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リピート・アフター・ユー  作者: ステツイ
無人屋敷の名探偵
4/5

聞き込みとポイ捨て

前回からの続き。猫探しの完結。2話完結とか言うな。とりあえず、次から三部構成くらいに出来たらいいな。

探偵と街へ出向き、白猫探しを行う。

昨日の昼間も来たはずの街だが久しぶりな感覚があった。

たくさんの出来事のせいだろう。

私はそうやって自分に言い聞かせた。


「さて、何処から探し始めようか。流石に手当たり次第...ってのはナシだ。探偵らしくないだろう?」


ごもっともであるが、情報が少なく特定までは至らない。

ならば聞き込みが一番探偵らしいのだろう。


「探偵さん。聞き込みってのはどうでしょう?探偵らしいじゃないですか」


私がそう言うと探偵は困った顔をして


「ふむ...すまないがその提案には乗れないな...」


もしかして探偵なのに人見知りなのだろうか?とても致命的だ。


「あぁ。勘違いしないでくれ。別に人見知りという訳でもないのだが、元々人と話すこと自体好きじゃないんだ。いつも裏や隠されたモノを読んでしまう自分が悲しいんだ」


もっとも、君は安直で愚直だから話してても楽しいよ。

なんて、皮肉交じりにクスリと答えた。

私だって隠したいことだってあるし!

・・・隠すようなことがないけど。

って、そんな事より


「...じゃあ〜私が1人で聞き込みに行きますね。それならいいじゃないですか?その間、探偵さんはどちらへ?」


しょうがないので私だけでもと思い、聞き込みをしようと思ったが


「...いや、君だけでは不安だから私もついて行こう。聞き逃しが一番怖いからね」


なんだか信用されていないみたいで嫌な気持ちになったが、出会って1日の仲なのでしょうがないなと思い、歩みを進めた。


_____________________________________________


「・・・ご協力ありがとう。感謝する」


探偵が会釈をする。


「いえいえ...」


聞き込みをさせてもらったサラリーマンと思わしき男性がその場から立ち去る。

私はメモを書き終え探偵と目を合わせる。


「これくらいで充分じゃないですか?」


ざっと2時間程聞き込みを行い、これ以上の進展はないだろうと思ったのでいよいよ探し始めようと思った。


「あぁ。もう結構だろうーーーうぐっ?!」


初めて探偵さんの驚いた声を聞いた。

驚き?と言うか、苦しそうだ。

私は思わず後ろを振り返ると


「探しましたよ!探偵さん!」


小さなスーツの女の子が探偵さんの首からぶら下がっていた。


「ゴホッ...ハ...ハル。絞まってる...ゴホッ!」


だんだんと顔色の悪くなる探偵。

それを見て喜ぶ少女。

慌てふためく私。

三者三様の光景に道行く人は怪訝な顔をしていた。


「そろそろだね!」


少女はやっと手を離すと探偵さんが死にかけていた。


「ゴホッゴホッ...彼女は神河ハル...こう見えて三十路ゴフッ!」


多分探偵さんはこの少女の事を説明してくれていたのだが途中で腹を殴られていた。

何か触れてはいけないものに触れたのかも知らない。


「そう!あたしの名前は神河ハル!ハル様って呼びなさい!」


少女は金髪のセミロングでスーツを着ている。

ビシッと着こなされていて普段から着ていることがわかる。


「ハル...もういいだろう。今朝電話で話していただろう?」


あ、今朝の電話相手は彼女だったのか。


「ふん!別にいいわ。あたしには関係ないもの!」


随分と高圧的な態度に臆している私。

昔からこんな感じの人達を避けて生きていたので対応に困ってしまう。


「わかったから...ハル。いい加減にしないと、二度と手伝わないよ?」


探偵さんが怒気を含んだ声で言うと


「むぅ〜...ふん!わかったわよ。今回は引いてあげる。だけど次会ったら現場に直行だからね!」


コツコツとハイヒールを鳴らして帰っていった。


「すまないね。驚いただろう?」


まぁ、色々と。

でも、ここ2日で驚く事が多すぎてそこまでは...

しかし、彼女と彼の関係性はなんだろうか。


「君の気になっている事を当てようか」


ポンポンと帽子を叩き、砂を落とし被り直す。


「彼女はああ見えて警察の方なんだ。しかも僕より年上ッ痛っ!」


コツーン!と小石が飛んできていた。

声は届かないが、ハルさんが石を投げつけ激昂している事がわかった。


「んん!もう理解したと思うが、彼女は僕に情報提供し、僕は彼女に結論を言い渡す。そんな関係だよ」


それ以下もそれ以上もないと付け加える。

あ、また石投げてきた。


「痛い!!」


クリーンヒットして後頭部のど真ん中。

探偵さんは鈍臭いのだろうか?

いや、私も後ろから石を投げられれば躱す事は出来ないが。


_____________________________________________



「情報によると、一番最近に目撃したのはここら辺との事だ」


私達は目撃情報を元に探し続けて最後のポイントとなった。

何故、一番最初に来なかったのかと聞いたが

やはり、戻ってくるのが定石だからね。

らしい。

いや、それって犯人とかの定石じゃないですか?猫も同じなんですかね。

少しだけ探偵さんの捜査を疑っていると


「君は勘違いをしているよ。私の担当はあくまで人間。動物は対象外なんだ。意思疎通が出来ても細かい考えまではわからないよ」


そうですか・・・


「おや?あそこにいるのは?」


探偵の数メートル先に白い塊が落ちていた。

路地の陰で隠れているようだった。

私達は急ぎ、向かう。


「これは酷い」


「なんて事を...誰が!」


探偵は悲しみ、私は激怒する。

それもそのはず。

今回の目的の白猫が、酷い怪我を負っていた。

目立つ裂傷と白と赤のコントラストは私の心を痛めつけた。


ふと、何かが脳裏に流れる。

それは一瞬で、すでに思い出せなかったが。

確かに感じた。

目の前で誰かが血だらけになっている記憶を。

しかし、背を向けているため誰かはわからないし、私は誰かに守られる程の事件に遭遇した試しがないので何の記憶だろうか不思議に思った。

そして思い出せなくなっている。


「マユ。大丈夫かい?ボーっとして」


探偵さんの呼びかけで我に帰る。


「ああ、大丈夫です。なんですか?」


探偵は複雑な表情をした。


「・・・可哀想だが、依頼主に届けなくてはならない。非情に思うだろう。しかし、慈善事業ではないからね」


これが意味する事。

それは、重症だが病院に連れて行くのはあくまで依頼主。

何故なら、自らの飼育管理が悪く招いた事なのだから、私達が関与する道理はない。

そう意味していた。

この世は『義理と人情』。

優先されるのは『義理』だから、『情』はかけられない。


私も複雑な表情になってしまった。

しかし、探偵はダンボールに自身のマントを敷き、猫をそっと入れる。


「・・・運んでいる途中に死なれては困るからね」


優しい表情で猫に話しかける。

その後も、これ位しか出来ないのが腹立たしいよ。

と、私たち聞こえない様に小さな声で猫に話しかける。

やはり、探偵さんは優しいのだ。


_____________________________________________



「ええ。此方になります。私らが見つけた時にはもう。...はい。概ね、愉快犯かと。...はい。ありがとうございました」


私は門の前で待っているが、探偵は玄関で依頼主と話をしている。

所々、聞こえてくる声を頼りに内容を把握しようとする。


その中で一番聞こえて欲しくない単語が出てきてしまった。





「じゃあ、もういらない。捨てといて」




私の中の何かが膨れ上がった。

意識していないのに、目が大きく開いてしまう。

手から血が出るのではないかと思うくらい、握り拳に力を入れてしまう。

私が必死に濁った色の殺意を抑えていると


「マユ。気持ちはわかるよ。だけどね、こんな飼い主は少なくないよ。面倒見切れなくなったら外に捨てる。だから捨て猫は減らないんだ」


優しい声色に私のドス黒いものが浄化されていった。

何度目だろうか、探偵さんに救われるのは。


「...だって...だって!」


もうそれ以上の言葉が出なかった。

マユは必死に涙を堪える。

代わりに探偵は広く寂しいしわくちゃな背中を向ける。

オレンジの夕日がマユのどこかにおちてきた。


「急いで移動しようか。治るものも治らなくなる」


持っていたダンボールと共に紫に近づく夕日へ向かうその背中は寂しさと温かさでいっぱいだった。





三週間後、屋敷に美しい毛並みの白猫が舞い降りた。




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