学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!
突然だけど、僕のクラスには美少女がいる。
学年一、いや、学校一といっても過言ではないくらいの美少女だ。黒真珠のようなつぶらな瞳に、くっきりとした二重まぶた。整った顔立ちに、薄いピンク色をした口元がよく似合う。肩辺りまで伸びた黒い髪はとてもつやつやしてきっとサラサラなんだろう。成績もよく、たしか入学時の挨拶を務めたのは彼女だったはずだ。容姿端麗、成績優秀、品行方正と三拍子そろったまさに完璧人間だ。まあ、正直に言って同じくらいの美人の人ならいるのかもしれないけど、彼女は何かが違う。オーラ、とでもいうのだろうか。生まれ持って人を引き寄せるような、そんな力がある。タロットカードにたとえるなら、『女帝』、いや『女教皇』といったところか。
そんなわけだが、当然モテる。いやね、モテなかったら嘘でしょう、たぶん。クラス学年先輩後輩異性同性問わずモテる。いや、同性はこの際問題になるか。
告白された回数は両手の指で収まりきらず、すべてばっさり断っているとか。サッカー部のエースとか、バレーボール部のキャプテンとか、大企業の御曹司の大学生とか、野球部の美人マネージャーとかが振られたらしい。いや、最後の何。
まあ、同性愛疑惑はこの際置いとくとして(置いといていい話でもないんだけど)、ともかく彼女はモテる。ちなみにまだ僕らが高校に入学してから一ヶ月も経ってない。それだけの短期間で噂が広がるとは、恐るべし。
断り文句はいつも同じで、『私は誰かと付き合う気はありません』だとか。そんなわけで一時期とてもうるさかった告白合戦は最近鳴りを潜めている。まあ、クラスメイトとしては騒がしくなくて嬉しい限りだ。
ついでに言うとファンクラブ的なものまであるらしく、そこが彼女にまつわるすべてを取り仕切っているとかなんとか。最近静かになったのはその組織がこの学校をひそかに掌握したなんて噂がまことしやかにささやかれている。
個人的には恋愛こそ全て、みたいなノリは苦手だから不用意に近づきたくはないと僕個人としては思ってるんだけど!
で、僕が何を言いたいのかというと、僕の席の隣の少女、『女教皇』こと深草未悠さんはそれだけ人気があるということだ。それはつまり、当然嫉妬も多いというわけで。
「伏見君、次、LL教室だけど一緒に行かない」
にもかかわらずなぜか深草さんは僕に話しかけてくる。ちなみに僕の名前は伏見悠杜である。深草さんと共通する字があるのは偶然だ、偶然。
いっせいに視線が僕に向く。というかすでに向いている。そりゃまあ、学年一の美少女の『女教皇』だもんね。仕方ない。僕としたらたまったもんじゃないけど。
「どうせ付いてくるんでしょう」
ため息を吐きながら英語の教材を取り出す。
「うん、もちろん」
深草さんが笑う。うん、かわいいけど、すごくかわいいけど。視線が痛いよ。
そしてなぜか深草さんは笑顔を見せるのは僕の前だけなのだ。それも嫉妬の一因なんだろう。なぜだ。もう一度言うがなぜだ。
「あ、俺も一緒に行っていい」
親友の竹田靖行が割り込んできた。中学時代からの友達で同じクラスになったのはこいつだけだった。現金なやつだと思うけど、でも今は歓迎だ。こいつの性格は『悪魔』かな。訳がわからない。とかいう意味を込めて。深草さん狙いなのは疑うべくもないけど。
LL教室へと向かう道すがら、深草さんが話しかけてくるのを適当に返していく。なんで好きなお菓子とか、母親の好物とか聞いてくるの。それになんで僕なんだ。
うん、違うよねそんなわけないよね。そんなわけあるはずがない。というかあったら困る。
学園一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!
17/12/9:サブタイトル間違えてた>< 訂正しました。
17/12/28:竹田のタロットを修正しました
18/10/26:1章を書き直しました