宣戦布告、なのかな?
何か『皇帝』の二条君に対策をする、ということしか決まっていない。だけど、そんな中でいつも通り僕はシャルロットのバイトに勤しんでいた。だって、何をすればいいかわからないから。対策と言っても別に何かができるわけもなく。
土曜日はいつも通り未悠さんがやって来た。フクロウたちもすっかり未悠さんになついている。ソフィアとか足音がしただけでざわめき始めるもんね。やっぱり、フクロウ好きに悪い人はいないか。いつもみたいにおしゃべりして、宿題を少しして。すぐそこまで隕石が迫っても僕らは何も気づかないふりをした。
だけど、ふりをしていただけで、本当はわかっていたんだ。すぐそこにあることくらい。
それは翌日の朝早くにやって来た。
カランカラン
シャルロットの鐘がなって人が入って来た。
「あ、私が行くよ。悠杜君はここでいい」
千秋さんがバックヤードから出ていく。だけど、少し不穏な空気だ。
「あ、ちょっと君!」
十条さんの制止も聞かずネットをめくってこちらへずんずんと歩いてくる。フクロウたちが警戒してばっさばっさと飛び上がった。
「お前が、伏見悠杜だな」
二条利頼だった。
……というか何の用だ。傲慢っぽいしあんまり関わり合いにもなりたくないし、フクロウたちのパニックを沈めないと。羽を怪我されたら困る。どうやら招かれざる客みたいだし。
「君の話は聞いてる。未悠さんをたぶらか……、っておい!?」
「静かにしてください。フクロウたちが混乱します」
というかここはフクロウカフェだ。はっきり言ってうるさいのは迷惑である。ちょっかい掛けてくると千秋さんに追い出されるよ。
「俺の話を聞いてるのか? というか聞け!」
「はいはい。注文なら後で取りますからどうぞ。それから早くコースを決めて店員の注意にしたがってくださいね」
というか、知り合いというのも変な話だし。ただのフクロウカフェの店員と客かもしれない何かだ。ちなみにフクロウは怖がっている。
「そういうことを言ってない!」
「静かにしてください。それからコースをどうぞ」
千秋さんが冷たい視線を向ける。それに怯んだのか、二条が一瞬びくっとした。
「今日はこいつに話があって来た。すぐに出ていく。それでだ、俺がお前に要求することは一つ。俺の未悠から手を引け」
「それよりコースを決めてください。それからフクロウたちのパニックを鎮めたいので出来ることなら近づかないでください。それからお断りです」
こういう俺様タイプは人の話を聞かないから苦手なんだよな。まあ、ここは千秋さんの庭だから多少強くは出られるかな。
「聞いているのか」
「聞いていますよ。ですから早くコースを」
「だから」
ダン、と机を叩く音がしてフクロウたちが飛び立つ。あーあ。千秋さん怒りモード2だ。ここまでを見たのは久しぶりな気がする。
「えっと、30分のコースで」
「600円になります」
本当はそんなコースないんだけどね。しかも、千秋さんが先払いを宣言してるし。たぶんワンドリンクなしでこの値段なのだろうなーと。
「よし、悠杜君。聞くだけ聞いてあげな」
「そういうわけだ。だから、深草未悠から手を引け」
何がそういうわけだ。脈絡がなさすぎる。たぶん自分の頭の中で全部完結してるんだろうなーとおもいつつ。
「お断りします」
振り返ることなく答えた。ほら、アル。落ち着きなって。大丈夫、僕も千秋さんも危害を加えたりしないからさ。
「な、何を!?」
「とりあえず、何の説明もないのに要求が通るわけないじゃないですか」
それより、イリーナが不安がって木箱の中から出て来ないや。大丈夫だよー、出ておいで。
「俺はその、未悠が好きだ。だから、未悠から離れろ」
「嫌です。というか、僕にまったくメリットないじゃないですか」
傍から見たら、僕が未悠さんをたぶらかしているみたいに見える、のはこいつだけだろう。というか、フクロウと生徒会とあといろいろつながりがある中で離れられるわけがないのに。こいつは馬鹿か?
「それは、その。うちの会社にコネを作ってやる。それから、どうだ。未悠の父親の立場を保証してやるぞ」
「はあ、なるほど」
びっくりするほどメリット少ない。こいつは馬鹿なのか? あるいは選民思想で凝り固まってしまったのか? そう思えるくらいおかしな話だ。というか僕心理学勉強したいし、スクールカウンセラーとかいいなって思ってるから二条の会社に就職するとも思えない。
「それから、そうだ。生徒会が面倒だという話だったな。俺が肩代わりしてやる」
それは、ちょっと魅力的だけど、途中で投げ出したくはないし、こいつに任せる気はしないんだよね。
「どうだ、魅力的だろ」
「そうですね。でも却下です」
というか、そもそも最初からこいつの要求を聞くつもりはないし。
「なぜだ!」
「だって、それ受けてもあんまり意味ないですし。それに、未悠さん自身があなたのことあんまり得意にはしてないみたいでしたから。よしんばよかったとしても、未悠さんは優しいから、自分の目的のために相手を排除してまで近づこうとする人は好きじゃないと思いますよ。それを言ってないだけで」
こいつには、竹田みたいなお調子者的な悪意を感じない。言うなれば、ドロドロした悪意だ。決して水みたいな悪意じゃない。
「なら俺と勝負しろ! 勝負したら」
「それ、僕に受けるメリットないですよね。それじゃあ」
それより、さっきの混乱でパニック状態になっているフクロウを落ち着かせないと。
「おい、待て」
「これ以上、うちの店員とフクロウに迷惑をかけるなら、いくら従弟だって言っても追い出すよ」
千秋さんが冷たい視線を向ける。つかまれていた腕を引きはがした。
「それと、もうそろそろ30分立つよ。お客じゃないなら帰ってくれない?」
「くそ、また来る」
「もう来ないで。ここはフクロウたちがいるから」
ここまで冷たい千秋さんは初めて見た。不良に絡まれていた時よりも冷たい。たぶん、フクロウたちが怯えているからなんだろうな。
千秋さんに怯えるようにして二条は出ていった。しかし、従兄弟だとは知らなかったな。やっぱりその辺りに逆らえない理由があるのだろうか。
「彼、何をしに来たんでしょうか?」
「さあ。ともかく、フクロウたちを落ち着かせて準備をしないとね」
宣戦布告、なのかな?
作者「当て馬君の性格が安定しない」
当て馬「ptrjsmsもえsちぃmそ」
加乃「確かに、壊れてるね」
当て馬「壊したのお前だろうが!」
加乃「てへ」
加乃「それはともかく、次でようやく主人公復帰だよ!」
作者「いや、主人公ちゃうから」




