明らかに言い過ぎだ!
翌水曜日――のことは詳しくは書かない。だって聞きたくないでしょ、拷問器具を用意された話とか。
あ、もちろんこれ山科さんの話ね。深草さんがそんなことするわけないじゃん。ちなみに竹田はとばっちりを食らって実演されていたがそれは自業自得だろう。山科さんの琴線に触れたわけだし。
というわけで、いろいろ大変で、乗り切れるか非常に心配だったわけだが、無事――とは行かないまでも乗り切った。よくがんばった僕。深草さんのすがるような目と山科さんの射殺すような目からよく逃げ切った。さらに言うならクラスメイトの拷問器具を僕で試したいと言う目からも。うん、深草さんはちょっとかわいそうだとは思うけど、他は仕方ないよね。僕の平穏な高校生活のためだもの。
そして運命の木曜日。つまりは今日。
「伏見君、おはよう」
「おはようございます」
僕が家を出ると目の前に深草さんがいた。僕が逃げないか監視しているらしい。
「ところで、伏見君、生徒会の件なんだけど」
「嫌です」
即答である。
「ねえ、もうちょっと話を」
「嫌なんです。もうこれ以上迷惑をこうむるのは」
そうだ、そうだよ。深草さんのせいで、もう迷惑をこうむりすぎだ。
「わ、私はそんなつもりじゃ」
つらつらつらつら。言いたくなかった台詞と心の奥に隠した本音が出てくる。もう止められない。ああ、僕はこんなに思ってたんだ。嘘ばっかりついて。何も望んでないのに、そうだ、すべて深草さんのせいにしてしまえ。
「だからなんだって言うんだ! 実際僕は迷惑をこうむってるじゃないか! なんで僕に生徒会に入れって言うんだ! 僕は入りたくないって何度も言ってるだろ! そもそも僕に何の徳があるんだ! 内申がよくなる程度でデメリットばっかじゃないか! バイトだってあるし! 僕を過労死させる気か!」
そうだ、全部深草さんが悪い。僕はこんなこと望んでない。
「そもそもなんで僕なんですか! 他にも人はいっぱいいるのに! あなたなら選び放題でしょ! なのに何で僕を巻き込むんだ! きっとあなたに取っちゃ気まぐれとか哀れみとかなんでしょ! 僕のことが好きとかじゃなくて遊びなんでしょ! どうせ……」
「違う!」
パン
深草さんに頬を叩かれる。あ。
「私は気まぐれなんかじゃない!」
そう言った深草さんは赤く泣き腫らした眼をしていた。
言い過ぎた。明らかに言い過ぎだ! 僕の馬鹿! なんでそんなことまで言っちゃうんだよ! 深草さんは僕のことが好きなんでした。それなのに遊びなんて言われたら怒るよ。そりゃそうだ。
傷つけてしまった。そう思って。だけど言葉が紡げなくて。
「……ごめん、言い過ぎた」
その一言を聞き届けていたのかどうかは知らないが、深草さんは走ってきたタクシーに乗っていってしまった。どうしよう、これ。
「とりあえず、今からシメます」
……仕方ない、か。
山科さんの拷問はとてつもなく痛かった。
※伏見君は否定を忘れただけです。本人は認めていません。まだ。




