ただの馬鹿じゃないのだろうか?
「痛い……」
「なんて馬鹿なことしたのさ!」
受け身上手く取れなかった。それでも骨折とかはしてなさそうだし、見たところ擦り傷と軽い打ち身っぽいのは幸いだ。
というか、加乃先輩、それを提案したのはあなたですよね。
「とりあえず、玉入れは欠場するって連絡入れといたから。あとは救護用のテントでゆっくりして」
「え、でも」
「まあ、リレーくらいは私の雄姿を見に来てくれてもいいからさ。今は休みなよ」
そう言って加乃先輩はにかっと微笑んだ。はあ、まあ、仕方ないか。玉入れなら欠場してもどうにかなるかもしれないし。
自分でも無茶した自覚はある。だけど、あれが一番手っ取り早いって思ったから。竹田に気づかされてやろうと決めた。うん、加乃先輩と竹田のせいにしておこう。
「あ、未悠さん、京香さん」
「もう、心配したんだから!」
未悠さんたちが近づいてくる。あとは、拓都君と三希さん、それに彩里さん後竹田。確か騎馬戦の直後に台風の目だったはずだから、終わってしまったみたいだ。ちなみに騎馬戦の結果は辛くも赤組の勝利。わずか1騎差だった。意識失ってたわけじゃないから。しかし、僕が頑張ったかいがあるというものだ。
「全部京香ちゃんから聞いたよ! 二条君と私をかけて勝負したことも、それであんな無茶したことも!」
「あ、アハハハ」
乾いた笑みしか出ない。それから加乃先輩。なぜ親指を立てている。その怖い笑顔は何だ。
「もう二度とこんなことしないって約束して!」
「いや、それは、出来ないかなあ」
「どうして!」
いやだって。たぶん同じことがまた会ったら同じ行動をとるだろうから。
「未悠さんのことが大切だから。その、傷つくの見たくないし」
「ヘタレたね」
「ヘタレましたね」
うるさいよそこの親衛隊たち! 自分の気持ちに気づいたところでそれを相手に伝えられるわけないじゃないか!
「馬鹿」
「悪かったね、馬鹿で」
でも、やっぱり未悠さんの笑顔には救われる。だから、彼女の笑顔を守り抜くためには、僕は何だってするよ。
「別に悪かったって言ってるわけじゃないって。でも、事前に言っといて欲しかった」
「ごめん。でも止めるでしょ?」
「当り前じゃない。でも、止まらないんだろうな」
「はいはい、ラブコメはそこまで。招かれざる客が来たみたいだよ」
ラブコメてないって加乃先輩に言おうと思ったところで固まった。
「認めない、あんな勝ち方俺は絶対に認めない!」
二条がそこにいた。
「あんなの無効だ! お前だって落ちてたじゃないか」
「それがどうかしたの。君は負けたんだ。君は悠杜君に帽子を取られた。その後悠杜君が落ちたかどうかは関係ない」
「審判の先生にも確認したけど、有効だって言ってましたよ。その後落ちたら騎馬は失格になりますけど」
加乃先輩が対峙する。僕も二条に対抗した。あれは明らかに僕の勝ちだ。
「だが!」
「ぐちぐち小さいことを言うんじゃない! そもそも、賭けの条件は悠杜君が騎馬戦で君の帽子を取ったら勝ちだったはずだ。悠杜君は受ける必要がなかったうえに、かなり君が有利な内容だ。さらに言うなら怪我だってしていた。勝てなかったのは君の落ち度だ。それをとやかく言うんじゃないこの甘ったれが!」
加乃先輩が怒鳴る。ちょっと怖いと思ってしまったのは内緒だ。だけど、加乃先輩がこんなに人を嫌っているのを初めてみた。
あれ、というかなんで加乃先輩は賭けの条件を知ってるんだ?
「あれは卑怯だ!」
「卑怯なのはどっちだ! 親の力で圧力をかけた挙句譲歩した賭けを踏み倒そうとしてるのはお前だろうが!」
「みっともないです」
未悠さんが吐き捨てる。うわあ、こんな未悠さん初めて見た。
「あんたは負けたんだ。恋愛のリングで持てる力を使って負けた」
「こうなったら、パパの力で」
「借り物の力なんかにすがるな!」
彩里さんが叫ぶ。
「持ってる力を全部使うのはいいよ! 略奪も別にいい! だけど、借り物の力は使っちゃダメだよ。それは、自分の力じゃない。それを恋愛ごとに使っちゃダメ」
「親の力だって立派な力だ」
「そんなもので勝って女の子が喜ぶとでも思ってるの! そんなものを誇示して女の子に本当に好かれたいの?」
「それは……」
二条が口ごもる。
「本当に好きな人がいるのなら、自分だけの力で口説かないとだめだよ」
完全に沈黙した。あれ、彩里さんすごくいいこと言ったのか? 借り物の力ってのは僕も言ってた覚えがあるけど。
こっちを向いてウインクされた。あ、やっぱり引用だったのか。
「伏見悠杜さん。これまでの非礼を謝らせてください。すいませんでした」
「え、あ、はい」
なぜか突然態度が変わる。というか何となく雰囲気が輝いて見せます。今のこの一瞬で何があった!?
「それと、皆さんにも、ご迷惑をおかけしました。本当にすいません」
「まあ、わかればいいってことだね」
加乃先輩が言う。まあ、僕の怪我以外大した害はなかったことだし……、いいか。改心したみたいだし。
「それから、そこのあなた」
「え、私ですか?」
彩里さんに大仰しく手を差し出す。
「あなたのその思いに惚れました、俺と付き合ってください」
「はあああああ!?」
時が、止まった。
「むり、それはパス!」
固まった彩里さんがいち早く逃げていく。あ、振られたみたい。
しかし、二条君ってすごく嫌味なやつとしか思ってなかったけど、実際のところ惚れっぽいだけのただの馬鹿じゃないのだろうか?
「しまらないなあ」
加乃先輩、同感です。
これにて体育祭編は終了です。この後、第一章と二章を書き直した後で新しい章を始めようと思います。
それから、新作を投稿します。一つは『君はマスタードみたい』。1000字小説で、恋愛の短編です。今日24時投稿予定です。
もう一つは『幼馴染が落ちません!』というタイトルで新しくラブコメを連載しようと思っています。書きだめができているので、今週末から毎日更新出来たらなあと思っています。これ以降は当分の間『学年一の美少女が惚れてるなんて信じたくない!』との2本を並行していこうと思います。
今後とも、当作品と蒼原凉をよろしくお願いします。