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罪悪感は消えそうもない

「そういうわけで、兄さんには起業してもらおうと思います」


 は?


 いきなり京香さんにそんなことを言われてもわけがわからない。いや、いきなりじゃないんだけどどういう思考回路をたどればそんな結論が出るのか、そこのところ懇切丁寧に説明していただきたい。いや、説明されたとしてわかんないんだけど。

「つまり、義父さまが部長からの要請を断れないのは一重に圧力があるせいです。会社内で、社長の御曹司ですからね。くびにでもなれば大変です。そこで、兄さんには同じだけの力をつけてもらいます。とは言いましてもベンチャー企業になるでしょうが。カードは多い方がいいですからね」

「ちょっ、ちょっと待って!」

 え、いきなり何言いだすのさ。というか頭が考えることを拒否してるよ。

「それは、僕に、新しい会社を作れと? そんなことを言ってるの?」

「最初からそう言っています。もっとも、流石にいきなりというのは酷なので最初の内はお飾りで、後々仕事を任せていきます。なに、なれれば簡単な話ですよ」

「簡単な話じゃないから!」

 そりゃ、天才なら可能かもしれないけど、僕は凡才だから。そんな責任多い仕事押し付けられても困るだけだから。

「というか、未悠さんも何か言ってくださいよ。僕無理ですって」

「あ、ごめん、ボケッとしてた」

「それに、相手はもう攻勢を打っているのです。こちらも何か手を打たなければ、本当に婚約してしまいますよ」

「それはちょっと……。でも」

 グイっと京香さんに顔を持っていかれる。

「お姉さまはああは言っていますが、優しい方です。いざ、向こうが最強のカードを切って来たときは自分を犠牲にするような人ですから。そうはなりたくないでしょう?」

「それは! 僕だってそうだけど」

 未悠さんがあのイケメン君のことを好きなら問題ないんだ。ただ、僕がちょっともやっとするだけで。でも、全然そうは見えなかった。まるで、入学したてのような、つまらなそうな顔をしていた。それがだめだってのは僕にもわかっていた。

「それに、心のどこかで強がってはいますが、誰か王子様に助けて欲しい。そう思っているでしょうね」

「それは」

 僕に王子になれとでもいうのか。せいぜいが森の中にいる魔女役くらいしかできないのに。

「助けて、あげてください」

「ごめん、もうちょっと、考えさせてくれ」

 走って逃げた。

 いつの間にか、背負うものがどんどん増えていて。なんとかなるのかもしれないけど、度胸がなかった。それに、心のどこかで、僕じゃない誰かがって、そう思っていた。誰か、別の人が。

 だけど、僕以外、例えば竹田とかが隣にいるのは、なぜか釈然としなかった。


 自分が何をしたいのか、わからなくなってしまったんだ。




 走ったおかげでいつもより一本早い電車に乗り合わせて、未悠さん達とは鉢合わせせずに済んだ。教室に入ってからは京香さんも話しかけてこなかったし。ただ、未悠さんの表情が少しさえないんだ。


「朝の件はとりあえず置いておきます。でも、その前にお姉さまを正気に戻してはもらえませんか」

 昼休みに京香さんから話を持ち掛けられる。

「その、不本意ながら私は愛想がありませんし、出来ないのです。占いでもして、話を合わせてくれたら、その、どれだけ助けになるかと」

 顔が赤くなってるのもわかった。でもそれだけ、どうにかしたいって思ってるんだってことも。僕だって、笑顔を見せてもらった方がいい。

「わかった」

 なぜか、最初の席替えからずっと隣の席ではあるものの、その前の席まで歩いて座った。無断で借りてごめん。

「だいぶ前なんだけどさ、こんなの見つけたんだ。今まで下ろしてなかったんだけど」

 胸ポケットからタロットカードを取り出す。通販で見かけた新品だ。

「これ、見てよ」

「あ、ごめん。で、このタロットカードって」

「そう、フクロウタロット。フクロウ好きだし、こういうのいいんじゃないかって」

「かわいいよね。フクロウ」

 図柄を眺めている目が、どことなく虚ろに見えた。

「それじゃあ、行くぞ。ちょっと貸してくれ」

 もう、慣れた手つきでタロットをシャッフルする。新品だから少し痛い。

 そして出たカードは正位置の『月』だった。

「これは?」

「正位置の『月』、意味は、好転とか、漠然とした希望とか。今は運勢が悪くても、いい方向に向かって行く。だから、希望を持とう。そういうことだよ。大丈夫、僕が保証する」

「ありがとう。ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」

 急に未悠さんが席を立つ。そして引き留める間もなく教室を出ていってしまった。だけど、胸がチクリと痛む。ため息が出た。

 様子を見に行った京香さんがほっとした様子を見てる。

「少しですが、うれしそうな顔をしていましたよ。完全回復とはいきませんが、快方には向かっていると思います」

 泣かせてしまったわけじゃなくてよかった。そう思う。だけど。

「嘘なんだ」

「え?」

「だから、嘘なんだ。結果が。意味は、『月』の逆位置。本当は悪い運勢なんだ」

 吐露する。悲しい顔が見たくなくて、嘘を吐いた。『月』の正位置は不安定、現実逃避、踏んだり蹴ったり、トラウマと言った、ネガティブな意味だ。

 占いで悪意ある嘘を吐いたのは初めてだった。それも、吐こうと思ったんじゃなくて、いつの間にか出ていた。何をやっているんだろう。

「大丈夫です。優しい嘘は罪にはなりませんよ」

 そうだといい。だけど、この心に突き刺さった罪悪感は消えそうもない。




「悠杜君、ちょっと借りるね」

「え、わ、先輩!? 今掃除中です!」

「いいからいいから」

 加乃先輩に首根っこをつかまれる。掃除中に、僕を呼び出してどうする気なんですか。

「相手が攻めて来たよ。今日、二条利頼が転校してきた。しかも、噂によると勉強も運動もトップクラスらしい。君はどうする?」

「僕は……」

 本当は、少し分かっていた。僕は。

「覚悟を決める時が来たんじゃないかな」

 ぎくりとする。そうだ。いつかは、決めなくちゃいけない。それを、見て見ぬふりをしてきた。

「いい返事を期待してるよ、それじゃあね」

 風のように去っていく樟葉加乃先輩。僕は、つかまれた右手を見つめた。

加乃「っていううわけで加乃ちゃん大活躍です」

悠杜「いや、自分で言うなよ……」

加乃「ちなみにこの後、悠杜君が未悠ちゃんを体育倉庫に呼び出しうわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp」

悠杜「やめろー! (加乃の口をふさぐ)」


作者「完結してもその予定はないから」

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