イタリアンはもう嫌だ!
「あの、三希さん、なんで僕が音頭を取ることになってるのかな」
「いやだって、店長だし」
「実行委員長ってだけだからね!」
そうだよ、僕へ別に店長じゃないし、よく考えれば責任者でも何でもないじゃないか。ただの生徒、ちょっぴり付け足すなら生徒会庶務っていうだけだ。というか、この店を予約したのは三希さんだし。
学校からそう遠くないショッピングセンターの近くにあるイタリアンレストランが立食形式で大勢のお客様向けのサービスをやっているらしく、文化祭の大分前から計画していたらしい。ちなみに知らされたのは初日だ。
「まあ、いいでしょ。せっかくなんだから打ち上げ楽しもうよ」
「僕、一応生徒会で止める側の人間なんだけど」
「こういうのは楽しんだ方が勝ち。ねえ、京香ちゃん」
「はい、ちゃんと黙っておきます」
本来、打ち上げはクラス単位ではやってはならないことになっているのだが、ほとんどが守らない。なので、出来るだけ見つからないように気をつけましょうと加乃先輩から助言を受けた。あの人何やってるんだ。
「みんなー、料理持ってきてくれたよー」
まずはサラダが運ばれてくる。いくらなんでも多すぎるんじゃないだろうか。空になったジュースの紙コップを持って飲み物を飲んでいるふりをする。人込みは苦手だ。
「ところで、兄さん、お姉さまの対策ですが」
「きーこーえーなーい、聞こえない! 僕ちょっとサラダ取ってくるね」
嫌だ。現実世界は嫌だよ。僕はもっとちゃんとした学校生活が送りたかったはずなんだ。ある日突然美少女に見初められて、学園を巻き込む一大陰謀に巻き込まれて、そしてそれを打開するべく策を練るなんて、こんなのは現実じゃないはずだ。加乃先輩のからかい程度で勘弁してくれ。
「次の料理来たよ、パスタだってさ!」
よし、少食な僕だが、今日は食べようと思う。なに、夕食を食べなければいいだけだ。
え、現実逃避じゃないかって? して悪いかよ! というか、こんなのきれいさっぱり忘れて騒いだっていいと思う。だってせっかくの文化祭だもんな。僕は頑張ったんだし、打ち上げで、騒いだっていいくらいだ。
「よし、男、馬堀、行きます」
突然男子がマイクを持って叫ぶ。何かが始まりそうだ。いいぞもっとやれという声が聞こえてきて、僕もそれに乗った。馬堀君が叫ぶ。
「澪! 好きだ! 付き合ってくれ」
おお、公開告白か。少し恥ずかしいが、見ている分には楽しい。そうだよね、やっぱり恋愛はするものじゃないと思うんだ。
調子に乗ったクラスのおかげで澪と呼ばれた女子生徒までマイクが回る。その少女は少し照れた具合で言った。
「私も好きです」
「よっしゃー!」
馬堀君が叫ぶ。そこにおめでとう、だの爆発しろーだのやんややんやの大喝采だ。え、僕ですか? 流石に爆発しろなんて言うわけないじゃないですか。
「よっしゃー、俺も続くぞ!」
そして竹田がマイクを握る。なるほど、爆発するといいかも。というか99割失敗だと思ってる。
「委員長、好きです、付き合ってください!」
「ごめんね、無理です」
委員長はすぐ近くにいたのかマイクが回る。喜ぶ男子、崩れ落ちる竹田。まあ、三枚目だしね。
「せめて、理由だけでも」
「えー、まあ、いいけど。私、好きな人いるから」
おお、とどよめく観衆。男子は質問攻めにして、女子はひそひそとうわさ話。でも僕は大谷君が期待半分不安半分の顔をしたのは見抜いたぞ。
「おーい、お前ら。メインディッシュのピザが来たぞ!」
再びどよめき。コイバナと食欲はなんとやらだ。僕も、ピザはそこそこ好きだ。あ、でもその前にサラダを食べきっちゃおう。それくらいはできる残り量だ。
「店員さん、お皿持っていってください」
それから飲み物のお代わりももらおう。そう思って人込みから少し離れた時だった。
「ようやく、話ができますね」
「僕ドリンクバーに来ただけだから!」
逃げるように京香さんから離れる。いや実際逃げてるんだけど。
「待ってください。話が]
「そんなの後でいいじゃん、ペペロンチーノなくなっちゃうし」
途中、未悠さんに頼まれて運ばれてきたライスボールを取ったりだとか、竹田にお前も告白しろとか言われながら人込みをかき分けていく。が、お皿に残っていたのはオリーブオイルと大量の鷹の爪、オリーブの実と少量の麺だけだった。
これ、ひょっとしてアヒージョなんじゃないだろうか。そう疑念を抱くくらい。いや、ここはスペインじゃなくイタリアだ。日本だけど。
覚悟して食べた味はすごくしつこくて、当分はアヒージョと唐辛子が嫌になりました。
「ようやく打ち上げも終わりましたし、打ち合わせと行きましょうか」
「ごめんちょっと食べ過ぎた。気持ち悪いし後にして……」
京香さんと未悠さん、それから三希さんと拓都君と彩里ちゃん。一緒にいるのはこのメンバーだ。竹田は気まずくて帰った。
「ごめん、食べ過ぎで吐きそう」
「大丈夫? いっそのこと楽になっちゃう?」
「三希さん、俺も食べ過ぎた」
後先考えずに現実逃避してたら食べ過ぎたんだよね。今は苦しくて何も考えられない。ちなみに拓都君は三希さんに良いところを見せようと馬鹿食いしたらしい。デザートはそれぞれ未悠さんと三希さんに進呈させていただきました。ああ苦しい。
「ごめん、もう無理、トイレ」
「そうか、待ってる。俺は大丈夫だと思う」
同じ思いを分かち合ったもの同士視線をかわしあう。本意ではないが仕方ないよね、苦しいし。というか、イタリアンってどうしてこうも似たような味ばっかりになるかな。トマトとオリーブだけじゃ流石に飽きるって! イタリアンはもう嫌だ!
ついでに言うと食べ過ぎで翌日寝込みました。
悠杜「……(イタリアンの食べ過ぎで言葉が出ない)」
京香「……(悠杜に呆れて言葉が出ない)」
竹田「……(失恋したショック)」
作者「……(ペペロンチーノのオイル部分だけ残るのってマジできついって)」
加乃「……(完食主義者・食べ過ぎ)
悠杜「なんであんたたちがここにいる!」




