僕は、未悠さんのことが
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それから2日、体育祭の当日の朝。僕は……。
……特に何も考えていなかった。
いや、何か考えようとは思ったんだけど特に何も考える前に来てしまったと言った方がいいのだ。未悠さんの現状をどうにかしようとも思ったんだけど、別にする必要があるかと言われるとなんて悩んでいた。
現状維持でいいか。加乃先輩の必勝法もあるにはあるけど、100パーセント上手くできる気なんてしないし。ただ、それでも、心の中にもやもやしたものが残ってしまう。
「どうした、悠杜君。顔が青いぞ?」
「そんなに体調悪くありません。気分はブルーですけど」
加乃先輩は相変わらず目ざとい。そんなに顔が出るほどお腹が痛いとかそんなわけじゃないからね。
「まあ、とにかくだ、そんなに大変なこと考えなくていいって。いざという時は私たちが何とかする。最悪捻り潰す」
「うわあ、悪そうな顔だ」
加乃先輩がニヒルに笑う。すっごく悪だくみしてそうに。でもそこからすぐに真顔に戻って言う。
「まあでも、結局のところ私たちは傍観者に過ぎないからね。もちろんサポートはするけど。ただ、最後は君がどうしたいかだ。リスクは取っ払っていい」
足早に学校への道を歩んでいく。そうして振り返っていった。
「どんな道を選ぼうと、私は君の味方だ」
そう言った加乃先輩の後姿はとてもかっこよくて、誰かを恋に落としてしまいそうな気がした。僕は違ったけれど。
体育祭の日は着替えのために別のクラスに荷物を置く。だから、未悠さん達とは一旦別れた。着替えた後は荷物を持っていつもの教室に集合だ。そこで、偶然にも竹田と出会った。
「よう、浮かない顔してるじゃねえか。なんだ、緊張か?」
「いや、そんなんじゃないって」
「それじゃああれか、俺たちの女神深草さんに関することか?」
ギクッとする。まあ、別にばらしてもいいんだけど。まあ、いっか。
「まあ、ね。自称婚約者が現れてさ。どう追い払ったもんかなって」
「どうするも何も、お前がさっさと告白すればいいだけだろ。あわよくば俺もおこぼれにあやかりたい」
「そんなんじゃないって」
竹田なら気軽に言える。たぶん、僕の周りの人で唯一罪悪感なく毒を吐ける気がする。そんな気がして。
だけど、帰ってきた言葉は別だった。
「何が、そんなんじゃないってんだ、ふざけろ」
ちょっときつい口調で言われて体が震える。一体何だっていうんだ。
「どう見てもお似合いじゃねえか。これ以上入り込む余地がないくらいにさ」
「そんなんじゃないから。ただの友達だよ、友達。それに……」
少し、口ごもる。
だってそのはずだ。僕は信じないから。ただの友達で、加乃さんや京香さんみたいに一緒にいて気楽な存在だから。僕みたいなごく普通の存在が合うわけないから。そうだ、そうなんだよ。
「それに、未悠さんが僕のこと好きだなんてわけないから」
「そんなわけあるか!」
竹田の絶叫に思わず耳を抑える。
「そんなわけあるか! なら俺はどういう認識なんだよ! 道端の石ころ以下になるぞ! 流石にそれはないだろ!」
「うるさいうるさいうるさい! 何も知らないくせに、当の本人じゃないくせに、知ったように口を利くな!」
「だとしても!」
うるさいよ、黙ってくれよ。僕の話を聞いてくれよ。僕がそれでいいって言ってるんだ。いいとは言ってないけどこのままで構わないんだ。なら傷つかなくていいじゃないか。
「だとしてもなんだよ! そんなこと関係ないだろうが! 俺は深草さんが俺のことを好きだろうがどうだろうが付き合いたいって思ってるぞ! 本人の意思の問題じゃない! 俺がそう思ってるんだ! それで伏見! お前自身はどうなんだよ! お前自身は未悠さんのことどう思ってんだよ!」
「うるさい!」
うるさいうるさいうるさい。このままでいいじゃないか。傷つかずに済むなら。何も知らないなら放っておいてくれよ。
「好きなんじゃないのか! 恋人にしたいと思ったことはないのか! 言えよ伏見悠杜!」
「違う!」
「違わない! 答えろ伏見! 深草さんの笑顔が好きか!? 恋人みたいって言われて一度でもドキッとしたか!? 自分が大変な時に誰のことを思い出した!?」
それは……。ないわけじゃない。でも。
「深草さんのことをもっと知りたいと思わなかったか!? エッチな妄想もできないだろ!? 深草さんのためならどんなことでもできるって思わなかったか!? 自称婚約者が現れてちょっとでも嫉妬しなかったか!? 答えろ伏見!」
……やめてくれ。頭が割れそうなんだ。
「全部当てはまるだろうが! 教えてやるよ、それが恋ってことなんだ! 誰かを好きになってことなんだよ!」
……それが、恋?
「自分の気持ちに嘘吐くんじゃねえよ! お前は深草さんのことが好きなんだろうが! だったらとる行動は1つしかないだろうが」
この僕が、恋?
そんなわけない。だって僕だよ? 従姉のことが好きで、もう2度と恋はしないって誓ったのに。誰かを好きになんてなりたくないって思ったのに。未悠さんのことが好きなんてありえない。未悠さんに恋するなんて、そんなわけ、ない、よね?
「そんなわけ」
殴られた。
「お前の顔は正直だぞ。どう見たって恋をしている目をしている。それに聞いたぞ。深草さんのために起業しようとしたとか、でも一緒にいるために諦めたとか。そこまで大変なことをして助けたいって思ったんだろ。いい加減嘘を吐くのはやめろ。お前は深草さんのことが好きなんだ」
「僕が、未悠さんのことが好き?」
「そうだ」
え、だって、だって。僕は……。
あれ、言い訳が思い浮かばないや。どうして?
「本当に、そうなのかな」
「誰かを好きになるとことに何を恥じる必要がある。ほら、行ってこい。お前なら応援してやる」
「でも、僕は何をすれば……」
「そんなの、やることは決まってるだろ?」
「そっか、そうだよね。それから」
殴り返した。スカッとした。
「竹田。今殴ったけど、感謝はしてるから」
そうだ。ようやくわかったんだ。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
未悠さんのために何かしてあげたい。そのためなら、何でもする。リスクとか、そういう問題じゃなく、何でも。
そう。
僕は、未悠さんのことが
好きだったんだ。
ようやく、悠杜君が未悠さんの気持ちに気づきましたね。ここまで長かった(1年以上かかりました)。
とはいっても、悠杜君はツンデレなので。それはもう、弩がつくくらいのツンデレなので、ハッピーエンドまではまだまだ時間がかかります(さっさとしろという私個人の感情は置いておいて)。具体的には、この小説が完結するのは作中時間での3月です。それまでに当たって残りは2章を予定しています。
ただこれから若干シリアス成分が出てくるので、その分はあとがきなどで補って行けたらなあと思います。
あ、それから、この章はもう少し続きます。体育祭は終わってないので。
作者としては10月中に体育祭は終わらせるつもりです。
それでは今後とも、『学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!』をよろしくお願いします。
(あとがきが思い浮かばなかったとかじゃないです。断じてないです)
 




