さがしもの
短めに書いていこうと思います。
前回の話はどんな風な謎解きかを形作りたかったので、多めな内容になりましたが、今回からは2〜3千文字程度で読みやすく書けていければと考えています。
自室のベッドの倍以上はあるような大きいフカフカのベッドで目を覚ます。
小鳥の囀りが目覚ましの代わりに私を呼び起こす。
時計を見ると10時を回っていた。
昨夜は沢山の出来事があった。
自殺をして、事件の解決を目の前にして、初めての事が多すぎた。
全部、全部、初めての事なのに、何処か懐かしさを感じて。
何処か温かな気持ちでいっぱいだった。
初めて寝るベッドで寝付きが悪かったのかもしれないのに気持ちは爽快だった。
とりあえず、屋敷の主人である探偵さんに挨拶をする。
そう決めた、マユは貸し出されている屋敷内の自室から出る。
見た目に反して所々、老朽化が進んでいるのか扉が重く感じた。
廊下へ出て、書斎へ向かう。
とても老朽化している素振りを見せない内装と、夜と朝とでは見方の違いもあり、置物などに目が映る。
書斎へ入ろうとしたが話し声が聞こえた。
「ふむ。やはり、頚椎が...残念だ。_____あぁ。いつもの事だ。今回は少しばかり厄介だが。_________そうだろうね。君にはわからないだろう。___________うむ。それでは」
扉が少しばかりしか開いていなく、内容をしっかりとは聞き取れなかったが、また事件の事だろう。
私は話が終わったのを確認すると書斎へ入った。
「おや、お目覚めかね。マユ」
人からは愛川かアイちゃんで呼ばれ、下の名前で呼ばれる事が少なかったから多少ドキリとした。
「おはようございます」
「おや、顔色が優れな...いや、なんでもない。すまない、気にしないでくれ」
珍しく歯切りの悪い質問だったが特に気にすることも無かった
「あの...シャワーを借りたいのですが...」
「ん?シャワーか。そうだね。場所は昨夜、説明した通りだ。それと、当分の間は居てもらうつもりだから一々断りを入れなくてもいいんだよ」
昨日、自殺をした際に屋敷の一部を破壊してしまい借金を作っている。
一体何年働く事になるのやら。
でも、私はそれでも構わないと思った。
残念ながら小さな頃に両親を亡くして以来、一人暮らしをしているため誰かと住むという感覚が無く、怖いもの見たさだが当面の間は助手を全うしようと思う。
失恋したばかりで人肌寂しいのだろうか?しかし、何故か探偵に気を許せるのもポイントの一つではある。
「では、お借りしますね」
廊下に出て、二階にあるシャワールームへと向かう。
浴室に入ると、その広さに呆気をとられる。
大浴場に近いが、大きな間取りにシャワーは一つ。
浴槽も本日からお世話になっている大きなベッドと変わらない位の大きさだ。
なんだろう、贅沢感があって入るのに躊躇してしまう。
まだまだ拭いきれない不安要素が体外にも現れたのか、大好きな筈のお風呂が温かく感じれず、水が肌に触れている感覚しか無かった。
「あ、洗面道具とか家から持って来なくちゃ」
やっぱり、広い風呂場には慣れないなぁ。
空の独り言が浴室で反芻した気がした。
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風呂から上がり着替えを調達した後、再び書斎へ戻る。
「おや、似合っているじゃないか」
置いてあった着替えの事だろう。
シワひとつ無い純白の浴衣。
透明感溢れるこの和服は触っただけで高級なものだと分かった。
いいんだろうか?私なんかが大層なものを着て。
まさしく、馬子にも衣装。
服に着られていそうだが。
「君の考えている事にはならないさ。充分魅力的さ。それにその服は愛おしい人に着てもらうつもりだったから」
また、考えを読まれたがもう慣れている。
しかし何故、私に着替えさせたのだろうか。
それこそ、愛する人に着てもらえばいいのに。
「あの、なんで私なんですか?」
探偵は軽く笑って見せると左手で頬杖をついた。
「理由は前文の通り。しかし、私の愛する人は既に亡くなったんだ。最近に」
だから昨日から時々、失った笑顔を見せたのだろう。
「ごめんなさい」
「何故謝るんだい?」
「聞いちゃいけない事を聞いた気がして...」
「はは。構わないよ。私もクヨクヨしていては仕事にならないからね。それに人の生き死にを見慣れていてね」
さらりと悲しい事を言う探偵の顔は透明だった。
本当に気にしていないかの様な、そんな素振り。
気を遣わせてしまっただろうか。
「さて、そろそろ仕事に取り掛かろう。マユを待ち過ぎて1人で始めるところだったよ」
あはは〜すみませんと苦笑いをすると、探偵は机の引き出しから今回も書類を取り出した。
「今回の仕事は捜し物。もっと言えば迷い猫ってやつだね」
私は昨日の仕事内容からの温度差でポカンとしていると
「ん?何か不満そうだが、探偵は他人の動静や秘密を探すのが本職なんだ。事件の解決は本来するべきではないのだよ。もっとも、暴いているうちに事件の解決となる為、探偵のイメージとして定着しているんだろう。」
私達探偵は言わばヒント出し係みたいなもの。なんだけどね。と言うと写真をジッと見ていた。
「あの...」
何か発見したのだろうか。
昨日で既に洞察力の良さが分かっている。
写真を見ただけで場所を特定したのだろうか。
「・・・あぁ、すまない。少しこの猫に見惚れてしまってね」
すると、探偵は写真を机に置いた。
そこには真っ白な猫が写されていた。
確かに美しい見た目をしている。
血統書付きと言っても過言ではない位に。
「猫、好きなんですか?」
「あぁ。大好きさ。恋人だった事もある!」
ババン!と、声高らかに言う姿はかなりの愛猫家だろうと察した。
私はこれと言って、何が好きというのも無いから少しだけ憧れた。
「今回の目標この猫を探す事。そして当たり前だが、見つけれないと報酬は貰えないんだ。三日三晩探し続けてもね」
今度は
うわぁ、結構過酷だな。
どれだけ頑張っても結果を残せなかったら意味を成さないなんて。
でも、世の理も同じだ。
私も、結果を出せずにいたから分かる。
結果を出してから初めて過程も評価される。
「さて、猫探しとは骨の折れる様な仕事だが・・・今回は2倍の効率だからね。前回みたく10日も掛からないだろう」
やれやれ、と席を立つ探偵。
と言うか、探偵さんは初めての猫探しではないのか。
・・・10日?!
まぁ、意外だが私も十数年以上前に何かを探して街中を歩いていた記憶がある。
しかし、本当に小さな頃だったので親がまだ生きていたのも覚えている。
あの時は何を夢中に探していたのだろうか?幼い自分に問いかけたい。
ただ、家族のような、ペットのような。
そんな大事な何かを探してたのは憶えていた。
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