許されざる行い
新作「追放されても俺の旅は終わらない」投稿しました。名前の通り追放物、と思ったら一ひねりしすぎたってやつです。こちらもぜひよろしくお願いします。
「それじゃあ、悠杜君今日はお疲れ様」
「おつかれさまでした」
千秋さんに挨拶を返して僕は日曜日のバイト先を後にした。土曜日に未悠さんが来てくれなかったのは少し不安だ。まあでも、たぶん明日は生徒会室に来てくれるんじゃないかな。そんなことを考えながら夜道を歩く。あ、あとでアルテミスとアポロンの世話もいかないとな。
「悠杜君、ちょっといいかな」
「あ、えっと、あなたは」
「翼だよ。三宅翼。前にも会ったことあるよね」
「ええ」
そうだ、思い出した。千秋さんの同級生でシャルロットの面々で旅行に行っていた間、フクロウたちの世話を任されている人だ。
「千秋から聞いたよ。未悠ちゃんがいろいろあったんだってね」
「ええ、そうなんです。それで、ちょっと」
「まったく、千秋も何をやってるんだか。まあ、千秋らしいけどね」
そう言って翼さんははにかんで見せた。
「ちょっとどこかで話していかないか。悠杜君に用事があってね」
「まあ、いいですけど」
そのまま、カフェに連れ込まれる。そうしてそのままコーヒーを二つ頼まれた。
すごくかっこいい人だ。美人だけど、かっこいいという言葉が似合うと思う。まあ、口には出さないんだけど。
「千秋から頼まれてね。まあ、私にも関係がないと言えなくもないし。未悠ちゃんは買ってるしね」
「そう言えば、翼さんは千秋さんの元カノでしたっけ」
そんなことを言っていたような覚えがある。
「違う違う。そうじゃない。まあ、何に近いかって言われると一番簡単なのが元カノってだけなんだけどね」
そう言うと翼さんは口寂しくなったのか卓上の水を口に含む。
「私は、許されざる行いをしたんだよ」
そう言うと、翼さんは濡れた口元を手拭きで拭った。ルージュが引っ付く。
「許されざる、行いですか……」
「そうだよ。私は、千秋の浮気相手になったんだ」
「うわっ!?」
危ない危ない、ここは公衆の面前だった。
「しかも、千秋に彼女がいるのを知った上で、相手になって欲しいなんて言ったんだからね」
何も言えなかった。というか、千秋さんっていつの間に三角関係作ってたの? まったく聞いたことがなかったんですけど。ずっと占いの師匠やってもらってたのに誰かと付き合ってたってこと自体が初耳なんだけど。
店員さんがコーヒーを運んでくる。無言でテーブルに視線を落としていた。と、とりあえず、砂糖入れよう。
何を話したらいいんだろう。というか、この人は何を話したいんだろう。全然わからない。それで。
「どうして……。どうしてそんなことを?」
「それは、ちょっとね」
そう言うと、翼さんはカップを口に当てた。飲んでいないのがわかる。喉動いていないし、カップ傾いてないし。
「実は、大学でストーカーをされてたんだ」
「ストーカー!?」
ブラックな単語ばっかり出てくるな。びっくりした。
「ああ。相当しつこくてね。それで、諦めてもらおうと思って、千秋に偽装した彼氏になってくれるように頼んだんだ」
「そんなことが……」
驚いた。まったく知らなかったから。まあ、確かに翼さんはかっこいいし。僕は未悠さんって決めているけれど。
「千秋には、高校から付き合っている相手がいたんだ。だけど、頼めるやつが千秋くらいしかいなくてさ。だから頼んだ。ラブラブなところを見せつければ、相手も諦めてくれるんじゃないかって」
僕もコーヒーを口に含む。甘い。絶対砂糖の入れ過ぎだ。
「それで、それでどうなったんです?」
「諦めてくれたよ。流石に、そこまでの勇気はなかったみたい。だけど、そのそれを、千秋の彼女に見られたんだ」
「そんな、まさか」
「そう。そのせいで、破局した。お似合いのカップルだったと思ってるんだけどね。でも、千秋が浮気してるって思ったんだろう。それっきりだよ」
そう言って、再び、翼さんは口をつける。さっきから左手が震えているのが分かった。
「私のせいなんだ。私が千秋に頼まなければ、二人は上手く行っていた。だけど、私が千秋に余計なことをさせたから。そのせいなんだ。これが、私の許されざる行いってわけさ」
何も言えない。カップに視線を落とすと、不安げな僕が茶色に染まっていた。
「たぶん、これは私の推測でしかないけど千秋は自分と悠杜君を重ねてるんだと思う」
「重ねている?」
「なかなか、進展しないところとか、自分一人で抱え込みがちなところとかを、過去の自分に重ねてるんだよ。そうして、悠杜君が未悠ちゃんと付き合えば自分が救われるって思ってる」
「そんな、何を……」
一瞬、意味が分からないと思った。拒絶しようとした。だけど、なぜかすっと心に入って来た。
「本当にあいつは馬鹿なんだよ。肝心なところがだめっていうかさ。何か抜けてるんだ。だけどさ、こうなった以上は私も2人にくっついてほしいって思ってる。それがどんな関係であれ、ね。たぶん、私ができる罪滅ぼしはそれくらいだから」
そう言って、笑う翼さんは半分泣き顔で。特に馬鹿っていう顔が印象に残って。
「ひょっとして、翼さんは千秋さんのことが好きなんですか」
「好きだよ」
即答だった。
「好き。千秋のことはずっと前から。だけど千秋は彼女に夢中で。千秋の横にいるべきなのは彼女なんだよ。あ、伝票もらうね」
そう言うと、翼さんは顔を隠すように立ち上がる。
「ごめん、本題からずれちゃったね。私が言いたかったのは、どんな形であれ、責任はみんなが背負うものだって。私にも原因の一端はあるからさ。ごめんね、それだけ。ひょっとしたらまた会うかもしれないね。それじゃあ」
駆け足気味になりながらも、翼さんは去っていった。
あとには、コーヒーが2つ、ほぼ手付かずのまま残った。
ホント、どうしようこれ。
作者「翼さんが誰それっていう人は第100話へGO」
翼「まあ、初登場キャラでも何の問題もないんだけど……」
作者「そして黒幕が黒幕めいて来たね」
黒幕「いや、そう呼んでるの作者だけだから……」




