最終手段まで使いたくない
短めです
計画を凍結すると決めてから、大分時間にゆとりができた気がする。いや、体育祭に向けてそれなりにトレーニングはしてるし、生徒会の仕事も庶務として真面目にこなしてるんだけどね。
ただそれでも頭を別のことに割けるようになった。パソコンで言うところのメモリに余裕ができた感じか。
で、それを何に向けようかというと、それはやっぱり二条のことであって、今一番手っ取り早いのは騎馬戦で確実に勝ちを拾うのは簡単だろうなあとは思いついた。いや、加乃先輩の策だけど。
「まあ、私がいる限り未悠ちゃんによからぬことはさせないけどね」
加乃先輩が言う。今はお昼時、食堂に人もたくさんいる中で、秘密事をするのは得策ではないか。
ちなみに今日のお弁当は僕作だ。昨日の晩カボチャのサラダを作り過ぎたのでアレンジしてみた。なかなかによくできている。というか、昨日の時点で作りたいものがあるって4人にメールしたから全員同じだ。まだ余ってる。
「でも、加乃先輩無茶してませんか?」
「ほへ? してないよ?」
小賢しい仕草はやめてください。今更そんなことされても加乃先輩の凶悪さはよく知ってます。
「間違えました。無理してませんか? その、対策でちょっと嫌だなって思ったりとか」
「んー、まあ、ないことはないかな。でもそれって仕方ないことだし、やっぱり楽しいからやってるわけだし」
それならいいんだけど。どうも最近の自分は疑り深い。
「未悠さんも、いやな思いとかしてないですか?」
「私も大丈夫。それに、みんなが頑張ってくれてるのは知ってるしね」
それに、と付け足したのが気になった。まるで、だから私も頑張らないとと言ってるみたいで。
何かしたらいいのはわかってる。でも何をすればいいかわからない。いや、二条をコテンパンにできればいいんだけど、リスクを考えると割に合わないと思ってしまう。
「というわけで、悠杜君、私と付き合わない?」
「却下です。というか、流れも何もかも無茶苦茶です」
「いや、今なら流れで頷くんじゃないかって」
「しません!」
そう言うと、未悠さんがちょっと笑った。つられて笑顔が出る。
これでいいんだ。みんな笑っているし。胸のつっかえも下りたし。だけど、いつの間にか二条に対して黒い矛先を向けそうだ。
「そう言えば、体育祭2日後だけど、準備は大丈夫?」
「まあ、一応」
加乃先輩が話題を変える。やってますよ、加乃先輩に指示された量の60%だけど。
「それじゃあ、可憐な美少女加乃ちゃんが必勝法を教えてあげよう」
「それはありがたいです。美少女なのは認めるとして自分で言っちゃうのはどうかとしても」
「体格的に、悠杜君は有利な方だ。リーチの長さが勝敗のカギだし、悠杜君は旗手役の割には大柄な方だしね」
それは暗に僕が小柄だと言っているな。まあ否定はしないが。でも胴長短足ではない。
「ただ、リーチが上の相手もいるだろう。特に、二条利頼は騎手だと聞いている。そんな時は、リーチを長くすることを考えればいい。バレーボールはどうやってネットの上から打つとおもう?」
「なるほど、わかりました」
加乃先輩が言わんとすることはわかった。確かに、それなら目標の首、つまり帽子を取ることができる。
「ちなみにこれは、私の中学で実際にあったんだよね。いやあ、なかなかに見ごたえあったよ」
「いや、その一言で済ませちゃダメだと思う」
それやった場合自分も失格になるだろうが。まさに捨て身の一撃じゃないか。
「まあ、そういうことだからいろいろ考えておきたまえ。若人よ」
「いや、2歳も違わない……」
この人はちゃらんぽらんに見えてその実結構いろんなことを教えてくれるからたちが悪い。情報の取捨選択の必要があるから。
ただ、それでも。負けた時のリスクを考えると、それは最終手段まで使いたくない。そう思ってしまう。勝ったところで得られるものは、手っ取り早く手に入れられるというそれだけなのだから。
作者「次回予告するよ! 久しぶりに黒幕さんどうぞ」
黒幕「黒幕です。なんか思い通りに進んでない黒幕です。それはともかく、次回、竹田君が珍しく活躍します! それと章タイトルも」
竹田「やった、ようやく俺の時代が来る!」
作者「次回、竹田靖行、最後の見せ場到来! お楽しみに」
竹田「……ゑ?」




