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学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!  作者: 蒼原凉
どうして義妹(姉)ができるんだ!
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閑話 大谷拓都の野望 9

「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」

「というかいいかげんにしてください。日が暮れます」

 樟葉先輩がそう告げたのは、もう陽がだいぶ傾いてきたころだった。いくら夏だとは言え、遊び過ぎだと思う。ここから家に帰らないといけないのに。ちなみに俺はもうとっくに水着から着替えていた。泳がないのなら肌が痛いだけだもん。ちなみに最後まで遊んでいたのは、例の人と水無瀬さんの小学生組だった。無尽蔵な体力って恐ろしい。

「ごめんごめん、すぐ着替えてくるから、かき氷でも食べといて」

 そう言って更衣室に去っていった樟葉先輩だが、かき氷食べられるのはあの人くらいのものだろう。主に体力とお財布の中身的な意味で。

 ちなみに伏見は爆睡している。帰るときは起こさないとな。坂本さんは相変わらず口をきいてはくれなくて、木野さんはカメラのチェックに忙しい。深草さんと山科さんは、あ、いた。かき氷食べてた。すごいな。俺はバスケで体力だけはあるのか貧乏くじを引かされた気がする。

 そのままボーとして樟葉先輩を待つ。あーあ、本来の予定なら、坂本さんに告白しようかとも考えてたけど、この雰囲気じゃそれもできそうにない。例の人にからかわれるというのを抜きにしても、口をきいてくれない状況で告白なんてどうかしている。まあ、それを口走っちゃったのは俺なんだけどさ。

「ごめんね、私たち、邪魔だったかな」

「いえ、いいですよ。俺のせいですし」

 深草さんが気になったのか、俺に声をかけてくる。自己嫌悪に陥ってる状態で声なんかかけてこないでくれ。

「お待たせ―、なんかお土産買って帰る?」

「どこ見てそれを言ってるんですか! この惨状自覚してください!」

「あははー、ごめんね。それじゃあ、葵ちゃんと選んでくるわ」

 それだけ言って台風は去っていった。ああ、また精神がガリガリと削られていく。

「伏見ー、そろそろ起きろ! 帰るぞ」

「あ、はい。ふわぁぁぁ」

 寝ぼけた伏見を起こすと大あくびをした。帰るまで乗り換え結構あるけど大丈夫かな、これ。

「それじゃあ、みんな大丈夫?」

「一応大丈夫みたいです」

「それじゃあ、駅へ向かってレッツゴー」

「オー」

 本当にあの2人はどっから体力湧き出してるんだろうな。プリウスでも搭載してるのか。

「大谷君は楽しめた?」

「俺が楽しんでたように見えました?」

 むしろ心労で余計に疲れたんですけど。明日は夕方まで寝て過ごすことになりそうだ。絶対。

「あはは、私は楽しかったよー」

「そりゃ何よりで」

 そしてどうやら俺はこのはた迷惑な先輩にロックオンされたらしい。生贄いないし。

「楽しかったし、また行こうね?」

「二度と来るな!」

 もうこんなに疲れる海水浴はこりごりだ!

 

 

 

「限界まで遊びつくすって、小学生ですか」

「疲れてたんでしょうね」

 電車で座って早速寝息を立て始めた樟葉先輩と水無瀬さんを見て、俺は溜息を洩らした。いや、乗換駅まで持っただけでも僥倖というべきか。ちなみに伏見は乗換駅まで持たず、木野さんはなんか怖い。深草さんは伏見の横に座って窓の外を眺めていた。山科さんはわからん。

 そういうわけで、俺は坂本さんのはす向かいに座っていた。この様子を見ると、起きているのは山科さんを除けば俺と坂本さんの2人きりみたいだ。

「あの」

「えっと」

 いじっていたスマホから坂本さんが顔をあげる。

「今朝は、その、すいませんでした。その、えっと、変なこと言って」

「そう」

 坂本さんはそれしか返してこなかった。

 えっと、あれ、言葉がこんがらがって上手く出て来ない。

「あの、俺が言いたかったのは、その、坂本さんのことが嫌いってわけじゃなくて、その、なんていうか」

「いいよ、私のこと、気軽に遊べる友達だって思ってるんじゃない?」

「そんなことないです!」

 気づけば俺は叫んでいた。あ、ここ車内だ。

「あ、すいません。でも、三希さんは、一緒にいて楽しいですし、すごく魅力的です。その、異性として」

 その言葉を聞いて三希さんが顔を赤らめる。うわ、俺もなんか恥ずかしくなってきた。

「三希さんは、その、すごくかわいいと思うし、恋愛対象として、その、好きなんです」

 そうは言いつつも、それより先の台詞が出て来ないあたり、ヘタレらしいと思ってしまう。

「でも、深草さんだっているんだよ? なんで私が」

「俺は、深草さんより三希さんの方が好きです。その、初日に俺を誘ってくれたこととか、すごく感謝してます」

「あ、ありがとう」

 三希さんは頬を赤らめてしまった。樟葉先輩も寝ちゃってるし、完全に俺のペースだ、もう少しだ、頑張れ拓都。告白までこぎつけろ!

「あ、あの」

 だめだ、やっぱり恥ずかしすぎる。それに、なんか怖い。

「文化祭明けに、バスケの新人戦があるんです。そこに、俺出るんで。応援に来てもらえませんか?」

「え? あ、はい!」

 だめだ、肝心なところでヘタレてしまった俺の馬鹿!

「あと、三希さんって、名前で呼んでも、いいでしょうか」

 消え入るような声になってしまった。それでも、三希さんは答えてくれた。

「はい、よろしくお願いしますね、拓都君」

 最後の最後でヘタレたし、途中ちょっと雲行きが怪しくなったこともあったけど、三希さんと下の名前で呼び合える仲になったし、距離も縮められた気がする。いろいろと疲れて大変だったけど、それだけは収穫になった、そんな気がした。

頑張れ拓都君!

でも、本編が終わるまでこの2人が結ばれることもないという、少しかわいそうな気もする。

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