樟葉加乃 イカサマの後味
お、悠杜君発見。しかし、そっちは教室が違うよ、どこに行くんだろう。まあ私も悠杜君のストー……、おっといけない監視で悠杜君を陰から見守っているわけだけど。だって面白そうだし。
こっちは、ああ、二条君の方へ向かってるのか。まあ、悠杜君なら直接対決で勝てるだろうね。精神状態が大丈夫ならだけど。
「よう、伏見悠杜か。何の用だ」
「君の言っていた勝負だけど。受けようと思う。嫌々だけど、ね」
まったく、悠杜君はツンデレだなあ。嫌々だなんて理由づけをしないと素直になれないなんて。
「渋々だから。君のせいで未悠さんが嫌な思いをしてる。明るく笑ってたはずなのに、君のせいで暗い顔をするようになった。非常に不本意だけど、さっさと終わらせて元の笑顔を見せて欲しいので」
「言ってくれるじゃねえか。それでお前が負けたらどうするっていうんだ?」
「何なりと。何なら僕から未悠さんに接触するのは避けましょう。あ、そうですね、これなんてどうです?」
悠杜君がカギを取り出す。まさか未悠ちゃんの家の合鍵!? ってよく見たら悠杜君の家の鍵じゃん。そろそろ渡されるんじゃないかとも思ってたけど、そうやって誤解させるとはね。
「勝負は騎馬戦でいいですか? ちょうどいいですし」
「ああ、いいぜ」
余裕の笑み。まあでも、正直な話悠杜君は暴走すると一番手が付けられなくなる気がするんだよね。バーサーカーになるというか。それに、なんだかんだ小賢しい所もあるし。例えば、僕から未悠さんに接触するのを避けるという点とか。なんだかんだ言いつつ悠杜君が自ら未悠ちゃんに声をかけたことってほとんどないんだよね。あるとすれば、占いやりますかとかその程度。つまり、生徒会で関わるのはオーケー、黒幕千秋さんに頼まれたこともオッケーで未悠ちゃん本人が望めばそれもオーケーになると。
「それじゃあ、騎馬戦で僕が君の帽子を取れば僕の勝ち。そうじゃなければ君の勝ちということで」
「別のやつに取られたらどうする?」
「君の勝ちでいいですよ。どうせ」
すごくかっこつけて言う。でも、悠杜君ってそういうの似合わないよね。どちらかというと泥臭くつかんだ勝利の方がかっこよく見える。というわけで、まあ頑張れ。というわけじゃないけど頑張れ。
「僕が勝ちますから」
捨て台詞を残して去っていく。あ、これヘタレだから、二条に勝ったとしても告白はしないタイプだな。騎馬戦で相手を倒してその後告白なんてちょっとかっこいいと思ったのに。
まあでも、これ以上進展がないなら退散退散。
「おーい、せっかくだから屋上でお昼食べようぜ!」
「っ!?」
悠杜君のクラスに押し掛けると、悠杜君がびくっとした反応をした。他に男子が何人か慌てて目を背ける。もう、もっと見てもいいんだぞ?
「先輩! 下! 下履いてないんですか!?」
「いや、履いてるよ。じゃーん」
実は体操服を外に出してまくり上げると、短パン履いてないように見えるんだよね。というわけで悠杜君のクラスの男子連中をドキッとさせたわけだ。それに履いてるとわかっても私は結構スレンダーな方だから目に毒だろうしね。
「驚いた!? 驚いたよね? よし成功」
「本当にびっくりさせないでくださいよ」
「ごめんね、でもそれは無理。私の生きがいだし」
悠杜君をからかうのはやめられない。それはともかく、悠杜君がちょっと固い気もする。部活動対抗リレーがあってその直後に騎馬戦だから。
「よし、それじゃあせっかくだし拓都君と三希ちゃんとあいりんもおいでよ。みんなで食べよ?」
悠杜君が固くなってた時の予備で拓都君をからかおうっていう魂胆があるのは内緒だ。つきあいたてのカップルはからかいたくなるからね。
「どうかした、ため息なんてついて」
部活動対抗リレーが終わった。まあ、後は運動部のガチ勢だけなんだけど、次はもう騎馬戦だ。ちなみに私はただの付き添いです。
「いや、ちょっと」
「なに、ひょっとして緊張してるの?」
「ええ、まあ」
やけに素直だな。しかもあれだけ啖呵切っといて。というか、リレーの後で息が上がってるけど大丈夫かな? まあ、大丈夫じゃなくても私が何とかするつもりではいるけど。
「失敗したらどうしようって気になって」
「大丈夫、骨は拾ってやるからさ」
肩にポンと手を置いてやれやれと首をすくめてみた。大仰なしぐさをしてみる。
「仕方ない、悠杜君を占ってあげよう」
「どこからタロット出したんですか」
「4次元から」
まあ、嘘だけどね。こんなこともあろうかと用意していたのだ。
「さてと、正位置の『運命の輪』だとってもいいじゃないか。悠杜君は勝つ。占いもそう言ってるんだから」
「そうですね。気が楽になりました。行ってきます」
悠杜君を送り出していく。『運命の輪』の正位置はチャンス、解決、定められた運命。
だけど、本当は違う。タロットカードを切ったように見せかけて、実際は最初から『運命の輪』の正位置が出るようにイカサマをした。必要のないイカサマはしたくないんだけどな。イカサマの後味って、あんまりよくないし。
だけど、悠杜君の表情を見る限り、固さは取れたようだ。私にイカサマをさせたんだ。ちゃんと勝ってこないとお仕置きだぞ?
作者「ところで加乃ちゃん。常日頃から賭け事をやってたりはしないよね?」
加乃「そんなに信用ならない?」
悠杜「うん」
加乃「心外だなあ、香港でちょっと擦ったことがあるくらいだよ」
作者「いくら?」
加乃「10万くらい」
悠杜「大金じゃないか!」
加乃「セントでね」
悠杜「(計算して)それでも1万4千円……」




