係を奪おうっていうんですか!」
怒っていた。悲しんでいた。そんな気がする。だけど、僕は何もできずに、ただおろおろしているだけだった。
「違うよ。そうじゃない。もちろん、京香がそれを望んでるのなら今のままでも私はかまわないつもり」
優しそうな甘い声で未悠さんが言う。
「だけどさ。もう、私を守るためにどうのこうの戦う必要はないんだって。ほら、悠杜と付き合うことになってさ。それでもう私も思ったんだ。京香に頼り過ぎないようにしようって」
「そんなこと言わないで下さい! もっと私たちを頼って! そうじゃないと」
「価値がないって?」
こくんと、京香さんが頷く。
「そんなことないよ」
少し、分かったことがある。たぶん、未悠さんはずっとこのことを考えてたんだろう。それを、せっかくの機会だから話すことにした。きっとそういうこと。
「ごめんね、京香。私のせいだよね。私が友達なんていらないって言ったから」
「……そんなこと」
ただし、僕は全く話が分からないけど。これ僕いる必要があったのだろうか? 渡しそびれたし。
「私が、友達なんていらないって言ったから。だけど、私の近くにいたくて、親衛隊を組織した。そうでしょ? 友達じゃなくて、妹なら近くにいられると思ったから。違う?」
「……わ。た、しは……」
崩れそうになる京香さんを未悠さんが抱き留める。
「ごめんね。だけどさ、私は京香と友達になりたい。悠杜君のおかげで前を向けたからさ。京香と対等な立場で過ごしたいって思ったの。それにお姉さまって呼び方は邪魔でしょ? ダメ、かな?」
「だって、お姉さまじゃなくなったら……」
「そんなことないよ」
……よくわからなかった。
「京香は、昔も今も、私の大切な人だからさ。ね?」
ただ、分かったことが一つ。
「少し、考えさせてください……」
ふらっと、京香さんが自分の部屋へと戻っていく。
たぶん、2人の間にはまだわだかまりがあったんだろう。それを、未悠さんは解決したいって思った。だけどその過程で京香さんは捨てられるかもしれないと恐怖した。
でも、たぶん大丈夫。なぜかはわからないけど、そんな気がする。きっと、突然話を切り出されて混乱しているだけ。
「あのさ、悠杜君。悪いけど、京香ちゃんのこと見てきてくれないかな? そばにいてくれるだけでいいから」
「分かりました。でも、その前に一つ」
だって、未悠さんにとって、僕が大事なのもそうだけど、京香さんも大事な相手だから。だったら、弟として、ね。
「これ、クリスマスプレゼント。その、何か渡したいなって、姉さんに相談したら、図柄を書いてくれて。僕はお金出しただけなんだけどね」
ただのキーホルダー。だけど、ここには姉さんの思いがいっぱい詰まっているはずだ。
「ありがとう。大切にするね」
笑う。とっても、きれいに。
僕が、京香さんにできることは少ないのかもしれない。だって、当事者じゃないし。だけど、ほんのちょっと背中を押したい。そう思えた。また、3人仲良くできるようにしたい。だって。
この笑顔のためならなんだってできる。そんな気がしたから。
加乃「メタいこと言っていい?」
作者「ん、いいよ」
加乃「これ、伏線も何もない話だよね?」
作者「うん、突発的に思いついたからね。というか、この話自体が見切り発車みたいなもんだから」
悠杜「作者はもうちょっと思慮深くなった方がいいと思う」
作者「照れるなあ」
悠杜「ほめてない」




