深草未悠 なんでもないことのはずなのに
今年中にもう一話投稿できるといいな
結局いけなかったな、なんて溜息を漏らす。
わかってる。きっと、たぶんみんな、私のことを受け入れてくれるんだろうなって。だけど、2週間以上顔を合わせてない。
そう思ったら怖くなって、足が床に張り付いたみたいに動けなくなっちゃった。そんなことないってわかっていても、考えれば考えるほど深みにはまってしまう。その考えに囚われて、相変わらずベッドで膝を抱えていた。
着替えることはできたのに。研修旅行の準備もできたのに、トランクに詰めてあるのに。後は私の家を出て、学校の前に止まっているはずのバスに乗り込むだけなのに。そこまで準備したというのに。結局私は何もできなかった。
頑張って準備したのになあ。
生徒会のみんなで京都に下調べに出かけて、いろんなところ回ったり、ホテルの設備とか確かめたり。タイムテーブルとかも頭突き合わせて決めて、ここに行こうなんてことをみんなで相談して、ずっと準備してたのに。全部、無駄になっちゃった。
自分が嫌になる。何でもないことのはずなのに、引っかかっちゃってさ。思うようにいかないんだ。美少女だなんだってもてはやされてても、ちっともやりたいことができやしない。
目覚まし時計がカチカチという音がする。一つ音が聞こえるたびに、また何かがせりあがってくる。
時間がない。すぐ出ないと、間に合わない。バスは私を置いて出発してしまう。早く、ここを出ないと。
そう思えば思うほど焦りだす。こんなところにいちゃダメだって。みんなと一緒に研修旅行に行かなきゃって。だけど、前へ前へと行こうとするのは気持ちだけで、私の体は拒絶するだけだ。
カチ、カチ
時計の針が動いていく。その音が、やけにうるさい。頭の音が反響する。やめて、そんな音を追い詰めないで。時間が過ぎていくたびに、どんどん締まっていく。
行きたかった。京都、行きたかった。みんなと一緒に。
京香や、彩里ちゃん、三希ちゃん、拓都君。利頼君も、ちょっとは大丈夫になったし。後、康行君。それから、当然、悠杜君。あんな風にみんなと一緒に、研修旅行行きたかったのになあ。
悠杜君、どうしてるだろ。
疲れて、ベッドに寝っ転がる。布団で目を覆った。今は光を見たくない。
たぶん、みんなバスの中に集まってるんだろうな。それで、私がいないことにも気づいている。やっぱり来られなかったんだって思ってるんだろうな。
時計の針がさらに回る。
なんでもないことのはずなのに。ずっと、普通に学校に行けていたはず。あの人ももういない。それなのに、こんなにも怖く感じるなんて。
時間が過ぎた。すっと、楽になっていくような、そんな気がする。なぜかって、もう、出発予定時刻を過ぎたからだ。もう、バスは出発したはずだ。もう手遅れだとわかると、すっとせりあがって来たものが下りていく。諦めがついたせいだ。
悔しい。それと同時に、ちょっとほっとしてる自分がいた。もう頑張らなくていいんだって。
あれ、まただ。こんなに涙もろくなかったはずなのに、最近ずいぶん泣くようになっちゃった。昔は感情の振れ幅すら小さかったというのにさ。なんで、止まってくれないんだろう。
そんなにショックだったんだ、私。なのに、動けないなんて、何やってるんだろう。ちょっと惨めになる。行きたかったはずなのに、自室で泣くことしかできないなんて。
「泣かないでよ。そんな顔見たくない」
「悠杜、君!?」
え、なんでこんなところにいるの!? 鍵は確かにかけてなかったけど! じゃなくて!
「なんで! バスはもう出発したんじゃ!」
「実は、アルテミスとアポロンの世話頼むの忘れてたことに気づいて、いてもたってもいられなくなっちゃって」
「馬鹿! なんで!」
それが強がりだってことくらい、考えなくてもわかる。だけど、それだけに何をさせてるんだって思う。
「携帯で誰かに連絡とればいいじゃん!」
「あ。完全に忘れてた。それに、未悠さんのことも心配だったし」
「忘れたままでよかったのに!」
なんでよ。どうしてよ。どうして、悠杜君はそうやって私のことを気にかけてくるの。私のことなんかほっといて京都に行ってほしいのに、私を理由に残ってほしくないのにさ。迷惑なんて掛けたくないのに。
「それは、無理。だって、未悠さんと一緒じゃないと、楽しくないし。せっかく行くんだったら、一緒に回りたい。未悠さん1人置いていくなんてできないよ」
だけど、悠杜君はそんなことを言ってさ。わかってる。そういう人だって。私が好きになったのもそういう悠杜君だし。だけど、そう思うのはやめられないよ。
「私のためにそんなことしなくていいのに」
「僕は僕の意思で行かないって決めた。それは笑わないでほしい。僕が未悠さんと一緒にいたいからそうしてるだけ」
何で、そんなことを言っちゃうんだよ、君は。そんなこと言われたら、泣くに泣けない。
「ほら、笑って」
無理やりにでも、笑顔を作らないとって思わせるなんて。
ちょっと落ち着いた。生徒会室で遊んでるときみたいに。
悠杜君が口を開く。
「ねえ、せっかく学校をずる休みしたんだからさ、映画でも見に行かない? 2人きりで」
「え、でも」
「学校さぼるのも、さぼって映画行くのも大差ないって、ほら行こう」
「わ、ちょっと待って!」
手を引っ張られる。ええ、でも大っぴらにさぼるのはちょっと。そう思ったけど。
ちょっと楽しいかもしれない。そんな思いもして、引っ張られるままに任せてみよう。そんなことを考えた。
加乃「メリークリスマス!」
作者「メリークリスマス! でも、ここ来て大丈夫だった?」
加乃「大丈夫だって、クリスマスまでには帰ってきてる設定だから」
作者「いやメタ的なこと言わない」
加乃「それより、料理料理。楽しみにしてたんだぞ」
作者「そだねー、カンパーイ!」
加乃「カンパーイ! 久々のアルコール染み渡るわー」※未成年の飲酒はやめましょう
作者「私ももらい。バンクーバーには流石に持ち込めなかったもんね」※未成年の飲酒はやめましょう
なお、この暴走を止める人たちは誰もいない模様。




