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リピート・アフター・ユー  作者: ステツイ
無人屋敷の名探偵
5/5

狐の嫁入り

投稿ペース遅くてすみません...時間が取れなくて週一が良いところかと...

夢を見ている。

これは確かに夢だ。

しかし、夢じゃないかもしれない。

見ている光景は今まで私が一度も観た事のないものなのだから。

明晰夢だろうか。

場面は中世の戦争を彷彿させる。

辺りは瓦礫がれきで埋め尽くされ、見渡す限りの焼野原。

そして、私の目の前には二人の生き残りがいる。

二人には私の存在が確認できないようだ。

淡々と流れる様子は映画を見ているかに思えた。

この状況下で唯一生き残ったのだろう。

しかし、命さながらというのが正しいのだろう。

二人への被害は少なくないようだ。


一人、ボロボロの鎧を着ている人間は膝に手を当て疲弊しきっている。

一人、綺麗なドレスを着ている人間は血だらけになり横たわっている。


「はぁ…はぁ…ここまで来れば大丈夫だろう………グレシア?」

男が紡いだ言の葉は横たわっている人に舞い落ちる。

反応が無い為、焦った表情で後ろを振り返る男性。


「グレシア!」

男は急いでもう一人の所へ駆け寄る。


「ラーク…何処にいますの?…」

女が紡いだ枯れた葉はしっかりと摘まれる。


「ここにいる!安心してくれ…!ほら、ここだ」

まるで何処へも行かせはしまいとしっかりと握る。

両の手で、彼女の手を包み込むように。


「よかったですわ・・・これで私も安心して・・・」

「ああ!ダメだ!そんな!行くな!グレシア!!目を閉じないでくれ・・・頼む・・・」

ひらり、枯葉が降りていく。

男性は女性を抱きしめる。

必死に、ぐちゃぐちゃな表情で。


「ラーク・・・仕方のない事なの。貴方あなた所為せいではないわ。そんな顔をしないで。せっかくのお顔が台無しですわ…私の大好きなお顔が」

ラークと呼ばれる男性の涙を指で拭き取り、唇にそっと口づけをする。

「ありがとう。ラーク。これからも愛していますわ」

ひらり、枯葉が地についた。


言葉に出来ない叫びが戦場をつんざ


男性は女性を見た後、笑顔になった。

私がよく見た『失った笑顔』で。


「とある地方にはこんな言葉がある。輪廻転生・・・だった筈。死者の魂はいずれ現世に還ってくるらしい。君は僕に言っただろう?『これからも愛している』と。ならば僕も返そう。『どんな姿形になろうと君を愛し続ける』と」

男は立ち上がり

「次、逢う時も、もう一度失ってでも。君の魂を追い続けよう」


腰に差していたロングソードを自身の首に当て


「 follow you. 」


紅い鮮血が私に飛びかかり、反射的に目を瞑る。

再び目を開けると、三週間ほど前から見慣れ始めた天井だった。


____________________________________________________________



天井から目線を落としてみると隣に金髪の少女が寝ていた。

あれ?いや、うん。何回見直しても寝ている。

すやすやと寝息を立て、さぞ気持ちの良さそうに寝ている。

「ええええええええええええええぇぇぇぇ???!!!」

精一杯の叫びを披露した。

しかし、彼女はまだ寝ている様子だった。


「むぅ…いったいこんな早朝からどうしたんだい?」

しまった、探偵さんを起こしてしまった。

・・・というか寝間着ねまきが囚人服を模したパジャマなのは如何いかがかと。


「すみません・・・起きたら・・・」

指でベッドを指すと探偵さんが呆れた顔をして


「また潜り込んだのか・・・あれ程、此処ここの部屋は君の部屋ではないと言っていたのに・・・」

探偵は金髪の少女へ近づき

「ハル、おはよう」

ビシッとおでこにデコピンをする。

「いったーい!」

彼女もさすがに起きた。

「痛いのは分かるが、ここで寝るなと話していなかったかい?」

うわあ、探偵さんの後ろに禍々しいオーラが・・・

「あら、ごめんなさい、いつもの癖で」

わざとらしい言い草に探偵さんはカチンときたのか珍しく怒っていた。

「全く、君はいつもそうだ。私の話を聞こうとしない。だから毎回ボイスレコーダーを用意してるんだよ。我が強いのは悪い。と、までは言わないが少し態度を改めたらどうかな。私もこんな七面倒なことは避けたいんだ。いいね?」

探偵の放つ雰囲気に私と神河さんは委縮してしまった。

「わかったわよ・・・ちっ」

あれ?最後、舌打ちしなかった?私の気のせい?


「まぁ、何はともあれ全員起床したところで本題に移ろう。二人とも着替えを済ませて書斎に来るように。私もこの格好からは着替えたいからね」

と、探偵が部屋から出たのを確認した後、私たちはテキパキと着替えを始める。

その間特に会話もしなければ、お互い干渉せず目も合わせなかった。

正直、会うのは二度目だが会話はしたことが無い。

私の推測だが、彼女はきっと探偵さんに恋心を抱いているのだろう。

でなければ、男の家に泊まりがけで、わざわざ仕事を持ち込まない。はず。

初めて会った時も小学生が好きな子にちょっかいを掛けるのと一緒だと考えれば不自然なところは無い。

うん、探偵さんと3週間も居ればさすがの私でもある程度の考察が出来る。・・・と、自負しています。


なんて頭の中で一人討論をしているとお互い着替え終わった。

彼女は先に行ってしまったようだ。

声くらいかけてくれてもいいんじゃないかな。


書斎へ着くと既に二人は話しているのか、扉から話し声が漏れている。

私は気にも留めず入っていく。

ぎぃっと扉が鳴ると、神河さんが勢いよく振り返ってきたが、探偵さんがニヤついていたのでお互い何も反応を示さない。


「さて、揃ったようだね。ハル、説明を」


淡々と説明が流れる。

流石は警視長である。説明は分かりやすく場数を踏んだ経験値が聞いていてわかる。

内容をまとめるとこうだ。


とある民家で、一家族が全員死亡していた。

しかも、川の字で。

お父さん、息子さん、お母さんの順で。

死因は、一酸化炭素中毒の症状で呼吸や心臓の動きが抑制されてしまったらしい。

それ以外の外傷は無いが、お父さんの拳から出血していたため事件性は考慮される。

しかし、警察側は自殺とみるのが早いのか、一家丸ごとを一酸化炭素で埋め尽くす犯人なんていないだろう。との事で自殺という路線で話を進めているらしい。

警視長である神河ハルが訪れたのは他殺としか思えないので白黒はっきりさせたいから。らしい。


「さて、この事件君ならどう見る?」


私は自殺と考えている。

警察側と一緒で家の中全て一酸化炭素で埋め尽くすなんて不合理的で、そんな殺人鬼がいる気がしない。

それに一番は川の字かもしれない。

川の字で綺麗に死んでいるなら自殺が一番考えやすい。


「私も自殺と考えています」


すると探偵が大きな溜息を吐き


「そうか。君はそう捉えるか。仕方のない事だ。まだ場数慣れしていないのだから」


ウンウンと自身に言い聞かせるように喋る探偵。

私もだが、この人も独り言の多いタチなのかもしれない。


「私はね他殺だと考えている。何点か上げれば自殺に見せかけたと思う理由があるんだよ」


私が探偵さんの目をジッと見つめ直すと、目を細め安い笑顔を見せた。


「例えば殺害した後に死体を動かしたら?それに不合理的だと思っているだろう部屋の一酸化炭素だが、別の部屋。そうだなトイレや風呂場なら?簡単に密室に出来るだろう」


「でも家族全員は入らないわよ?そこについてはどう推察するの?」


ハルが的確な質問をすると、探偵は目を閉じ1分程考えると


「全員を同時に殺害する通りの方が通らないんじゃあないかな?それこそ1人ずつ殺していけばいい」


「なら理由は?なぜこの家庭を態々狙ったのか」


「猟奇、愉快犯、様々だが殺したいと言う理由付けは出来ないな。犯人を特定してからでないと」


「じゃあ結局振り出しじゃない」


なんか私が反応出来ていないうちに解決しそう?


「ともあれ、現場に行って見るのが一番だな」


「そうね、準備なさい」


あれ?なんか2人とも上着を着てるけど?


「聞いていたかい?現場に行くから準備するんだよ」


あ、はい。すみません聞いてました。すぐ支度します。



現場に着くとkeep out の警告色が周りを染めている。

なのに風景は色を落としたパレットのようだ。

人の目が死んでいる。

働く人は作業と考え、遺族と思われる人は膝が崩れている。

コントラストが薄く激しい黄色が目の奥に存在を強制する。

近くに寄るだけで心が締め付けられる。


「君は現場に来る事は初めてかい?まさしく殺風景かもしれないね。何処どこもこんな感じさ。作業と作業。悲しみと哀しみ。二者が交わることは無い。交信こそ出来ても情と義理だからね」


この人には感情が無いのだろうか。

私は少し怒りを覚え探偵の方を見ると


「すまない。実は私も慣れてはいないんだ。いやもっとも、慣れてはいけないのかもしれない。人の生き死にとはそういうものだ。人は二度死ねるけど」


だからこそ、記憶から消えない限り人間の生は永久だよ。


その言葉に湿りを感じた。だからこそ探偵は帽子を深く被り直したのかもしれない。


「それじゃ行くわよ。私の後をしっかりと来るのよ。ただでさえ不審者みたいなんだから」


探偵との温度差が激しいハルさん。多分、この人なりの優しさだろう。

探偵も目を丸めていたが火は灯されたようだ。


しかし、私の心には別種の炎が宿った気がした。

何処どこか遠くで此方こちらを照らしているようだが私は何故かわからない。

わからないのである。

この感情が何なのか、わからない。

自殺した原因の気がしたが、あの日の感情は既に廃れているのだから。


中に入ると現場は綺麗だった。

確かにこれ程綺麗なら自殺を疑ってしまっても仕方ない。


「じゃあ私は此方こちらを見るから、君は自由に動きなさい。何か手懸りを掴んだら儲けだよ」


するとウインクをして奥へと消えて行く


頼むからあんまり期待させないでほしい。

あれ?なんで期待って思ったんだろう。

この人についての感情が思い出せないし思えない。

けれど何かが訴え続けているのは何処どこからか沁みてくる。


とりあえずモヤモヤしているがすべき事はするべきだ。

私は部屋を散策する事にした。




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