なんで京都に行くたびに寝不足になるんだろう?
大変長らくお待たせしました。これから最終章、完結に向けて走っていきたいと思います。
新人賞用の書き終わったし、これから時間ができる、はず。
「あー、疲れた」
未悠さんが体をホテルのベッドに投げ出した。体が沈む。
「ちょっと食べすぎちゃった」
「おいしいもの多かったしね」
僕もベッドに腰かける。歩き回ったせいで足が結構パンパンだ。
時間がなかったから、晩御飯はチェックインしてそのままビュッフェに直行。荷物はその間に部屋まで運んでもらった。
「湯葉とか漬物とか京野菜とか、流石は京都って感じだった」
「洋食も多かったけどね」
「実は、加乃先輩に聞いたんだけどさ」
確かに、京都と言えばはんなりした和食をイメージしてたけど、意外とそう言うこともなかったんだよね。丹波地鶏のチキンステーキとか、ライ麦香るパンとか。それに、すしは江戸前のものだったと思う。
「京都の人って、新しいものかぶれなんだってさ。自分たちは伝統を守ってますよって見せかけて裏ではカップラーメン食べてる」
「ぐふっ!? なにそれ」
未悠さんが笑う。体を振って飛び起きた。
「何か、そういう話があるらしいよ。本当かどうか知らないけど」
加乃先輩の雑学は本当か嘘か見分けがつかないもんなあ。
「確かに、一番おいしかったの和食じゃなくてローストビーフだ」
「それは僕も。今度家で作れるように練習しとこうかな。クリスマスプレゼントに低温調理器でも」
「いいね、私にも使わせてよ」
そんなことを言いながら、未悠さんはばったりと倒れこんだ。
夜景がきれいだ。かなりキラキラしてる。東京ほどじゃないけど、京都も都会なんだなあ。そんなことを思う。
「明日の朝ごはんなんだろうね」
「ちょっと食べ過ぎたし控えめにしとく。ほら、その……、太りそうだし」
「別に、気にしないけど」
しまった。完全に不用意な発言だった。
女の子にそういうのは言わない方が。そう思っていたのに。
「私、お風呂入るね」
未悠さんがいそいそと準備を始める。そう言えば、もう22時を回っていた。確かに遅い。
だけど、どう考えても話題を避けた感じだよね。うん。
「あ、僕も大浴場行こう。朝の3時までやってるはずだけど、早めの方がいいし」
「23時までに戻ってくる感じでいいよね?」
取り繕ったように言うと、未悠さんは僕に背を向けて準備をしながらそんなことを言う。
「あ、うん。わかった」
「それとさ、お風呂に入ってきた後、どうする? 何かする?」
「いや、疲れてるし寝るつもり。あ、僕は準備できたよ」
未悠さんのため息が聞こえた気がした。また地雷踏み抜いた?
湯あたりしたみたいだ。
そう思って、早めに帰ってきてベッドに寝転がっていると、ドアが開く音がした。未悠さんが帰って来たみたいだ。ほんのり上気した肌が浴衣の隙間からちらりちらりと見える。何というか、そこはかとなくエロい。見てられない。
「あれ、悠杜君早かったね」
「まあね。ちょっとサウナに入りすぎて。暑くなったから早めに上がってきた」
「そっか。まあ私も長湯しちゃったし」
ポーンと未悠さんも自分のベッドに腰かける。
「それじゃあ、これからどうする? もう夜もいい感じになって来たけど」
「トランプもって来たけど、疲れたしそろそろ寝ない? 僕普段もう寝てるくらいだし、歩き疲れてくたくた。電気消すよ」
そう一言断って、電気を暗くした。オレンジ色のライトだけが残る。
ホテルで時間があったら遊ぼうと思って持ってきたんだけど、結局ギリギリまで観光してたし、疲れ切っちゃったしでそんな暇なかった。
「そうじゃなくて、ほら」
暗闇の中で、未悠さんがごそごそと動き回る。ベッドの上から、僕を見下ろすように。
浴衣の胸元を、少しだけ引っ張った。
「悠杜君は、そういうつもりなのかなって、思ってたんだけど」
「え……?」
……そういうつもり?
……ドウイウコト?
って、
「えええええぇぇぇぇぇ!?」
口をふさぐ。夜に迷惑だという理性が働いた。
「あ、いや、その。僕は別にそういうことじゃなくて、あの、その。だから、ただ単純に旅行に行こうってそのつもりで誘ったわけで、そういうやましい気持ちは一切なく手ですね。あの、はい。いや、そういうつもりじゃないです、はい」
そういうつもりなのって、そういうことだよね!? いや、それにはまだ早いというか、特に何も考えてないというか。
でも、考えてみたら、未悠さんはそう取ったのかも。だって、年頃の男女が二人で旅行に出かけて、しかもツインの部屋で、こんな高級ホテル。
……うん、誤解されても仕方ないかもしれないかもしれない。
未悠さんが目を丸くする。
「そうだったの? でも、私は悠杜君さえいいならと思って、一応準備はできてるし、どうする? その、する?」
顔が赤い。僕も、未悠さんも。暗い部屋だけど、なぜかわかる。
正直なところ、興味がないわけじゃない。そりゃ僕だって年頃の男子だしそういうことを考えないわけでもないけど未悠さんがこうしてちょっと艶めかしい姿をして誘っているっていう今の状況が夢みたいな状況で嬉しくないかと言われると嘘になるわけだけどそれでも。
「あの、その。そういうのは、やっぱりちょっと、早いんじゃないかなって……」
「……ヘタレ」
罵倒された。僕に聞こえるように。
まあ、僕はヘタレだけど……。
「と、とにかく、僕は寝るから! おやすみ!」
宣言してシーツを身にまとう。そして、未悠さんに背中を向けた。
落ち着け、落ち着け。そういうことじゃない。まだそういうことには早い。だから落ち着け。そう言って、ほてった体を沈めようとする。
一日中観光していたせいもあって、疲れがたまっていたのか、目を閉じるとすぐに眠りに落ちていった……
……わけがなかった。
眠れない。眠れるはずもない。だって、あんな興奮するようなこと言われて誘われたんだよ? 気になって仕方ないじゃん。
それに、同室に暗闇の中二人きりって、意識しちゃったら、もう心臓バクバク言ってるんですけど。こんな状態で落ち着いて寝られるわけがない。だって。ねえ。
改めて考え直せば、何で僕こんなところで未悠さんと二人きりでいるんだ? あの、学年一の美少女と噂される未悠さんと。二人きり。うん、何かがおかしい。というか手を出したら殺されるんじゃないだろうか。うん、落ち着け落ち着け。
そんなことを考えながら、狸寝入りをする。規則的に呼吸していれば、たぶんバレないはず。
「悠杜君、寝た?」
背中の方からもぞもぞと動く気配がする。
「寝ちゃったのかな? それならいいけど……」
気になった。それで、耳を澄ませる。クスッと笑うような声がした。
「私、最初に会った時から、大分変わったと思うんだ。入学当初はいろんなことに興味がなくてさ。覚えてる? 最初は悠杜君にも興味がなかったの」
やばい。完全に出ていくタイミング逸した。これ聞いて立ってバレたらあかん奴だ。
「私にとって、人間ってのは二種類しかなかった。私に好意を抱く人と、嫉妬する人。どっちもたくさんいて、だから他の人になって言ったらどう動くのか、全部わかってたんだ。そう思ってた。だけど、悠杜君は無関心でさ。話したことがないタイプだったから、上手く話せなかった。私、意外とコミュニケーション能力低かったみたい」
おかしいよね。そんな言葉がこもってる気がした。
「私、あんまり自分のこと好きじゃなかった。だけど、悠杜君はと話してると、今までと全然違うような感覚がしてさ、それが忘れられる気がしたんだ。それがうれしかったの」
……なんて返せばいいんだ?
「最初は、ただの興味だったけどね。だけど、するかどうか聞いたのは嘘じゃないから。そりゃ、恥ずかしいけど悠杜君ならいいかなって。その、裸見せても。だって、その。さ」
あ、やばい。
「私、悠杜君のこと……」
「ああああああああああ!」
それ以上は聞いたら戻れなくなるから、パス!
叫び声でかき消そうとする。そしたら、笑い声が聞こえた。
「やっぱり、起きてたんだ。引っかかった」
「え、ちょっと待って!? さっきのってブラフ!?」
「ブラフ」
未悠さんがいたずらっ子のように笑う。
「本当に寝てるのかとも思ったけど、ね。まあでも、本当のこともちょっとは混じってるけど。で、どうする?」
そう言いながら、未悠さんは寝転がったまま足を組んだ。浴衣が翻る。
「いや、やめとく。その、戻れなくなりそう」
「そう、分かった。だけどさ」
なんか、今一番ドキッとした。とっても美しい。そんな顔に見えたから。
「私、引きこもってるときすごく不安だった。このまま嫌われちゃうんじゃないかって。だけど、悠杜君が連れ出してくれて、嬉しかったんだ。それに、行けなかった京都まで連れてきてくれて。本当に感謝してる。ありがとうね」
「あ、え、うん」
「それじゃあ、またになるけどおやすみ」
そう言って、未悠さんは目を閉じた。狸寝入りだ。それはわかっていた。
だけど、胸がまだ熱くて、寝顔から目が離せないんだ。
すごくきれいだ。未悠さんの顔。すごく幸せそうで。なんか、やばい。さっきから胸が高鳴ってる。
落ち着け、自分。そう言い聞かせる。とりあえず、寝よう、と。
だけど、散々からかわれて弄ばれたせいで、興奮して眠れなかった。
いつの間にか、朝が来ていた。
「ほら、起きて。朝ごはん遅れるよ」
「ん、ああ」
結局、3時間くらいしか寝られなかった。とてつもなく眠い。
なんで京都に行くたびに寝不足になるんだろう?
今日、決着をつける予定だというのにさ。
作者「へたれ」
加乃「へ・た・れ。へ・た・れ」
当て馬「へ・た・れ。へ・た・れ」
悠杜「大合唱するな! 僕はヘタレかもしれないけど、処女と童貞だろ!」
加乃「処女……」
当て馬「童貞……」
作者「すまん、オチがつけられなくなった」